- 不動産投資で成功したいなら最低限「経済学」は学びましょう。
- 不確定な情報よりも、エビデンスがあるデータに基づいて市況を考察し、自分なりの投資指標を持つことが大切です。
- 良い情報が手に入りやすい環境づくりも大事。頼りに出来る不動産会社を探すのもひとつの手です。
吉崎 誠二さんプロフィール
不動産エコノミスト/社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
(株)船井総合研究所上席コンサルタント等を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルなどを行うかたわら、ラジオNIKKEI「吉崎誠二の5時から”誠”論」などテレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は年間多数。著書:「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社)など11冊。
目次
不動産投資で成功したいなら経済学を学ぶべき
吉崎 誠二さん(以下敬称略)「15年間コンサルティング会社で住宅など不動産領域を主にやっていたのですが、当時は、エビデンスやデータではなく、経験談や主観で経営のアドバイスを行っていたので、それは良くないと。当時は不動産領域におけるエコノミストはほとんどいなかったため「不動産エコノミスト」と命名し、エビデンスやデータ、数字に基づいた解説やアドバイスをしようと思ったのがきっかけです」
ーデータとは具体的にどのようなものを?
吉崎「不動産市況を読み解くためのデータですね。不動産価格指数や証券・株式関連のデータ、キャップレートに関するデータなどをだいたい150項目程度集めています。長期的にデータを集め、検証することで、不動産市況のサイクルが具体的に見えてきます」
ー経験談ではなく、複数のデータに裏打ちされた情報を発信している。著書『「不動産サイクル理論」で読み解く不動産投資のプロフェッショナル戦術』も、一次データをいかに読み解き、自分の投資戦術を築くかについて、ロジカルに書かれていたのが印象的です。吉崎さんから見て、不動産投資の魅力とはどんなところですか?
吉崎「魅力ですか? 私個人は不動産投資を強く推奨するわけではないのですが、不動産投資では2つ利益を生み出す手段があります。1つは物件の売買で生まれる「キャピタルゲイン」、もう1つが賃料収入の「インカムゲイン」。この2つをうまく組み合わせることで収益が見込めます。また、意外と大きいのが節税対策。年収が高い方の場合、税率も当然高いので、不動産投資による収益のマイナスがあれば、損益通算制度が使えて税を抑えることができます」。
ーその反面、デメリット、問題点は?
吉崎「良い物件も悪い物件もあるので目利きするのが難しいことですね。不動産の場合、情報の非対称性ということがあり、不動産を売る側は知っている情報を、買う側は知らないという場合がある。なので、実物不動産に加えてJ-REIT(不動産投資信託)のような、プロが目利きをして情報を細かく公開しているものから選ぶというのも1つの手です」
ーやはり情報の収得と分析が不動産投資においては重要ですね。となると、不動産投資において、最低限学ぶべきものとは何でしょうか?
吉崎「やはり経済学の基礎です。不動産も『モノ』なので、需要と供給のバランスで価格が決まっていく。投資のテクニックを言う方もいますが、将来予測をするためにも、基本は経済学の原理に従うべきです。そこから不動産の価格の成り立ちを学んでいけばいいかと思います」
「本当にお得な情報」は自分で取りに行く
吉崎「一番のポイントは需要供給のバランスですが、もう少し細かく見るには、土地と建物の合計である積算価格、そして取引事例価格と、投資用不動産では収益還元価格です。投資物件の場合、賃料から経費を引いた、ネットオペレーティングインカム(純収入)を利回りで割り戻して決まる、収益還元価格が重要です。不動産などの資産価格と資産から得られる純収益の比率「キャップレート」の数字をウォッチしておくことなど、不動産価格の成り立ちを知るのは投資をする上での大前提といったところです。
ーキャップレートの数字を追いかけるのは、どれくらいの期間でチェックすればいいのでしょうか?
