- 不動産を扱うにはある程度の知識量が必要。不動産業者と相談者の間にある情報の不均衡を補うのが不動産コンサルタントの役割です。
- 「不動産コンサルタント」といってもさまざまです。なるべく無所属で中立の立場にいる人を探すのがベスト。
- 不動産投資はリスクを軽視すると失敗します。事業と思って本気で取り組む気がある人には可能性のある投資先でしょう。
寺岡孝さんプロフィール
【資格】不動産投資アドバイザー(RIA)/相続診断士/貸家経営アドバイザー/住宅ローンアドバイザー
アネシスプランニング株式会社 代表取締役。住宅コンサルタント、住宅セカンドオピニオン。大手ハウスメーカーに勤務後、2006年に同社を設立。個人住宅・賃貸住宅の建築や不動産売却・購入、ファイナンスなどのあらゆる場面において、お客様を主体とする中立的なアドバイスおよびサポートを行い、3000件以上の相談を受けている。WEBメディアに不動産投資についてのコラムを多数寄稿。著書に「不動産投資は出口戦略が9割」「不動産投資の曲がり角 で、どうする?」(クロスメディア・パブリッシング)などがある。
目次
不動産業界における情報の不均衡を均すのが不動産コンサルタントの役割
寺岡 孝さん(以下敬称略)「もともとハウスメーカーに勤務していたのですが、お客様の考えと会社の意向との差異を調整する役割が多く、お客様の意向を叶えてあげたくても、会社として方針が合致しない場合、お客様を説得しなくてはいけない、というケースが多かった。まだインターネットがさほど発達していない時代でしたね」
ーインターネットがない時代となると、個人が情報を簡単に取得できず、一方的な説得になっていたのでしょうか。
寺岡「不動産の専門業者に比べ購入する側は一方的に情報弱者、という状態が続いていました。そこから、お客様側に立ち、不動産や建築、住宅のコンサルタントをしよう、と思ったのが1つの契機ですね」
ー独立してからは自由にアドバイスができるようになった、と。
寺岡「ハウスメーカーにいた時も同様ですが、お客様の何千万という財産を預かる責任は大きい。お客様との信頼関係も重要になってきます。そのためコミュニケーションは密にとります。それはハウスメーカーにいた頃と変わりはないですね」
ー不動産投資を検討している若い方も結構いらっしゃいますか?
寺岡「これは一般論ですが、一部、ノリで不動産投資をやっている人もいるようですね。正確かつ詳細な情報や見識などは無く、経験値もほとんどないのに、不動産の売買や賃貸を始めようとする」
ーノリで不動産投資ですか。
寺岡「自分1人ではわからないので誰かに頼る。そのアドバイスを盲信した結果、だんだんおかしくなっていき失敗する、ということもあります。不動産投資を考えるなら、平たく言えば不動産屋レベルの知識が必要です。そこまでのレベルに自分が達していないと、資産形成は難しいですね」
ー知識を蓄えずに失敗した結果、アドバイスをもらった人を逆恨みすると。不動産投資コンサルタントは怪しい、というキーワードを頻繁に見かけるのは、そういう側面もあるのかもしれないですね。
寺岡「本来不動産投資は、投資を考える上で最後の選択となるカテゴリーです。お金に余裕があるのならいいのですが、知識がないままいきなり不動産投資を始めるのはお勧めしませんね」
不動産投資が老後不安の解消や節税対策になるという幻想
寺岡「過去のお客様で、アパートを5棟持っていた人がいますが、その方は税金対策として自分の土地にアパートを建て、相続税に備えているという方でした。税金対策でアパートやマンションのオーナーになるような方は当然資金面に余裕がある。そこそこ儲かればいい、という考え方です」
ー資金や時間に余裕のある人が節税対策で不動産投資をするのはわかるけれど、サラリーマンが儲かる、老後が安心、といった話を信じて安易に始めるべきではない?
寺岡「不動産用語に『一物四価』という言葉があります。1つの土地には、時価、公示価格、相続税評価額、固定資産税評価額があり、4つの違った価格があるということです。同じ物件でもサイトによって違う価格で表示されるなど、不動産市場は公開市場。売り手が自分たちで値段をつけて売買することの方が多いので、見極めが必要になる」
ーだからこそ不動産の知見が豊富な不動産コンサルタントが必要になる。しかし、先にも言いましたが、不動産投資コンサルタントについて調べると「怪しい」というキーワードも多く見かけます。それはなぜでしょうか?
