アパート経営を取り巻く環境の変化
これからのアパート経営を取り巻く環境には、さまざまな変化が起こることが考えられます。いわゆる生産緑地の2022年問題では、生産緑地農家の多くが指定の解除を選択すれば、その農地が宅地に転用され、アパートやマンションが急激に増加することも考えられます。そうなれば、住宅の供給過多となり、ますます空室率が上がることが考えられるでしょう。
また、シェアハウス業者の事件をきっかけに、アパート経営をはじめ不動産投資への金融機関の融資が引き締められるようになっています。2020年のオリンピック後、オリンピック需要としての不動産や設備への投資がなくなることからくる景気後退も予測されています。このように、今後のアパート経営はこれらの社会動向を踏まえながら行っていく必要があります。
ここでは、アパート一棟の売却を検討する場合について、ご説明していきます。
アパート一棟の売り時
ここからは、アパート一棟のさまざまな売り時について解説していきます。
相場価格が上昇しているとき
不動産相場の価格が上昇しているときは、アパートを売る際のひとつの指標になります。全国の路線価の対前年変動率は2016年にプラスに転じて以来、2019年は+1.3%と4年連続で上昇傾向にあります。
減価償却が終了したとき
経費に計上できる減価償却は、アパート経営において重要な要素です。減価償却は帳簿上の支出であるため、減価償却がある期間はキャッシュフローに余裕ができます。減価償却期間の終了時は、次で解説するデットクロスの状態になる可能性もあるため、売却した方が良いか、検討するべきでしょう。
デットクロスが到来したとき
デットクロスは、金融機関からの融資を受けてアパートを購入した際、経費に計上できる減価償却の期間が終わることと、元利均等返済の経費になる利息の返済分より、経費にならない元金の返済分が増えるために経費計上額が減るなどして、税金が増えてキャッシュフローがマイナスになることです。
デットクロスの時期は、シミュレーションのできるサイトなどで事前に確認しておきましょう。デットクロスの時期を迎える前にアパートを売却することは投資として理にかなっています。
満室になっているとき
投資用のアパートの購入層は、投資家に限られます。投資家の立場としては、空室が多いアパートよりは満室状態のオーナーチェンジのアパートの方が当然魅力的です。入居者の退去時期はいつ起こるかは予測できないので、現在満室である場合は、築年数による経年劣化、減価償却時期なども含めて、売却の時期として検討してみるべきです。
所有期間が5年を超えたとき
アパートの所有期間が5年を超えたときは、アパート売却の一つの目安になります。なぜなら、所有期間が5年以上になると、売却時の譲渡所得にかかる税率が安くなるためです。具体的な税率は以下の通りです。
・所有期間が5年以下の税額:39.63%(所得税30%+住民税9%+復興特別所得税0.63%) |
・所有期間が5年以上の税額:20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%) |
所有期間が5年以下の場合、所有期間5年以上の場合に比べると約2倍の所得税額になります。特別な事情がない限りは、アパートは所有期間5年以上になってから売却する方が良いでしょう。不動産売却における税金については以下の記事でも詳しく説明しています。
高く売るためにしておきたいこと
ここからは、アパートを高く売るためにやっておくべきことについて解説していきます。
空室率を下げる
上述の通り、アパートは満室である方が売却できる確率が高まり、また条件がよくなることから売却額を上げられる可能性が出てきます。このため、アパートを高く売るためには空室率を下げることが重要になります。
空室率を下げるためには、賃貸管理会社の動きのチェック、即入居可能な備え付けの家電や家具を用意する、リフォームなど、さまざまな対策があります。ただし対策を考える際には、損益を意識して行うことが重要です。
家賃の水準を保つ
アパート売却のためには、利回りが重要になります。利回りを少しでも高く保つためには、家賃の水準を保つことが重要です。空室率を下げるために安易に家賃を値下げして満室にしても、利回りが下がると売却できる確率が下がってしまいます。家賃の水準を保つためには、家賃を下げるのではなく、例えばフリーレントや引っ越し祝い金といった形で入居率を高めましょう。
滞納問題があれば解決しておく
アパートの購入希望者の立場としては、家賃の滞納問題がある物件は、収益に直結する問題であり、将来的なトラブルを抱えているとみて購入を控えます。アパート売却のためには滞納問題は真っ先に解決するべき問題です。単純な振込の遅れなどであれば、電話や口頭での注意喚起、それでも遅れるなら催告状などの文章を送るなどの流れになります。
ただし悪質な滞納者に対しては管理会社と相談しながら、滞納している入居者とその連帯保証人に内容証明郵便を送るなど、具体的な対応が必要になってきます。場合によっては法的措置をとって強制退去という手段も必要になります。悪質な滞納者に対しては、1日も早く対応することが重要です。
アパート一棟の売却方法
ここからは、アパート一棟の具体的な売却方法について解説していきます。
売却までのステップ
アパートの売却の基本的な流れは以下の通りです。
・価格相場の確認 |
・必要書類の準備 |
・仲介を依頼する不動産会社の選別 |
・不動産会社との媒介契約 |
・販売活動 |
・売買契約・物件引渡し |
・確定申告 |