吉崎「年2回、春と秋にシンクタンクが出しているので、まずこれを見る。さらに賃料の動きですね。賃料がわかりにくい場合、消費者物価指数をチェックする。消費者物価指数において日本は2割程度が家賃相当分です。支出するお金の中で2割というのはかなり大きい。おそらく支出の1番か2番目に多いものだと思われます。そのため消費者物価指数の動きを見ておくと、何となくその先の動きが見えてきます」
ー数字的データの場合はエビデンスがしっかりしているからそこから自分で考察ができる。ただ、不動産投資においては、不確定な情報やネガティブな情報が入ってくることも多々あります。
吉崎「それは、ネガティブな情報ほど伝播しやすい、という側面があるからですね。不動産投資の場合“あのエリアが最近値下がりしてきたぞ”などでしょうか。それを聞くと、少し迷っている、やめておこうか、またはやめておいてよかった、につながっていく」
ーネガティブ情報を知ることで、自分の中の躊躇する気持ちが強まってしまう。
吉崎「不動産に関わらずですが、ネガティブな情報は基本遮断すること。私はよく『ニュース見るのをやめたら人生変わるよ、機嫌良く生きられるよ』と人に話しています。ネガティブな情報は遮断し、ネガティブなことを言う人とは距離を置く」
ーネガティブな情報は伝播しやすいからこそ、シャットアウトして、ポジティブに考える。そして確かな根拠がある情報をもとに自分で考え、流れを掴み取っていくことが大事なんですね。
不動産市況の現状分析と見通し予測に役立つデータとは
吉崎「不動産ID(※)の導入でしょうか。不動産IDは、土地や建物を一意に特定するための共通コードで、検索すればその不動産の履歴が出てくるようになる訳あり物件などは一発でわかるようになります。となると、不動産仲介業者は情報提供だけをするような仕事ではなくなるため、業界はどうあるべきか、大きく様変わりするのかもしれないですね」
ーそうなった場合、不動産市況も大きく変わっていくことになりますか
吉崎「市況がどうなるのかは金利次第でもあるのですが、非公開データばかりの不動産市況の場合、憶測が憶測を呼ぶので、下がり始めれば下がるし、上がり始めれば上がるというムード次第の一面があります。そのため、情報公開がどれほど進むのかにより、もっと変化が生まれてくるでしょう」
ー情報公開が進むことにより、投資家は今以上に見る目を養う必要がある。
吉崎「ただ現状分析として言えることは、今準備している物件、つまり2025〜26年に販売される新築マンションは高い価格になっている。明日金利が一気に上がって市況悪化したとしても止めることはできない。今後数年は、いわゆる都心型、高級マンションの販売が続くことになります」
ー地方や郊外では、新築マンションの動きはどうでしょうか?
吉崎「郊外は厳しいですね。ただ、盛岡駅前や福井駅前など、その都道府県の中心地的な場所の高級タワーマンションの売れ行きは好調のようです。地方でもその都市の超一等地にある物件は売れています。不動産は1にも2にもまず立地。ただし住みたい、買いたいというニーズを起こしたり維持したりしていくには、さらに物件に魅力的な付加価値がつけられているか、も大事です。データ分析からさらに踏み込んだ”目利き力“を持つことが、投資家の必要条件ですね。」
※不動産IDとは
国土交通省が定める『不動産を特定することができるID』のこと。「不動産登記簿の不動産番号(13桁)と、特定コード(4桁)」で構成され、それだけでは特定できない物件には「特定コード」が付与される。
これにより、不動産売買・賃貸の仲介時の活用、不動産管理・インフラ整備への利用などが期待できる
不動産投資のノウハウ本を読むより、本質を学ぶことがより重要
吉崎「やはり、不動産会社とあまり真剣に付き合わない人、距離を置く人でしょうか。飲食店でも一見さんより、常連さんには特別に、という場合がありますよね。不動産業界でも同じです。特別な情報を入手するには、不動産会社と良い関係を築いておいた方がいい」
ーなるほど。良い物件をいち早く教えてもらえるような関係性を築くことも成功の秘訣になる。
吉崎「あとはスマイティの情報を読みましょう(笑)。ここから法則を学んだり数字の見方を覚えたりしつつ、不動産会社からの特別な情報をもらえるようにすると。書店には『〇〇大家さんの成功法則』といった本がいくつもありますが、本を読むだけでは不動産市況や不動産投資の本質はつかめません。経済学、そして不動産の成り立ちを学ぶ。さらにエビデンスのしっかりした情報、不動産IDなどからその物件の歴史を掴むなどして、チャンスが来たら勝負に出る、というのが不動産投資におけるスマートな流れだと思いますよ」
ーノウハウ本を読むだけではダメ。不動産に関することを学びつつ、いい情報が来るよう不動産会社との関係性も築きつつ、チャンスを待つと。
吉崎「不動産投資をする上で、不動産価格指数、不動研住宅価格指数、東証REIT指数、キャップレート、国土交通省関連など、知るべきものはいくつもあります。氾濫する不確定な情報に惑わされることなく、不動産市況や不動産投資の概要を読み解くチカラを身につけて、正しい実情を掴むようにしてください」