寺岡「それは、物件を買わせることが目的のコンサルタントも多いからでしょうね。お客様の立場に立つのではなく、販売する側に近いコンサルタントもいます」
ーそれを見分けるにはどうすればいいでしょうか?
寺岡「その人がどこに所属しているのか。フリーランスなのか、不動産会社の嘱託や関連会社なのか。買う側の立場に寄り添って話しているのか見極める必要があります」
「重要な決断」をフラットな視点で解説してくれる、第3者=セカンドオピニオンの存在
寺岡「まだ日本社会は、第三者にお金を払ってそんなことを聞くのか? という風潮が強く、購入前にアドバイスを求める人は少ないです。よほど自分では手に負えない、となった際、お金を払うから処理してくれ、というパターンの方が多いですね」
ーにっちもさっちもいかなくなってから助けを求めて、という感じでしょうか? 寺岡さんがお会いした人の中で印象的だった方はいますか?
寺岡「投資マンションを複数持ち、借金が億単位になって首がまわらなくなった人がいましたね。大幅に値引きして売ることもできず、アドバイスを求められましたが、さすがにどうしようもなかった」
ー軽い気持ちで投資用マンションを買い進めた結果大赤字。だからこそ買う前に、第三者、セカンドオピニオンの存在を検討すべきだと。
寺岡「売り手側のセールスも上手いので、買う側に夢を見せてしまう。だからこそ、その価格は適正なのか、利益が見込めるのかを自分でもよく調べる。または専門家のアドバイスを受けることにより、リスクやトラブルを回避しやすくなります」
不動産投資を志すなら、腹をくくって汗をかき学ぶことが必要
寺岡「まずは自分の家を買うことです。購入して住み、余裕ができたら貸し、最終的に売ることが経験になる」
ーまずは自分の住む家を購入して一連の流れなどを体験する、と言うことですね。
寺岡「長期ローン、多額の負債を背負うことにプレッシャーを感じる方もいるかもしれないですが、不動産投資と違い、自宅購入で大失敗する人はまずいません。なぜならロケーションや間取り、物件選びなどにとことん理想を追求するからです」
ー寺岡さんの著書にもある『マイホーム投資』ですね。
寺岡「人生において、結婚、出産、転職、離婚などさまざまな転機があり、ライフスタイル、ライフサイクルが大きく変わる場合があります。その変化に応じて住み替えられる、資産価値のある自宅を購入しておくことで、『持ち家を人に貸す』ということが可能になる」
ー不動産投資を知る第一歩は、理想の自宅を持つこと、ですか。
寺岡「もし投資全般を考えるのであれば、不動産投資から始めるより、NISAの方がいいと思いますよ。あとは持ち株制度ですね」
ー勤めている会社の株ですか?
寺岡「持ち株制度の場合、会社の多くは1割負担をしてくれます。となると、月に5万円分購入した場合、実際は5万5000円分の株になる。私の後輩は、独身時代から持ち株制度を続け、現在50代ですが2000株ほど持っている。株価は現在3000円超です。個人年金や保険を検討するよりよっぽどいい」
ー積立貯金より増える可能性があり、自分の勤めている会社だからこそ今後の予測もたてやすい。
寺岡「投資先が数多ある中、あえて不動産にするのではなく、他のところにも目を向ける視野の広さを持つべきです」
ー不動産は投資の最終手段であり、知識を身につけると同時に、信頼できるアドバイザーに購入前に相談する。そして投資手段に拘らないのであれば、NISAや自社の持ち株制度などから始めてみると。
寺岡「何度も言いますが、不動産投資をしたいなら、知識が宅建業者のレベルにならないと難しい。だからこそ情報弱者の立場である購入者の側に立つアドバイザーに助言をもらいつつ、自らも、不動産についての知識を深めることが大事になってくる」
ー不動産を購入するならまずは自宅から。そして投資先は不動産に限定せず、まずはNISAや自社株などから始めて投資の仕組みを学んでいく、ということが最初の一歩、ということですね。
寺岡「今の自分は不動産投資をするべきなのかを考える。そして不動産投資を志すのであれば、不動産投資の歴史を紐解き、本質を知るために広く深く学ぶこと。そして実際に物件を見にいく、調べるなど腹をくくり汗をかくことが必要です。私は不動産投資を全て否定するわけではありません。マイホームを確保して、かつ、資金的に余裕のある人が選択する投資先としては、可能性のある分野だと思っていますよ」