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目次
生産緑地とは

同法において、生産緑地は「良好な生活環境の確保に相当の効用がある」ことや「公共施設等の敷地として適していること」、「農林漁業の継続が可能であること」、「500m2以上(2017年改正で300m2)の規模であること」などの定義がなされています。
また、平成29年「都市計画概況調査」によると、生産緑地地区は全国で12,972.5ヘクタールとなっています。エリア別の内訳を見てみると、関東に半数以上が集中し、次いで近畿、中部と続きますが、他のエリアではほとんど指定されていません。特に多いのは東京都、大阪府の他、埼玉県、千葉県、神奈川県、愛知県と都市部に集中していることが分かります。
以下、生産緑地の特徴を3つに分けて見ていきたいと思います。
【特徴1】30年間の営農義務
また、営農義務以外にも以下のことを守る必要があります。
・生産緑地を農地として管理しなければならない
・生産緑地である旨を掲示しなければならない
・生産緑地地区において建築物や工作物の造成、土地に手を加える行為はできない。ただし、農林漁業を営むための施設等は市町村長の許可を得て設置・管理できる
このように、生産緑地はさまざまな税制優遇を受けられる代わりに多くの制約が課されています。
【特徴2】相続税の納税猶予
例えば、終身の営農義務が課されている生産緑地において、相続人が営農を廃止した場合、相続時までさかのぼって相続税が課税されるとともに、猶予期間に応じた利子税まで支払わねばなりません。なお、納税猶予された分の相続税の支払いが免除されるのは、営農相続人の死亡時のみとなります。
【特徴3】固定資産税の優遇
しかし、市街化区域内にある土地については宅地並み評価され、納税額が高くなってしまいます。なお、東京都や愛知県、大阪府ならびにその近県にあたる区域の市街化区域農地は「特定市街化区域農地」に分類され、通常の市街化区域農地(一般市街化区域農地)よりさらに高い納税額となります。
分類 | 評価方法・課税方法 | |
---|---|---|
一般緑地 | 農地評価 | |
市街化調整区域 | 生産緑地地区の指定を受けた農地 | 農地評価 |
一般市街化区域農地 | 宅地並み評価(農地に準じた課税) | |
特定市街化区域農地 | 宅地並み評価(宅地並み課税) |
一方、生産緑地内にある土地については、一般市街化区域農地と特定市街化区域農地のいずれについても一般農地並みの課税がなされます。農林水産省の「農地の保有に対する税金」によると、税額のイメージとして以下の金額が記載されています。
一般農地 | 千円/10a |
---|---|
生産緑地 | 数千円/10a |
一般市街化区域農地 | 数万円/10a |
特定市街化区域農地 | 数十万円/10a |
生産緑地の「2022年問題」とは

生産緑地は1992年に一斉に指定されているため、指定の日から30年の営農義務が終える2022年に一斉に生産緑地の指定解除がなされることになります。生産緑地に指定されている間は他人に譲渡することができませんでしたが、30年の営農義務経過後は市町村に対して買取の申し出をすることが可能になり、結果として大量に市場に土地が供給され、地価の下落を引き起こすことが懸念されているのです。
先述の通り、一般農地は固定資産税が安く抑えられていますが、市街化区域内農地については宅地のみ評価となっています。生産緑地の指定が解除されると固定資産税の減免もなくなることから、所有し続けることの負担が大きいことも2022年問題が懸念される理由の一つです。
ちなみに、そもそも市街化区域内の農地の固定資産税が宅地並みに設定されている理由は「市街化区域内の農地の宅地転用を促すこと」とされています。
生産緑地に関わる法律の変遷

