不動産を学んでいると耳にする「三為業者」。
実態をよく把握して、付き合いのスタンスを決めましょう。
目次
三為業者とは何か
まず、一般の人では聞きなれない三為(さんためぎょうしゃ)業者について解説します。「三為」は「第三者の為に契約を行う」という意味で、第三者の為に契約を行う(三為契約)不動産業者を略して「三為業者」と呼んでいます。
「三為業者」はいわゆる転売屋ですので、儲かるビジネススキームとして広く使われています。
三為契約の仕組み
中間省略登記、新・中間省略登記とは
これは中間省略登記と言われており、三為業者にとっては一番のメリット材料になります。
従来の中間省略登記について
中間省略登記はA→B、B→Cの所有権移転の際に登録免許税が登記2回分必要になるところを、1回で済ますことができるメリットがありました。従来の中間省略登記は転売で多く見られる手法で、最高裁判所(最高裁昭和40年9月21日判決)も、「ABC三者の同意があれば問題なし」など一定の要件のもとに、中間省略登記が有効であると判断していました。
しかしながら、登記事務を扱う法務局は、「不動産登記は、権利の取得や移転の経緯を忠実に反映させる必要がある」としており、中間省略登記を認めていませんでした。そのため、ABC三者の同意があったとしても、AからCへの直接の移転登記の申請は受け付けませんでした。
ただ、平成17年3月以前(旧不動産登記法)までは、登記を申請する際に「登記原因を証する書面」(売買契約書の写し)を添付するとされていましたが、必須の書面ではなく、売買契約書の写しがない場合は、「申請書副本」(登記申請書の写し)という、登記義務者であるAと登記権利者であるCのみが記載される書面を添付すればOKでした。
つまり、実際にはA→B→Cと売買がなされたとしても、登記申請の際にAとCしか出てこない申請書副本を添付すれば、登記官には中間者Bの存在が分からず、事実上中間省略登記の申請が受け付けられていました。
新・中間省略登記とは?
もし、売買契約書の写しがない場合は、契約の当事者、日時、対象物件のほか、売買契約の存在と当該売買契約に基づき所有権が移転したことを売主が確認の上、記名押印が必要になりました。
これにより、従来の中間省略登記は事実上使うことができなくなってしまったので、中間者の存在が分からない転売目的とする不動産売買契約ができなくなってしまったのです。
ただし、転売目的でないケースで、AからCへの直接移転登記が必要なケースも実務上にはありました。そこで平成18年12月21日、内閣の諮問機関「規制改革・民間開放推進会議」の第3次答申において、同会議が法務省から「第三者のためにする売買契約の売主から当該第三者への直接の所有権の移転登記」または「買主の地位を譲渡した場合における売主から買主の地位の譲受人への直接の所有権の移転登記」という形であれば、AからCへの直接の移転登記申請が可能である旨を確認し、この回答の内容を平成19年1月12日法務省民事局から全国の法務局へ通知されました。
この「第三者のためにする売買契約の手法を用いた直接の移転登記」や「買主の地位の譲渡の手法を用いた直接の移転登記」は、ABCの三者が取引に関与しますが、AからCへ直接の移転登記を認めるものであり、登録免許税・不動産取得税も従来の中間省略登記と同じく1回で済むことになるので、「新・中間省略登記」とも呼ばれています。
新・中間省略登記には2種類ある
第三者のためにする売買契約(三為契約)
買主の地位の譲渡
「三為契約」と 「買主の地位の譲渡」を比較すると、 「買主の地位の譲渡」はAB間の契約上の地位をCが引き継ぐため、AB間の売買代金額はCに知られてしまいます。
「三為契約」の手法は、AB間売買とは別にBC間で売買契約が結ばれ、AB間の売買代金額はCに知られないで済みます。したがって、不動産業者は「三為契約」の方を使う場合が多いのです。
もちろん、どちらも中間業者には登録免許税・不動産取得税はかかりませんので、エンドユーザーに高値で転売した不動産業者は上乗せした分が儲けとなるのです。
三為契約は違法なのか?
