この記事のポイント
- 0円物件・無償譲渡物件は安価に不動産を取得できますが、税金や修繕費、手続きの手間もあります。
- 空き家活用に補助金や助成金を提供する自治体も◎今後の施策に注目が集まっています。
- 収益化アイデアは賃貸住宅だけでなく、民泊やシェアオフィス、高齢者向け施設などがあります。
不動産の無償譲渡とは
「いらない土地あげます」「0円物件」など、驚くほど安価な不動産物件を見かけることがあります。これらは、主に「無償譲渡物件」として取引されており、文字通り価格が0円、もしくは非常に低い価格で譲渡される不動産のことです。通常、土地や建物を購入するには相応の金額が必要ですが、こうした物件は一見するとお得に見えるため、興味を持つ人も少なくありません。
しかし、これらの物件が増加している背景には、日本社会の不動産市場が抱えるいくつかの問題が影響しています。
0円物件・無償譲渡物件が増えている背景
無償譲渡物件が増加している主な要因は、以下の4点に集約されます。
1.空き家の増加
日本全体で少子高齢化が進むなか、住宅の需要が減少し、住む人がいない家が増加しています。とくに地方では顕著で、都市部への人口流出により、過疎地では家を管理する人もいない状態です。
2.地方の過疎化
地方では、若者が都市部に移住するため、空き家が放置されがちです。過疎化した地域では売れにくくなる物件が増え、所有者が手放したいと考えるケースが増えています。
3.税金の負担
空き家を所有するだけでも固定資産税がかかり、さらに空き家の管理や修繕費用なども発生します。そのため、所有者は経済的な負担から解放されたいという動機で物件を手放します。
4.売れない理由がある物件
心理的瑕疵(過去に事件があったなど)がある物件や、アクセスが悪い立地にある物件は売却が困難です。そうした理由で、0円でも良いから手放したいと考える所有者が多いのです。
「いらない土地 あげます」は本当に無料?
「いらない土地あげます」「0円物件」と聞くと、まるでタダで家を手に入れられるかのようなイメージを抱きがちです。しかし、実際の取引は、不動産の「譲渡」ではなく「贈与」として扱われます。この「贈与」には税金や諸費用が発生するため、完全に無料で手に入れられるわけではありません。
不動産の贈与には、贈与税や不動産取得税、固定資産税など、法的な手続きに伴う税金が発生します。また、物件によっては、修繕や解体が必要な場合もあり、その費用が数百万単位でかかることもあるため、投資用物件として検討する際は実際にかかるコストについて事前に十分に把握する必要があります。
0円物件・無償譲渡物件を取得するメリットとデメリット
無償譲渡物件には多くのメリットとデメリットが存在します。これらを理解したうえで、投資物件候補としての価値を見極めることが重要です。
【メリット1】安く不動産(土地)を手に入れることができる
最大のメリットは、やはり物件自体の価格が非常に安い点です。通常、土地や住宅を購入するには多額の資金が必要ですが、無償譲渡物件であれば、取得にかかるコストを大幅に抑えられます。これにより、費用をリフォームや改装に回すことが可能となります。
【メリット2】自治体から補助金や助成金がもらえる可能性がある
地方自治体では、空き家問題解決のために、リフォームや改修を行う際に補助金や助成金を提供する場合があります。たとえば、山形県や鳥取県では、空き家を再活用するための費用を一部負担する制度が存在します。これにより、リフォームの負担が軽減され、地方での生活がしやすくなります。
【デメリット1】訳あり物件の可能性がある
0円物件が無償で提供される理由として、物件自体に問題があるケースも少なくありません。たとえば、過去に事件が起きた「心理的瑕疵物件(事故物件)」や、修繕が困難なほど老朽化している場合もあります。そうした物件を取得する際は、事前に物件の背景をしっかり確認する必要があります。
【デメリット2】物件価格は0円でも税金はかかる
0円であっても、贈与税や不動産取得税、固定資産税など、税金の支払いが必要です。これらの税金は、物件の評価額を基に算出されるため、事前に確認しておかないと想定外の出費に繋がる可能性があります。
