老後の持ち家はどうする?!相続に備えるための「住まいの終活」とは

2024.08.07更新

この記事の監修者

髙野 友樹
髙野 友樹

公認 不動産コンサルティングマスター/相続対策専門士/宅地建物取引士など

老後の持ち家はどうする?!相続に備えるための「住まいの終活」とは

終活=人生の最期をより良く迎えるための準備活動。相続や老後の住まいを検討中の方に、自宅の終活のあり方についてご紹介します。

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目次

自宅の終活とは

「終活」ここ数年で、一気に知名度の上がった言葉です。自分の死と向き合い、自分らしい最期を迎えるための準備活動のことを終活と呼びます。終活のなかでも資産の整理は重要度が高いです。なぜなら、資産を残すことは自分だけでなく、子どもや孫など残された遺族のためでもあるからです。

そして、財産のなかでもとくに割合が大きいのが「自宅」をはじめとした不動産ではないでしょうか。それではさっそく、自宅の終活について考えていきましょう。

自宅の終活が必要だと感じながら取り組めていない人が多い

財産のなかでもとくに大きな割合を占める自宅。終活を考えるうえでは外せない項目です。しかし、多くの人が自宅の終活に必要性を感じつつも、対策を打てていないのが現状のようです。

株式会社クラッソーネが「住まいの終活」について、居住用不動産所有者である50歳以上の男女536名にアンケートを実施したところ、「住まいの終活」への必要性を感じる人が8割であるのに対し、実際に住まいの今後の対応を決めている人は、たったの1割。

このことからも、多くの人にとって、いかに「自宅の終活」への対応が遅れているのかわかります。

そもそも終活とは

ところで、終活とはそもそも何をさすのでしょう?なんとなく言葉は聞いたことがあるけれど、実は正確な意味を知らないという人もいるはずです。ここで一度、終活の定義を確認してみましょう。

終活とは、亡くなる時の準備、つまり自分の人生を終えるための準備活動のことです。内容は、財産の整理、人間関係の整理、お葬式やお墓の準備など、「後悔しないように最期を迎える」ため、人生のエンディングについて早くから考え、行動することです。

死ぬための準備というと聞こえは悪いですが、身辺整理を事前にしっかり行うことで、スッキリと安心した老後を送ることができると考えられ、多くの人に受け入れられています。

「問題先送り」空き家にしないために

現代の日本は、深刻な空き家問題に苦しんでいます。総務省統計局が発表した住宅・土地統計調査の概数によると、平成30年の全国の空き家は846万戸、全住宅に対する空き家の割合は約13.5%でした。

つまり、日本の住宅の1割以上は空き家になっていると解釈できます。空き家増加の背景には、不動産所有者が自宅の終活をせずに亡くなっていることも原因の1つと考えられています。

自宅の終活の目的を明確化しよう

安心した老後生活を送るためには終活が必要です。ただ、終活はやるべきことが多く、重要性は理解しつつも、重い腰を上げられないという人もいるでしょう。このような時には、自宅の終活を行う目的をはっきりすることがおすすめです。目的が明確化すると、自然と選択肢も増えていきます。ここでは、終活を行う目的をいくつかご紹介していきます。

老後資金の調達

老後資金が心配な人も少なくない中で、自宅の終活は資金調達としても効果があります。たとえば、自宅を売却すると、まとまったお金を一度で取得でき、老後資金に充当することが可能です。また、介護付き高齢者住宅を利用する場合の初期費用や、利用料にも充てることができます。

節税(相続税対策)

財産の一部を不動産に変えたり、所有不動産を活用したりすることで、節税効果を得ることもできます。現金と不動産では、相続税の評価方法が異なりますので、資産を不動産に置き換えることにより、多くのケースで相続税を圧縮できます。

相続財産が基礎控除額を超える人は、相続時に相続税が課税されます。相続税対策ができるのも終活を行うメリットです。

毎年110万円までは贈与税が課税されないので、生前贈与を行うことで、毎年財産を少しずつ減らし親族に移していくことができます。この生前贈与は早めに始めるほど効果があります。

また不動産は、現金や預貯金と違い、分割が難しく相続時に相続人同士で揉める原因になることも多いものです。そのため生前のうちに、自宅を引き継いでもらいたい人に贈与しておくのも、相続対策の一案です。また、土地は親名義のままでも、二世帯住宅への建て替えで「小規模宅地等の特例」を活用すると、相続時の土地評価額を最大80%減少できるケースもあります。

住まい方の変更

現在の住環境を、大きく変えた老後を過ごしたいという人もいるでしょう。たとえば、別荘を購入したものの使用頻度が低く、老後はそこで過ごしたいという人、別荘はなくても都会の喧騒を離れて田舎で余生を送りたい人など、それぞれの願望があるはずです。また、子ども世帯と同居したいと思う人は、終活を考えるタイミングでご家族に相談してみるのもいいでしょう。

自宅の終活の進め方

ここまで自宅の終活について重要性を解説してきましたが、いざ具体的に考えると、実際に、何から着手していいのかわからないという人も多いはずです。そこで、ここでは自宅の終活を行うための手順を解説していきます。