1992年:新生産緑地法制定
2016年:都市農業振興基本計画閣議決定
しかし、時代の流れとともに都市部(市街化区域)においても農地や緑地は必要なものと認識されるようになってきました。そうした背景から2015年に「都市農業振興基本法」が成立。2016年には「都市農業振興基本計画」が閣議設定され、これまで市街化区域内の農地について「宅地化すべきもの」とされていたものが「あるべきもの」へと政策を転換することになりました。
2017年:新生産緑地法改正
【ポイント1】特定生産緑地指定
生産緑地は30年の営農義務経過後は市町村に対して買取の申し出ができますが、特定生産緑地に指定された土地は買取の申し出をできる時期が10年先送りにされることになりました。もちろん、先送りされた場合は固定資産税の減免などの減税措置を引き続き受けることができます。これにより2022年問題の影響を緩和する意図があります。
【ポイント2】条例による面積要件の引き下げ
生産緑地地区の面積要件はこれまで500m2でしたが、市町村が一定の基準のもと、条例により面積要件を300m2に引き下げることが可能となりました。これは、500m2という要件が都市部の農地にしては広いものだったことが改正に至った要因です。
【ポイント3】行為制限の緩和
これまで生産緑地内に設置できるのは農業用施設のみでした。しかし、これでは所有者が生産緑地を使って収益を得ることが難しい状況にありました。こうした背景から、改正後には地元の農産物を使った商品の製造、加工、販売のための施設やレストランを設置できるよう変更されたのです。
2018年3月:田園住居地域創設
田園住居地域は「都市農業振興基本計画」で閣議設定された、市街化区域内の農地を「宅地転用するべきもの」から「あるべきもの」へと変更した流れの中で追加が決定されたものです。つまり、田園住居地域の追加により「住宅と農地が混在し、両者が調和する地域をあるべき市街地像として都市計画に位置付けた」のです。
2018年:都市農地賃借法制定
以下、本法律のポイントを見ていきましょう。
【ポイント1】法定更新適用なし
【ポイント2】相続税納税猶予制度は継続
つまり、誰かに生産緑地を貸し付けてしまうと、納税猶予が打ち切られてしまうのです。一方、都市農地賃借法の適用を受けて生産緑地を貸し出すと、生産緑地を第三者に貸しだしても相続税の納税猶予制度を継続して利用できるようになりました。
現在の生産緑地でできること

現在の生産緑地では、具体的に以下のようなことができます。
・営農
・第三者に農地を貸し出す
・獲れた作物を製造、加工、販売する
・獲れた作物による農家レストラン
生産緑地の所有者にとっては、税制上のメリットを受けながらさまざまな方法で収益化を目指すことが出来るようになったと言えるでしょう。
2022年に際しての所有者の状況別対処法

1.農業を続ける意思がある・後継者がいる
一方、特定資産緑地の指定を受けると10年ごとの更新制で税制優遇を受けながら営農を続けることが可能となります。特定生産緑地の指定は市町村がすることとなっているので、管轄の市町村の動向を見ながら準備を進めるとよいでしょう。
2.農業を続ける意思がない・後継者もいない/納税猶予していない
生産緑地の指定が取れてしまっては固定資産税の負担も大きくなります。なお、主たる従事者が寝たきりであるなど故障理由に該当するなら2022年を待たずして生産緑地を解除することも可能です。
3.農業を続ける意思がない・後継者もいない/納税猶予している→2022年までに亡くなる
4.農業を続ける意思がない・後継者もいない/納税猶予している→2022年を過ぎても元気!
これは、「途中で生産緑地の解除をしてしまうとそれまで猶予されていた相続税や利子を支払わなければならない」からで、2022年以降、主たる従事者の方が亡くなった時点で生産緑地を解除すればよい、ということになります。
まとめ

しかし、生産緑地法の改正された1992年から現在までの間にさまざまな法改正が行われ、生産緑地のもつ可能性も変化しています。本記事では、そんな生産緑地の所有者や相続した方に、過去から現在に至るまでの生産緑地の制度について解説し、2022年までに考えるべきことをご紹介しました。
本記事で生産緑地の全容を理解し、自分自身が取るべきアクションの概要が掴めたら以下の記事から具体的な行動を考えてみましょう。
生産緑地のこれからにお困りの方も多いはず。
プロにアドバイスを伺ってみるのは、決して悪いことではありません。

監修逆瀬川 勇造
【資格】AFP(2級FP技能士)/宅地建物取引士/相続管理士
明治学院大学 経済学部 国際経営学科にてマーケティングを専攻。
大学在学中に2級FP技能士資格を取得。
大学卒業後は地元の地方銀行に入行し、窓口業務・渉外業務の経験を経て、2011年9月より父親の経営する住宅会社に入社し、住宅新築や土地仕入れ、造成、不動産売買に携わる。