現在では従来の中間省略登記は禁止されており、新・中間省略登記を行う三為契約は違法ではありません。三為契約については民法537条~538条に記載されており、法律で認められた契約行為です。したがって、法令を遵守すれば違法にはなりません。
悪質な三為業者には要注意
数年前に起きた「かぼちゃの馬車」事件は売主が三為業者の不動産会社でした。女性用シェアハウスをサブリース契約で運営するという投資ビジネスでしたが、そもそもは安く仕入れた物件をエンドユーザーに高値で売ることで利益を得ていたというもので、最終的には経営破たんしてしまい大きな社会問題となりました。
物件の価値は購入金額よりも大きく下回る物件ばかりでしたので、オーナーが物件を売却しようとしてもローンの完済ができないのが現実でした。加えて、そうした担保価値が低い物件に対して、不動産の評価改ざんに目をつぶって、高い金利で積極的に融資した銀行も問題視されました。
同じような被害にあうのを避けるために、悪質な三為業者のスキームには注意を払う必要があります。
三為業者を利用するデメリット
取引価格が不透明
三為業者は仕入れた物件価格に2~3割程度上乗せして買主に売買しているとされています。したがって、第三者の買主にすれば、市場価格よりも高い値段で物件を買うことになります。こうした背景から、売買金額の設定や透明性に疑問を感じてしまいます。
提携ローンが高金利
とくに、仕入れた物件を早く第三者に転売したいために、自己資金過少や年収が少ないなど、属性が芳しくない第三者へ売買する場合には、物件に係る登記費用などの諸費用をプラスしてローンを組むケースがあります。
三為業者の儲けの構造
たとえば、A銀行では3,000万円まで、B銀行では3,200万円までなら融資するという事前承認を取り付け、一番高い融資金額を出した金融機関、この場合ではB銀行を採用して物件を売買するということになります。
加えて、市況よりも高い金額での融資を引っ張るために、不動産鑑定を入れるケースも少なくありません。こうした流れで三為業者は儲けを捻出していきます。したがって、第三者の買主は市況よりも高値掴みをしてしまうこともあります。
売主・買主ともに経済的損失
しかしこれは、売主から見れば「もっと高い金額で売れたのに」ということになり、買主から見れば「もっと安い金額で買えたのに」ということになります。その結果、売主、買主双方とも金額的には経済的損失が生じるといえるでしょう。
条件の悪い物件を押し付けられる可能性
三為契約では買主は不動産業者が物件をいくらで仕入したかがわかりません。したがって、エンドユーザーは高値掴みになる傾向にあります。不動産業者が売主となる場合には金融機関の融資が確実な面がありますが、物件自体の価格が高値になるので収支が悪くなります。個人の売主から直接、物件を購入することが出来れば比較的安価なものとなりますが、個人でのローン付けが難しい属性ですと三為契約での物件を購入せざるを得ないというのも現実です。
三為業者を利用するメリット
仲介手数料はかからない
契約不適合責任を追及できる
融資がついている物件が多い
三為業者の見分け方
甘い言葉には裏がある?!
そのため、登記費用やローンの諸費用を無料と称してサービスしたり、サブリース契約で相場より高めの家賃を2年間だけ設定していたりなど、あらゆる手段で契約まで誘導します。このような上手い話が出たら警戒しましょう。
決断を急がせがちな業者は怪しい
売買契約書の特約事項をチェック
なかでも特約事項の欄は注視しておく必要があります。口頭では説明の無い重要な点が記載されていますので、その内容はよく把握しておき不明な点があれば不動産業者に確認しましょう。
あまりに不明瞭な場合には契約を辞めることも視野に入れておくべきです。
登記簿情報の照合を
したがって、所有権が折衝中の不動産業者の名義でない場合には三為業者である可能性が高いと思っていいでしょう。
まとめ
三為契約や三為業者には違法性はありませんが、不明瞭なビジネスモデルから不信感を抱く場合があります。
しかしながら、それぞれにもメリットがあるので内容をよく理解したうえで利用するか否かを考えるみることも必要です。条件が合えば三為契約や三為業者を利用してみましょう。
三為契約や三為業者を利用する際には、その契約内容や業者自体をよく調べる必要があります。業務自体が粗い不動産業者もいますので注意が必要です。
不動産を学んでいると耳にする「三為業者」。
実態をよく把握して、付き合いのスタンスを決めましょう。
この記事の監修者
不動産投資アドバイザー(RIA)/相続診断士/貸家経営アドバイザー/住宅ローンアドバイザー
アネシスプランニング株式会社 代表取締役。住宅コンサルタント、住宅セカンドオピニオン。大手ハウスメーカーに勤務後、2006年に同社を設立。
個人住宅・賃貸住宅の建築や不動産売却・購入、ファイナンスなどのあらゆる場面において、お客様を主体とする中立的なアドバイスおよびサポートを行い、3000件以上の相談を受けている。
WEBメディアに不動産投資についてのコラムを多数寄稿。著書に「不動産投資は出口戦略が9割」「不動産投資の曲がり角 で、どうする?」(クロスメディア・パブリッシング)など。
三為契約は不動産業者とっては儲かるスキームですが、転売先であるエンドユーザーの探索が大きな負担になります。 予定通り転売先が見つかればいいのですが、転売先が見つからないと売買契約書通り、不動産業者自身が買取することになります。その場合、売主には売買代金全額は支払うものの、所有権移転を留保してもらう承諾を取り付け、所有権移転登記は転売先が見つかるまで待ってもらうことが散見されます。つまり、初めから登記費用や不動産取得税は払う気がないというのが実態でもあります。したがって、不動産取引の詳細は確認することが望ましいと思われます。