1.人生を振り返り、片づけをする

自宅の終活をするためには、まずは自分の意向をじっくり考えてみましょう。自分が自宅を取得した動機や目的を振り返り、死後は自宅をどうしたいのかを考えます。

先祖が残した自宅だから、将来的には次の世代に引き継いでもらいたいという人や、現金化して早いうちに移住したいと考える人もいるでしょう。まずは一度、イメージを具体的に書き出して思考を整理してみましょう。

2.自宅のリスト化、基礎資料を揃え、情報を整理する

自宅以外にも不動産を所有している人は、所有している不動産の一覧表を作成して明確化しましょう。そして、それぞれの不動産についての必要書類を整理します。不動産の売却ではさまざまな種類の書類が必要となるので、あらかじめ準備しておくと安心です。

不動産がマンションか戸建かによっても必要な書類の種類が異なりますので、売却時に必要になる書類については、事前に不動産会社に確認しておくことをおすすめします。なお、下記は一般的に不動産の売却時に必要とされる書類です。

・固定資産税納税通知書
・登記簿謄本(土地、建物)
・取得した際の売買契約書
・重要事項説明書
・建築設計図書
・測量図
・建築確認済証、検査済証など

3.市場流通性を判断する

不動産はその立地によって流動性が異なります。売却や賃貸住宅化を検討しても、需要がない立地だと希望どおりの活用ができない可能性があります。とくに、道路条件により再建築不可の物件や、市街化調整区域内の物件は、基本的に再建築することができないため、流動性が非常に低くなるでしょう。

この点を踏まえ、所有不動産の市場流通性は早い段階でリサーチしておくことが賢明でしょう。

4.将来の選択肢と相談先の検討をする

ここまで解説してきたように、自宅の終活方法には複数の選択肢があります。どの選択肢にしても、専門的な知識が必要になるのは間違いありません。

多くの人は、不動産の購入は人生で一度か二度程度なので、不動産に対する専門知識をあまり持ち合わせていないのが一般的です。売却や土地活用、または節税対策でも専門知識は必須なので、不動産業者や税理士など、自分の選択肢に適した専門家にあらかじめ相談しておくことがベストです。

今後の選択肢とそのメリット・デメリット

自宅の終活には複数の選択肢がありますが、選択肢ごとにメリットとデメリットがあります。終活方法を決定する前に、それぞれの特徴をしっかり確認しておきましょう。自宅の終活は、自宅を手放す、手放さない、という大きく2つに分類されます。

手放さない場合

今住んでいる自宅を手放さず、老後はそこに住み続ける選択肢です。手放さないメリットとしては、資産がなくならずに済む点が挙げられます。

また、保有し続けていれば仮に数年後に違う活用方法を希望しても、変更することが可能です。ただし、持ち続けるとなると現金化はできないので、老後における資金調達という面では不向きでしょう。

住み続ける

住み慣れたところで老後を過ごせることが最大のメリットと言えるでしょう。年齢を重ねてから新たな環境で生活を始めると、ストレスも大きくなります。もちろん、それまでの住居への居住期間が長ければ長いほどその傾向があるはずです。ただし、住み続ける際は、住宅のメンテナンス費用は半永久的に、自分で負担し続けていかなければなりません。

認知症などで判断力が低下してしまった後自宅財産などの管理・処分を家族に託すことができる、家族信託という仕組みを利用するのも1つの手です。

2世帯住宅に建て替える

子どもがいる場合は、2世帯住宅に建て替えるのも一案です。建て替えることで、子どもは土地を購入する必要がなくなり、建築費も全額払うわけではないので、子どもにとってもメリットが大きいです。2世帯にする場合には、自分たちが亡くなった後、その自宅部分をどのように使うのか子世帯と事前に話し合っておきましょう。

賃貸にする

自宅を所有している人は、居住していた自宅を賃貸物件にして、賃貸の大家さんになることもできます。大家さんになれば、毎月入居者から家賃が入るので、定期収入の確保ができるでしょう。

一方、物件に修繕箇所が発生したら、大家さんの負担で修理する必要があります。また、賃貸ニーズを事前に確認しておかないと、いつまでも空室が続いてしまう可能性もあります。

土地活用する

自宅の敷地にそれなりの広さがあれば、土地を有効活用することもできます。アパートを建築すれば、賃貸大家さんとなり、定期収入が入るので、老後の私的年金代わりになるでしょう。

また、団体信用生命保険に加入すれば、亡くなった際に、アパートのローンが免除されるので生命保険代わりにもなります。ただし、アパート建築には初期投資が数千万円以上発生するのと、建築や賃貸事業運営に応じてコストも発生します。

リースバックとリバースモーゲージ
聞き慣れない手法かもしれませんが、自宅の新たな活用方法として、リースバックとリバースモーゲージがあります。リースバックとは、不動産は売却するものの、みずからがその物件の賃借人となって、売却後も住み続けることができるサービスです。当然、家賃は新たな所有者に払うことになりますが、まとまった現金が得られるのと、住み慣れた自宅に住み続けることができるのがメリットです。

