不動産投資の利回りの最低ライン?
利回りは投資不動産を選ぶ時の重要な指標となります。
どれくらいの利回りを期待するか(欲しいと思うか)は、市況に大きく左右されます。不動産投資が活発な時にはかなり低くても投資したいと思う方が増え、逆に、不況期などは高利回りを求める傾向にあります。
しかし、不動産は個別性が強いため、適切な利回りというものは存在しません。そのため、利回りの目安(基軸)になるのが、いくつかのシンクタンクなどが公表しているキャップレート(期待利回り)です。
投資不動産を選ぶ際の利回りは数ある基準の中の1つに過ぎません。個別の投資条件や投資目的、エリアなどによって最適な物件・適切な利回りは変わってくるものです。
このような不動産投資の原則を踏まえた上で、以下より細かい解説をします。
利回りの最低ラインは条件によって変化する
利回りの目安を考える時には、物件のエリア(立地・駅などからの距離)や物件の種類(SRCマンション、木造アパート、一戸建て賃貸など)、築年数など条件によって変化します。物件を比較する時には、これらの条件を考慮しながら比較検討すべきです。単に利回りが高いからといって、魅力ある物件とは限りません。
投資の目的や方針によっても利回りの考え方は異なる
利回りの考え方は、投資目的や投資方針によっても変わってきます。
たとえば、長期投資が目的ならば、相対的に利回りが低い物件であっても、好立地で空室確率の低い物件を選択したほうがよい場合もあるでしょう。また、相続対策で物件を選ぶのであれば、評価減の特例の効果が大きい物件を選んだり、複数の子に平等に相続させるために複数の区分マンションに投資したりするということも考えられます。この場合も単に利回りのみでは物件の優劣をつけられないことになります。
知っておくべき利回りの傾向
情報サイトには多くの投資物件が紹介されており、利回りもさまざまです。物件を比較検討する際には、利回りの傾向を知っておくと便利です。周辺の物件よりも比較的高い・低い物件があるならば、その理由を探っていくことで、物件を見る目が養われていきます。
新築は低く中古は高い
「新築プレミアム」という言葉をご存じでしょうか。新築物件の価格は用地価格、建築費、広告費などの経費に利益を上乗せして値付けされますが、新築物件は数が少なく真新しい物件を所有するプレミア感があるということで、結果的に周辺物件より1~2割高値で販売されることが多くなっています。そのため、新築物件の利回りは低くなりがちです。相対的に価格の低い中古物件は、同一条件ならば利回りが高くなります。
都心は低く地方は高い
都心物件と地方物件では地方物件のほうが利回りは高くなります。
都心のほうが、物件価格は高くなる一方で、家賃は物件価格に比例して上昇するわけではないことから、都心の投資物件は利回りが低くなりがちです。もっとも、地方物件は空室リスクや流動性リスクが都心物件よりも高いと考えられることから、その分のリスクが利回りに影響してきます。
頑丈な建物ほど低い
SRCやRCのマンションと木造アパートでは、木造アパートのほうが利回りは高い傾向にあります。
これは、築年数の経過に連れて物件の価値がどれぐらいのスピードで減少していくかという点を考えると合点がいきます。築20年の木造アパートは、法定減価償却に従えば、建物価値がかなり減少しているのに対して、SRCマンションの価値は木造建物に比べて減少割合が小さいため、木造アパートの利回りは比較的高めに設定される傾向にあるのです。
駅から遠い物件のほうが高い
駅近の物件と駅遠の物件では、駅遠の物件のほうが利回りは高い傾向にあります。
駅近の物件は人気があり買い手が多いために物件価格が高くなりがちです。そのため利回りが比較的低い物件が多くなります。駅遠物件は地価が抑えられるため利回りを高めに設定できますが、その分空室リスクには注意が必要です。
高利回り物件はココに注意!
