専門家に聞く!親が認知症になると家は売却できなくなる?判断能力・成年後見制度・今のうちに知っておくべき現実

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この記事の監修者

太田 徹
太田 徹

司法書士

専門家に聞く!親が認知症になると家は売却できなくなる?判断能力・成年後見制度・今のうちに知っておくべき現実

【40代女性からのお悩み相談】長崎県長崎市の築40年の実家について相談です。70歳を超えた親に物忘れなどの兆候が見られ、将来が不安になっています。
認知症と診断された場合、不動産の売却はできなくなるのでしょうか。親の意思を尊重しながら、今のうちにできることがあれば教えてください。

※本記事の相談は、実際にアンケートで募集した悩みを、要約・編集したものです。

【私が回答します!】
「親が認知症になると実家は売れなくなるのでは?」 そんな不安を感じている方は少なくありません。本記事では、認知症と不動産売却の関係、売却に必要な判断能力の考え方、成年後見制度を使った場合の現実的な制約、そして認知症になる前にできる備えについて、専門家の視点で分かりやすく解説します。

太田 徹
太田 徹

目次

問題は「診断名」ではなく「判断能力」

結論
認知症と診断されても、判断能力(意思能力)があれば不動産売却は可能な場合があります。 重要なのは「病名」ではなく「契約内容を理解できるか」です。
不動産の売却で判断されるのは、
・医師の診断名
・要介護度

ではなく、売買契約時点での判断能力(意思能力)です。
裁判例が示すポイント
東京地判平29.4.7(平26(ワ)27864)
(売主:86歳/アルツハイマー型認知症と診断)
・認知症と診断されていた
・しかし、売買契約の内容・金額を理解していた
➡ 意思能力は否定されず、契約は有効と判断
売買契約の無効を訴えたのは、売買契約前に売主から遺言書によってその土地建物の遺贈を受けた人でした。この判例が示しているのは、「認知症=即売却不可」ではないという点です。実務では、契約当時にどの程度理解できていたかが重視されます。

不動産売却に必要な「判断能力」とは何か

この判断能力(意思能力)の定義は非常に難しく、法律上明確な規定がありません。

一般的には「自らが行う法律行為についての内容やそれに伴う結果をある程度理解していること」と解されています。

裁判所の見解も一貫性があるとまでは言えませんが、次の点を重視する傾向があります。
・法律行為(売買や贈与など)が本人にとって合理的か
・著しく不利な内容ではないか

たとえば、評価額3,000万円の土地を明確な理由なく1,500万円で売却していた場合、「判断能力の欠如に付け込んだのでは?」と疑われる可能性は高くなります。

太田 徹
太田 徹

判断能力が低下すると何が起きる?売却が止まる現実

民法3条の2(意思能力)

「当事者が意思能力を欠く場合、その法律行為は無効とする」
このため、当事者が認知症の場合、
・不動産会社
・買主
・金融機関
・司法書士
売買契約に非常に慎重になります。

数千万円、場合によっては数億円単位のお金が動く売買契約が無効になってしまうと、さまざまなことに影響が出ることは説明するまでもないでしょう。

家族が代理人になって売ればいいのでは?と思うかも知れませんが、そもそも代理をしてもらうにも委任契約が必要です。
民法643条(委任契約)

・本人が第三者に法律行為を任せる契約
・前提:本人に意思能力があること
判断能力を失った後では、委任契約そのものが成立しません。「あとで家族に任せればいい」という考えは危険です。

成年後見制度を使えば売却できる?メリットと制約

結論
売却は可能ですが、家庭裁判所の許可が必要で、時間と制約が大きいのが現実です。
成年後見制度とは、認知症などで判断能力が欠如している方に代わり、家庭裁判所が選任した後見人が財産管理を行う制度です。

その方の判断能力に応じて「後見」「保佐」「補助」の三類型に振り分けられます。成年後見人をつければ、認知症の方でも不動産売買の契約を行ったり、登記手続きを行うことが可能になります。

居住用不動産の売却は「裁判所の許可」が必須

ただ、成年後見人が付いている場合の不動産売買は通常通りの手続きではできないため注意が必要です。
民法859条の3(居住用不動産の処分)

成年後見人による売却には家庭裁判所の許可が必要
これは、居住環境の変化を伴う居住用不動産の処分は、ご本人の精神状態に大きな影響を与えるところから、家庭裁判所の審査を必要としたものです。ですので、家庭裁判所の許可は効力要件であり、許可を得ずにした処分行為は無効となります。
※後見監督人がいる場合には、裁判所の許可と共に後見監督人の同意も必要です。