不動産の売却の流れの詳細については、以下の記事をご参照ください。
売却までに必要な期間の目安
アパートの売却までに必要な期間の目安平均3~6ヶ月といわれています。ただしこれはあくまでも平均であり、実際には1ヶ月程度で売れることもあれば、6ヶ月以上たっても売れないケースもあります。売れ残りをさけるためには、後述する信頼できる不動産会社を選ぶことが特に重要になります。
売却に必要な書類
アパートの売却には、さまざまな必要書類が求められます。一般的に必要となる書類は以下の通りです。
・登記事項証明書(登記簿謄本) |
・購入時の売買契約書・重要事項説明書 |
・権利証(登記識別情報通知) |
・地積測量図・境界確認書 |
・固定資産税納税通知書(もしくは固定資産税評価証明書) |
・物件の図面(販売パンフレット等) |
・身分証明書 |
・印鑑 |
・印鑑証明書 |
・通帳 |
・住民票 |
・抵当権抹消登記に必要な関係書類(登記の委任状、解除証書もしくは完済証明書、登記事項証明書) |
アパート一棟売却時に特有な必要書類
アパート一棟を売却する場合も、基本的な必要書類は上記の通りです。ただし補助書類として修繕履歴があると、売却に有利に働きます。大規模修繕の履歴だけでなく、それぞれの部屋の内装変更や給湯器の交換など、細かい修理・修繕について記載があると信頼性が増します。
アパートローン残債がある場合の売却について
アパートの売却を考える際にまず確認したいのが、想定している売却金額です。売却前に、想定売却金額とローン残債のいずれが高額になるかを比較して、それぞれの結果に応じた対応を想定しておく必要があります。ここからは、アパートローンの残債がある場合の具体的な注意点について確認していきましょう。
売却金額>ローン残債の場合
売却金額がローン残債を上回っている場合は、抵当権を抹消して、特に問題なく売却することができます。ローン残債があるアパートを売却する場合は、ローンを受けている金融機関から抵当権を抹消するための書類を受け取る必要があります。売買契約が決まった時点で、金融機関に売却する旨と引渡し日時を伝えましょう。
売却金額<ローン残債の場合
売却金額よりアパートローン残債が多く、ローンを完済できない場合は、残りのローン残額を自己資金で返済する必要があります。それでもローン完済が見込めない場合は、まず、空室状況の改善、売却時期の再検討などを行う必要があります。
売却金額で残債返済できず、自己資金でも残債を返済しきれない場合は、任意売却という形になり、ローンを受けている金融機関の了解を得て売却する流れになります。
不動産会社の選び方のポイント
アパート売却することが決まったら、現在アパートを管理している管理会社にその旨を伝えましょう。引き継ぎ自体はアパート購入者側の管理会社が担当します。ここからは、アパートを売却する上で重要な不動産会社の選び方のポイントについて解説していきます。
投資用物件に強い
仲介を依頼する不動産会社は、収益物件、なかでもアパート一棟売却の実績が多い不動産会社を選びましょう。販売実績の確認方法はまず会社のホームページをチェックして、その後スタッフに具体的な事例を確認しましょう。また、一括査定サービスを活用することで、複数の実績のある不動産会社をスピーディーに比較することができます。
ネット広告を活用している
現在でも不動産会社の中には、インターネット広告をほとんど活用していない会社が一定数存在します。特に投資物件の買い手は日本だけでなく世界的にも開かれているため、ネット広告の活用は必須です。不動産を選ぶ場合は、自社HPのみで販売しているのか、複数のポータルサイトに掲載するのかなど、ネット広告の活用度合いが一つの判断基準になります。
コミュニケーションがとれる
不動産会社の担当者とコミュニケーションがスムーズにとれるかどうかも重要なポイントです。担当者への印象から、購入希望者が担当者に対して抱く印象が推測できます。電話やメールの返信は早いか、こちらの質問に的確に答えてくれるかなど、担当者のコミュニケーション能力に注目しましょう。
行政処分歴がない
不動産会社(宅地建物取引業者)が法令違反をした場合、業務改善の指示処分や業務停止処分、免許取消処分といった行政処分を受けます。媒介契約を行う前に、必ず不動産会社が行政処分を受けていないか確認しましょう。行政処分の履歴は、
国土交通省ネガティブ情報等検索システムの<宅地建物取引業者> の項目から検索可能です。
どうしても売却のスピードを優先したい場合
早急にアパートを売却する必要がある場合、買取業者を利用するのも一つの方法です。買取業者売却する場合、買い手が買取業者であるため、確実に素早く売却が可能です。ただし、買取の場合の販売価格(買取価格)は、一般的な市場価格より1~3割程度安くなる点に留意しましょう。
まとめ
アパートを売却するための基本的な知識について解説してきました。
実際のアパート売却に踏み出すためには、記事内でも紹介した通り信頼できる不動産会社を選ぶ必要があります。売却に関する知識を踏まえた上で、一括査定サービスを活用して、売却の仲介を依頼する不動産会社を選ぶことをおすすめします。
この記事の監修者
上海復旦大学卒。商社、保育園、福祉施設での勤務を経て、現在は不動産と旅行系の記事を中心に手がけるライター兼不動産経営者。実際に店舗・住宅を提供している立場から、不動産に関する記事を執筆している。
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