これまでの説明で、利回りが高い=よい物件でないことは理解していただけたのではないでしょうか。
それでも高利回り物件に魅力を感じる時には、以下の事項をチェックして、事業計画に織り込んでおきましょう。自分の投資目的に合った物件ならば、積極的に投資を考えるのもアリです。
出口戦略が取れない場合がある
「出口戦略」とは、どのように投資を終了させるかの戦略です。不動産投資の場合には、投資物件として売却する、保有し続ける、解体して土地を売却する、の三択になります。高利回り物件は駅遠である、地方・郊外物件であるなどの理由で買い手が見つかりにくい案件が多いので、どのように投資回収を図るかについては投資前からイメージを持っておく必要があります。
利回りのみで投資回収を考えるならば、物件の耐用年数が十分か、数年後も同じぐらいの利回りが期待できるかという点を検討しておく必要があるでしょう。
空室対策が必要
物件情報に表示されている利回りには、表面利回り、実質利回りなどいくつかの種類がありますが、いずれの利回りも空室リスクや賃料下落リスクが考慮されていません。現況利回りが表示されていても、現況の空室が少ない場合には利回りを維持するためには空室対策が必要です。
事業計画を立てる時点で、空室対策の広告費や設備更新などの予算が組み込まれているかをチェックしておきましょう。
修繕費用がかかる可能性がある
築年数が古く高利回りの物件は、修繕費用がかかる可能性があります。場合によっては、修繕費用を差し引いて物件価格を設定しているために、見た目の利回りが高いだけかもしれませんので騙されないようにしたいものです。
修繕費を検討したうえでもなお投資したい物件であれば、積極的に狙っていくことも考えます。
管理が悪かったり、問題の入居者がいたりする
管理が悪い、問題の入居者がいるなど、買い手がつかない理由があることで、値下げされている物件に出会うこともあります。このような物件については、購入後に改善していく必要があるために、投資上級者向けの物件といえるでしょう。初心者は慎重になるべきです。
管理会社を変更して改善される見込みがあるならば、事前準備のうえで検討するのも1つの手です。
利回りの応用知識も学んでおこう
一般的な利回り計算ではローンや税金・減価償却費などが考慮されていません。不動産投資のプロは利回りを単なる目安として考え、さらに深く投資効果を検討していきます。より一歩進んだ指標として、以下のような指標を覚えておくとよいでしょう。
イールドギャップとローン定数
不動産投資におけるイールドギャップは、物件の実質利回りと借入金利の差を言うことが多くなっています。実質利回りが5%、借入金利が2%だとイールドギャップは3%です。
もっとも、この計算には借入期間が考慮されていないために、借入期間が短期だとキャッシュフローがマイナスになってしまう可能性があります。そのため、イールドギャップの計算は、借入金利ではなくて、ローン定数(K)と呼ばれる数値を活用することがあります。
ローン定数(K)=(年間元利払い金額)÷(借入総額)×100 |
この場合は
借入年数が長くなるほどローン定数が低くなり、イールドギャップが高くなります。長期投資を目的とするならば、借入年数を加味したイールドギャップを比較検討してみるのもよいでしょう。
ROI利回り
ROI(Return on Investment)とは、年間の手取りキャッシュフローが投資資金に対してどれぐらいの利回りになっているかを表す指標です。
実質利回りと考え方は似ていますが、キャッシュフローを計算する際に借入の元利返済分まで差し引くところが異なります。
(ROI利回り)=(経費・元利払い差引後のCF)÷総投資額(借入分を含む) |
借入金利、借入額、借入期間などの融資条件によってROI利回りが変わってきますので、より現実的な利回りによって物件を比較検討できます。
CCR(自己資本回収率)
CCR(Cash on Cash Return)とは、自己資本に対してどれぐらいの利回りが確保されているかを測る指標です。CCRは、ROIの分母から借入分を差し引いて自己資本のみで計算します。
(ROI利回り)=(経費・元利払い差引後のCF)÷自己資本投資額(借入分を含まない) |
CCRは自己資本の投資効率を重視した指標です。すなわち、同じキャッシュフローならばローン比率(LTV=Loan to value)が高いほどCCRが高くなります。これは、自己資本の投資回収までの期間が短いことを意味しており、投資効率が高いと評価します。
一方で元利払いの割合も高くなり、空室が出た時の収入の減少によってキャッシュフローがマイナスになるリスクも同時に高くなる傾向にあります。
まとめ
投資不動産情報には必ず投資利回りが記載されています。しかし、単に表示されている利回りが高いという理由だけで投資決定するのは危険です。自分の投資目的、投資方針によっては、利回りが低くても安定収入が見込まれる物件、もしくは節税効果が高い物件を選択するのがよい場合もあるからです。
投資物件を検討する際には、今回紹介したチェックポイントを参考にしながら、自分で利回りを計算して比較検討してみることをおすすめします。
この記事の監修者
吉崎 誠二
不動産エコノミスト/社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、等を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルなどを行うかたわら、ラジオNIKKEI「吉崎誠二の5時から”誠”論」などテレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は年間多数。著書:「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社)など11冊。
吉崎誠二公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/
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●また、具体的なご相談事項については、各種の専門家(税理士、司法書士、弁護士等)や関係当局に個別にお問合わせください。
購入検討物件の利回りが妥当か、あるいは高いか低いかは、数字で判断するのではなく、目安の数字を基にするとよいでしょう。感覚での判断は、NGです。