一般の方がよく誤解していることとして「後見人さえつければすぐに売れる」「親族は後見人になれない」ということがあります。上述の通り後見人が付いていても、売却をする場合には家庭裁判所の審査が必要で、直ぐに売れる訳ではありません。許可までに数か月かかることもあり、「急いで売りたい」ケースには大きな制約となります。

また後見人は親族が選任されることもあるため、一概に親族がなれないと断定はできません。(成年後見関係事件の概況(裁判所HP))

上述のことから、不動産売買に伴って成年後見制度を利用することは、最後の手段と考えた方が良いでしょう。

成年後見制度は「売却を楽にする制度」ではありません。むしろ時間・制約・費用が増える制度と理解しておく必要があります。

太田 徹
太田 徹

認知症になる前にできる現実的な備え

結論
最も現実的なのは「判断能力があるうちに備える」こと。 認知症発症後では、選択肢は大きく狭まります。
上述の通り、認知症になってからだと不動産売買のハードルがグッと上がってしまいます。後見制度を理由する選択肢はありますが、容易な制度ではありませんので最も現実的なのは、認知症になる前に備えておくことでしょう。

具体的には、次のような備えが考えられます。

家族で意思確認をしておく

将来の相続対策、生前対策の第一歩になるのが“家族会議”と言えるでしょう。

後述する家族信託や任意後見などの法律上の制度ももちろん備えになりますが、これらの制度を利用するにしても、家族間でお互いの意向を確認・すり合わせる作業が必要になります。

生前対策のご相談者の中にも「親と話し合いをするきっかけになってよかった」といってくださる方もいます。重要なのはまず話してみること。そこから生前対策は始まります。

太田 徹
太田 徹

任意後見契約・家族信託の選択肢

ざっくり整理すると
・任意後見:将来の判断能力低下に備える
・家族信託:今のうちに資産管理・売却を任せる
任意後見契約とは、認知症などを心配する人(父)とそのご家族(娘)などが直接契約を結び、将来父が認知症などで判断能力を失ってしまった時に、契約をした人(娘)が後見人に就任する後見予約のような制度です。
家族信託は、父が所有する不動産などの資産管理を娘に任せ、利益は父が受け取りつつ、認知症になった後でも娘を通じて不動産売買を行える契約です。

書面・記録を残す重要性

上述の任意後見契約や家族信託などがまさしくそうですが、書面で不動産の処分について将来的な意向を記録しておきましょう。家族会議を経て必要な契約制度を知り、書面や記録に落とし込むことが重要です。

親にどう切り出す?関係を壊さない話し合いの視点

たとえば、将来を見据えて、家族みんなが安心できるように…というニュアンスで話を切り出してみるのも良いでしょう。

場合によっては、司法書士などの法律専門職に相談してみるのも選択肢になるかと思います。第三者に話を聞いてもらうことで親や自分自身の希望が整理されて、今後行うべきことが明確になるでしょう。

生前対策のご相談を受けていると、もう少し早く相談に来てくれていれば、ご提案できることは多かったのにと思う方が多くいます。少しずつでいいので、家族で話をする機会をもってみてください。

太田 徹
太田 徹

まとめ

親に不動産の処分についての話をすることは、子供の立場としては、切り出しにくい話題でしょう。ただ、「話しにくいから…」という理由で放置して良いことはありません。

高齢化社会の日本では、認知症と不動産売買は切っても切れない関係性になりつつあります。認知症になってしまうと上述の通り、選択肢がグッと狭くなる可能性が高いので、そうなる前に事前の備えをしておくことが最大の生前対策になります。

生前対策は人によって最適な契約・制度が異なります。ご自身や親御さんの状況に応じて柔軟に対応できるように、早めの備えを心がけましょう。

親に判断能力があるなら「今」が最大のチャンスです。実家の資産価値を調べてみませんか?

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太田 徹
太田 徹

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愛知県豊橋市、太田合同事務所代表司法書士。愛知県司法書士会所属。2018年司法書士登録後、司法書士法人で業務に従事し、2022年太田合同事務所を開設。『地域・思いやり✖︎webオンライン密着✖︎充実した情報』をモットーに、司法書士業務と共にWebメディア運営、セミナー登壇にも取り組んでいる。

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