安心R住宅について、名前を聞いたことがあっても具体的な内容を知らないという方は多いのではないでしょうか。この記事では、中古住宅の売却を考えている方に向けて安心R住宅の概要や導入方法、導入のメリットについて具体的に解説していきます。住宅売却時に安心R住宅を導入すべきかどうかを適切に判断し、導入する際は手続きをスムーズに進めるための手引きとしてご活用ください。
「安心R住宅」って何?
不動産の売却について調べる中で、安心R住宅という言葉を聞いたことのある方もいらっしゃるでしょう。ここでは、安心R住宅がどのようなものなのか、その概要をご紹介していきたいと思います。
既存住宅の流通促進のための新制度
安心R住宅は既存住宅の流通促進のための新制度、つまり中古物件の売買をしやすくするための制度だと考えるとよいでしょう。
RはReuse、Reform、Renovationの頭文字からきており、中古住宅の売買でありがちな「不安」や「汚い」、「分からない」といったマイナスイメージを払拭することを目的としています。
安心R住宅として売りたい時はどうしたらいい?
これから住宅を売却しようと考えている方は、一定の手順を踏むことで安心R住宅として売却を進めることも可能です。安心R住宅として売却するには、国土交通省の指導のもとで、この事業に登録した事業者団体である「特定既存住宅情報提供事業者団体登録制度」に所属する会員の不動産会社を利用する必要があります。
上記リンク記載の事業者団体のいずれかに所属している不動産会社を探して、以下のような手続きを踏むことで、安心R住宅としての売却が可能になります。
・不動産業者に連絡
・専任媒介契約の締結
・インスペクション、リフォームプランの手配
・安心R住宅のロゴマークを付して広告
・購入希望者と売買契約を締結
まずは「安心R住宅」に登録している不動産会社を探し、安心R住宅として売り出したい旨を伝え、具体的な手続きについて詳細を確認しましょう。
「安心R住宅」の条件とは?
安心R住宅として認定されるには、
耐震性があり、インスペクションを実施しており、かつリフォームについて情報提供が行われる中古住宅である必要があります。
具体的には以下の3つが条件です。
①基礎的な品質があり「安心」 |
②リフォーム工事を実施するかリフォームプランが付いていて「きれい」 |
③情報が開示されていて「わかりやすい」 |
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
①基礎的な品質があり「安心」
安心R住宅は中古住宅でも安心して住めるよう、住まいとしての基礎的な品質を備えている必要があります。
たとえば、耐震性能については昭和56年改正以降の建物に適用される新耐震基準に適合しなければなりません。そのほか、柱や壁、屋根、開口部、外壁なども基礎的な品質を備えている必要があり、これらは専門家によるインスペクションにより詳しく調査される必要があります。
②リフォーム工事を実施するかリフォームプランが付いていて「きれい」
安心R住宅では適切に管理されており中古住宅の「汚い」が払しょくされる必要があります。具体的には、売却前にリフォームが実施されているか、工事を実施していない場合には費用情報を含むリフォームプランをつけなければなりません。また、売却時には外壁や主な内装、水廻りの現況について写真で閲覧できるようにします。
③情報が開示されていて「わかりやすい」
安心R住宅では売却時に過去の点検記録など保管状況について開示され、「分からない」を払拭する必要があります。
具体的には、以下のような情報について「広告時に情報の有無の開示」を、「商談時に詳細の提示」をしなければなりません。
・検査基準の適合状況や工事の実施状況
・建設時の状況
・保険や保証に関する情報
・(マンションの場合)共用部分の管理状況
・上記それぞれに関する書類の保存状況等
安心R住宅で売る場合のメリット
売主が安心R住宅として売却するメリットとしては、以下のようなことが挙げられます。
それぞれについて見ていきましょう。
早期売却が期待できる
安心R住宅は買主の感じやすい不安を解消できるよう設計されていることから、早期売却を期待できます。また、耐震基準に適合している必要があることから「瑕疵保険に入れる」ことや「住宅ローン控除の適用を受けられる」ことも大きなメリットとなるでしょう。
トラブル回避できる
中古住宅の売却では、契約書に記載の内容と実際の売却物件の状況が異なる場合、中古住宅の売却後も一定期間売主が責任を負わなければならない「契約不適合責任」があります。たとえば、契約不適合責任は物件に雨漏れなどがあったとしても、そのことを売買契約書に記載していれば売却後の責任を回避できる可能性は高いです。安心R住宅は売却する物件について詳細な情報を相手に開示することから、契約不適合責任により責任を追及されるといったトラブルを回避しやすくなります。
なお、そもそも安心R住宅は雨漏れがないことが条件です。仮に売却する物件に雨漏れする可能性があるようであれば、売却前に修繕する必要があります。
安心R住宅の注意点
一方、安心R住宅には以下のような注意点があります。
・比較的簡単に取得できる |
・知名度がまだ低い |
・コストが高くなる |
それぞれ解説していきます。
比較的簡単に取得できる
安心R住宅は制度の運用がスタートしたばかりで、比較的簡単に取得できてしまいます。事業者団体ごとに規定やルールが異なるなど統一性が担保しておらず、また情報の正確性については事業者団体が保証するものではありません。今後、よりルールが統一化・厳格化の方向に動いていけば取得は難しくなるかもしれませんが制度としての価値は高まっていく可能性があるでしょう。
知名度がまだ低い
安心R住宅は知名度がまだ低い状況にあります。買主側の不安を払拭することでより円滑に中古住宅の売買を進めていくことが目的であることを考えると、広く一般に知れ渡っていない状況では折角安心R住宅として売却したとしても効果は限定的になってしまうでしょう。なお、令和2年5月の国土交通省により発表された「既存住宅市場の活性化について」によると、令和元年9月の段階で売主からインスペクションのあっせんの希望があった割合は5.9%程度、買主からのあっせんについては0.6%程度と非常に低い状況です。
コストが高くなる
安心R住宅ではインスペクションの実施に費用がかかりますし、インスペクションの結果補修工事や耐震改修が必要になった場合には、その費用も負担しなければなりません。なお、インスペクションの費用は依頼する業者により異なりますが、おおむね5万円程度が相場です。不動産会社によっては専任媒介契約を結ぶことでインスペクションの費用を負担してくれるケースもあるため、興味のある方は探してみるとよいでしょう。
まとめ
安心R住宅についての概要や条件、メリット、注意点などご紹介しました。安心R住宅は、現状では課題もありますが、早期売却やトラブル回避につながることを考えると実施を検討してみるのもよいでしょう。この記事でご紹介したとおり、安心R住宅として売却するにはまず該当の事業者団体に加盟している不動産会社を見つける必要があります。また、売却時にインスペクションの費用を負担してくれる会社もあるため、査定依頼時に確認しておくとよいでしょう。
監修逆瀬川 勇造
【資格】AFP(2級FP技能士)/宅地建物取引士/相続管理士
明治学院大学 経済学部 国際経営学科にてマーケティングを専攻。
大学在学中に2級FP技能士資格を取得。
大学卒業後は地元の地方銀行に入行し、窓口業務・渉外業務の経験を経て、2011年9月より父親の経営する住宅会社に入社し、住宅新築や土地仕入れ、造成、不動産売買に携わる。
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