リバースモーゲージとは、自宅を担保に融資を受ける方法です。基本的には毎月利息だけを支払えばよく、元金は債務者が亡くなった際に、現金で一括返済するか物件を売却するかのどちらかを選択することができます。

どちらも自宅に住み続けながら、セカンドライフの資金調達が可能な手法ですが、それぞれにリスクがありますので、注意が必要です。以下の記事で詳しく解説しています。

手放す(住み替える)場合

自宅を手放して、ご自身は新たな環境で生活を始める選択肢です。売却をすればまとまった資金を調達できるので介護施設に入ることもできます。また、自宅を早い段階で子どもに贈与して、子世帯と同居することも可能です。

売却する

不動産を手放す方法で、一般的な方法なのは売却です。売却することで、一度まとまったお金が入りますので、老後の必要資金に充当することができます。また、不動産を所有しなくなるので、固定資産税や修繕費用を支払う必要もなくなります。

一方、自宅を売却すると住む場所がなくなるので、新たな居住地を探さなくてはなりません。また、もしも希望価格どおりに売却ができないと、その後の資金計画も大きく狂ってしまうことにも注意が必要です。

生前贈与する

本人が生きている間に、相続が発生する財産を贈与することです。相続人が多い、相続人同士の仲が悪くてもめる可能性がある場合は、引き継がせたい人に対して不動産を譲れるので効果的です。相続税は課税されませんが、贈与税が課税される点に注意です。

子や親族に売る

子どもや親族に持ち家を売って、住み替えるといった選択肢も考えられます。この場合、住み替えの資金を得ながら、長く住んだ自宅を他人の手に渡さないでいられるといった大きなメリットがあります。

親族間売買の場合、仲介手数料は発生しませんが、トラブル防止の観点から売買契約書は取り交わしておくとよいでしょう。また、譲渡価格が相場よりも著しく低い場合は、「みなし贈与」と判断されて贈与税を課される場合があります。適正価格での親族間売買を心がけましょう。

終活をスムーズな相続につなげるための3つのポイント

自宅の終活は自分のためだけでなく、相続人に対して行うものでもあります。相続人たちの反対を押し切ってまで終活方法を決定したところで、子どもたちとの関係が悪くなってしまっては良い終活とはいえません。自分たちの想いに加えて、相続人となる次の世代に迷惑をかけない終活にすることが大切です。

自宅資産の見える化

終活をする際は、自宅の資産価値を客観的に把握しましょう。不動産の査定は、不動産に不慣れな人が行うのは難しいので、不動産業者に依頼することをおすすめします。

また、一社だけの査定だけではなく、複数社に査定を依頼し見解を確認するべきです。一括査定サービスなどを利用するのも得策と言えるでしょう。

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相続人と配分の確定

財産をスムーズに相続したいと思うならば、相続人の把握も必要です。自分の親族図を作成し、それぞれ法定相続人の数と、財産割合を確定します。いざ相続が発生した際に、相続人同士が財産の取り分でもめないよう配慮しましょう。

遺言状の作成と保管

相続に対する自分の意向を表示するために、遺言書を作成するのもおすすめです。遺言書では、ご自身が死亡した後の財産の行方について、どうしたいかを記載できます。

自分自身の意思を実現してもらうため、また、相続人が財産をめぐって対立しないようにするため、有効な方法でしょう。また財産以外にも、言付事項といって、相続人や親族に対する感謝や思いを記すことができます。

終活をきっかけに家族の話し合いを

相続対策の必要性は理解しているものの、なかなか家族の話し合いができない、その理由は、ほとんどがお金の話となるので、切り出しにくいという心理的なものがあります。もちろん、子どもから親が亡くなった際の相続財産の話をするのも、簡単な話ではありません。

何も対策をしないで亡くなると、困るのは残された子どもたちなど次の世代です。財産の行方を把握しなければ計画を立てられない終活をきちんと行うことで、ご自身のため、そして次世代の負担を減らすことにつながります。終活をきっかけに相続や老後の過ごし方について家族でしっかり話し合ってみてはいかがでしょうか。

まとめ

終活を考えたとき、財産のなかでも大きな割合を占める不動産の行方について道筋をつけておくことは必須ですが、不動産は、現金や金融財産と異なり、財産評価も分割も難しい財産の一種です。

老後の生活を安心して暮らすために、そして次の世代にスムーズに財産を相続してもらうためにも、終活をきっかけに自宅の今後についても真剣に考えてみてはいかがでしょうか。

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この記事の監修者

髙野 友樹
髙野 友樹

公認 不動産コンサルティングマスター/相続対策専門士/宅地建物取引士など

株式会社髙野不動産コンサルティング 代表取締役、株式会社アーキバンク 取締役 COO、一般社団法人グローバルイノベーションネットワーク協会 顧問。不動産会社にて600件以上の仲介、6,000戸の収益物件管理を経験した後、国内不動産ファンドでAM事業部のマネージャーとして従事。

●紹介されている情報は執筆当時のものであり、掲載後の法改正などにより内容が変更される場合があります。情報の正確性・最新性・完全性についてはご自身でご確認ください。
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