「公示価格」と「実勢価格」の違いをプロが解説！不動産売却で損しないための価格の見極め方

家の売却を検討中のあなたへ

不動産の価格を理解するうえでもっとも重要なのが、公示価格と実勢価格の違いです。

この2つの価格は算出方法や用途が大きく異なるため、不動産売却における価格設定にも大きな影響を与えます。まずは、それぞれの基本的な定義と特徴を確認しておきましょう。

「公示価格」とは、国土交通省が地価公示法に基づき毎年3月に発表する、全国の標準地における1m2あたりの土地価格のことで、「公示地価」とも呼ばれます。地価の指標として、路線価のベースや収用など公共事業の補償算定などにも用いられています。

一方「実勢価格」は、市場で実際に取引された価格です。売主・買主の条件や交渉によって決まるため、公示価格とは異なるケースが多く見られます。

なお、土地の価格は「一物四価（いちぶつよんか）」と呼ばれており、公示価格、基準地価、固定資産税評価額、相続税評価額など、目的に応じた異なる価格が存在します。

実勢価格はそれらとは異なり、もっとも現実的な「市場価格」といえるでしょう。

コロナ禍期を除いてここ10年の不動産市場では、都心部を中心に地価の上昇傾向が続いています。2025年の公示地価でも、東京23区をはじめとした都市圏の住宅地や商業地で上昇が見られました。

しかし、実勢価格は物件の条件や周辺環境により大きく左右されるため、公示価格と同じように上昇しているとは限りません。

実勢価格は以下のような個別の要因によって大きく変動します。

これらの要因により、公示価格に比べて高くなる場合も、逆に安くなる場合もあるでしょう。

公示価格は「標準的な条件」のもとで設定されており、現実の取引では、個別の事情や条件が大きく影響します。

さらに、利用目的（実需か賃貸用か）によっても価格が変動することがあります。周辺開発の予定（見込み度合いによる）など、タイミングによって評価が変わるケースも珍しくありません。

そのため、査定価格が想定より低い場合でも、公示価格と実勢価格の差を知っていれば納得しやすくなります。実勢価格を正しく理解することで、過剰な期待や不安を避け、現実的な売却戦略を立てられるでしょう。

では、実際に自分の不動産の実勢価格を調べたい時は、どうすればよいのでしょうか？以下の3つの方法が有効です。

国土交通省が運営する「不動産取引価格情報検索サイト」では、全国で実際に取引された不動産の価格情報を閲覧できます。

たとえば、エリアや築年数、間取り、面積などの条件を絞り込み、自分の物件に近い条件の取引事例を探すことが可能です。

とくに土地やマンションなど、条件が比較的揃いやすい物件であれば、相場感をつかみやすい傾向にあります。成約事例に基づいたリアルな価格情報を得られるため、売却価格を考えるうえで信頼できる参考資料になるでしょう。

ただし、半年～1年以上前の事例も含まれるため、直近の動向は補完的に捉える必要があります。

大手不動産ポータルサイトでは、現在売り出されている物件情報を確認できます。

自分の物件と近い立地・築年数・広さの物件がいくらで出ているかをチェックすることで、市場の売出し価格の傾向がつかめるでしょう。

ただし注意点として、売出価格はあくまで「売主の希望価格」であり、実際の成約価格とは異なります。人気エリアでは早めに売却されることも多い一方で、相場より高く設定されているために長期に渡って売れ残っている物件もあります。

価格を見る際には、掲載期間や値下げ履歴などにも注目することで、より精度の高い判断ができるでしょう。

もっとも正確な実勢価格を知るためには、不動産会社への査定依頼が有効です。

不動産会社の査定では、周辺事例の比較や建物の状態、接道状況、近隣の取引傾向なども考慮して価格を提示してもらえるため、個別性を反映したリアルな相場がわかります。

おすすめなのが、一括査定サイトの活用です。インターネット上で物件情報を入力するだけで、複数の不動産会社から無料で査定額が提示されるため、自宅にいながら簡単に比較検討ができます。

価格だけでなく、各社の対応や販売戦略も比較材料になるため、納得のいく売却パートナーを選ぶうえでも有効な手段です。

ある程度の価格感を自分で把握したい場合は、公示価格をベースにした簡易的な計算も可能です。

実勢価格は個別の条件によって変動しますが、全国統一で公表されている「公示価格」をもとに、おおよその価格を求めることができます。

以下のような簡単な計算式が用いられます。

この「1.1～1.2」という数値は、公示価格に対する市場価格の調整係数を示したもので、地域や時期によっても変動があります。一般的には、公示価格より10～20％程度高い価格帯で成約するケースが多いため、このような計算式が目安として使用されています。

ただし、取引事例が少ないエリアや、特殊な立地条件を持つ物件では、この目安が当てはまらない可能性もあるため、あくまで参考値ととらえましょう。

この場合、実勢価格の目安としては、およそ3,300万～3,600万円の範囲が想定されます。売却時の価格設定や不動産会社への相談の際に、この価格帯を1つの基準として活用できます。

なお、この計算では土地のみを想定しています。建物がある場合は、築年数や構造、設備の状態などに応じて、大きく変化します。

また、公示価格は年1回（毎年3月）発表されるため、タイミングによっては市場価格との乖離が生じていることも少なくありません。計算後は、直近の取引情報や査定結果と照らし合わせながら、最新の相場感をつかむようにしましょう。

実勢価格を把握したうえで、売却価格をどう設定するかが重要です。以下の点に注意しましょう。

土地だけでなく、建物がある場合はその評価も加味されます。

築年数が経っていても、需要があって、内外装がきれいにリフォームされている物件は、築年数に比して高く評価されることもあります。とくに水回りの設備や外壁塗装などが新しくなっている場合は、買主からの印象も良く、成約に結び付きやすくなるでしょう。

一方で、老朽化が進んでいる建物は「建物評価ゼロ」となるケースもあり、その場合は解体費用を見込んで価格を調整する必要があります。買主が建物を取り壊して新築する前提で購入する場合は、売主側で事前に解体見積もりを取っておくと安心です。

最初から高めの価格を設定し過ぎると、内見者が集まらず売却期間が長引くこともあるでしょう。とくに相場とかけ離れた価格設定は、「相場感のない売主」と見なされ、問い合わせすら来ない原因になります。

一方で、相場より安く設定し過ぎると損をしてしまいます。交渉によって多少の値引きがあることも見越して、少し余裕をもたせた価格設定を意識しましょう。売却開始から数週間は反応を見て、必要に応じて価格を見直す柔軟さも大切です。

不動産会社によって得意分野や査定方法が異なるため、必ず複数社に査定を依頼しましょう。

3～5社程度の査定を比較することで、より適切な価格設定が可能になります。査定額に大きな差がある場合は、その根拠を詳しく確認し、もっとも説得力のある説明をしてくれる会社を選ぶことが大切です。

公示価格と実勢価格の違いを理解することは、適切な不動産売却価格を設定するための第一歩です。公示価格は標準的な指標として有用ですが、実際の売却では実勢価格により近い価格での取引が成立します。

不動産情報ライブラリやポータルサイトで市場動向を調査し、複数の不動産会社から査定を受けることで、より正確な価格把握が可能になります。適切な価格設定により、納得のいく不動産売却を実現しましょう。

売却を成功させるためには、相場感の把握が何よりも大切です。この記事の内容を参考に、十分な情報収集と比較検討を行って、最適な売却戦略を立ててみてください。