【デメリット3】手続きが煩雑でトラブルになる可能性がある
無償譲渡では、通常の不動産取引と異なり不動産業者が仲介しないケースが多く、契約や登記に関する手続きを自分で行う必要が出てきます。このため手続きに不備があった場合には、後々トラブルに発展する可能性があります。
不動産を無償で譲渡してもらう手続きの流れと注意点
無償譲渡物件を取得する際には、いくつかの手続きが必要となります。以下は、その手順と注意すべきポイントです。
【ステップ1】空き家バンクや自治体のHPで無料の不動産を探す
まず、空き家バンクや自治体のホームページなどを活用して、0円物件を探します。地方自治体では、空き家情報を積極的に公開しているケースが多いです。オンライン上で検索できるので、移住先を選びながら物件を探すことが可能です。
【ステップ2】物件調査をする
物件を見つけたら、まずはその物件がどのような状態にあるのかを調査します。老朽化の程度や修繕の必要性を確認し、予算や計画に合わせて判断しましょう。現地訪問や専門家によるインスペクションもおすすめです。
【ステップ3】譲渡について合意する
譲渡者と合意に至った場合、譲渡条件をしっかりと確認します。とくに、引き渡し後に発生する可能性のあるトラブルについて契約書に明記しておくことが重要です。
【ステップ4】贈与契約書・重要事項説明書を作成する
贈与契約書は、不動産譲渡の際に必要不可欠な書類です。法律的な揉め事を避けるため契約内容を詳細に記載し、トラブルを防ぐことが重要です。弁護士や司法書士に依頼して、適切な契約書を作成しましょう。
【ステップ5】所有権移転登記を行う
最終的に、所有権移転登記を行うことで、正式に物件の所有者となります。登記の際には、登録免許税などの諸費用が発生するため事前に用意しておきましょう。
土地や不動産を無償で取得する際にかかる費用
無償で物件を譲り受ける際にも、いくつかの費用が発生します。「0円」は物件自体の価格であって、譲り受けた後にはさまざまな法的な手続きや税金が発生します。これらは、物件の種類や所在地、評価額によっても異なるため、事前にしっかりと確認し、準備をしておくことが重要です。以下に代表的な費用項目をまとめ、取得時に必要となる費用を詳しく解説します。
贈与税
無償譲渡は「売買」ではなく「贈与」に該当します。贈与によって不動産を譲り受けた場合、その評価額が110万円を超えると「贈与税」が発生します。贈与税は、その年に受け取ったすべての贈与財産の合計額が110万円を超えた部分に対して課されます。不動産の評価額が高い場合、贈与税も高額になる可能性があります。税額を事前に確認しておくことが不可欠です。
たとえば、固定資産税評価額が300万円の不動産を無償で受け取った場合、基礎控除の110万円を差し引いた190万円に対して、一定の税率がかかります。親や祖父母などの直系尊属から贈与を受ける場合、贈与税率は比較的低く設定されていますが、その他の親族や第三者からの贈与の場合は税率が高くなる傾向にあります。
登録免許税
不動産を取得した際には、所有権移転登記を行う必要があります。この手続きにかかる税金が「登録免許税」です。登録免許税は、固定資産税評価額に基づいて計算され、通常、評価額の2%が課税されます。
たとえば、評価額が500万円の場合、登録免許税は10万円程度となります。この税額は物件の規模や所在地により変動するため、登記前に固定資産税評価額を確認しておくことが重要です。
さらに、登記手続きには司法書士などの専門家に依頼するケースもあり、その場合は別途費用が発生します。所有権移転登記は法務局で行いますが、手続きをスムーズに進めるためには専門家に依頼するのも一つの方法です。検討してみる価値は十分にあります。
不動産取得税
「不動産取得税」は、不動産を取得した際に課される都道府県税です。この税は、無償譲渡であっても例外ではなく、取得した物件の評価額に基づいて計算されます。通常、土地や建物の取得に対して課税される税率は、住宅であれば3%、非住宅の場合は4%です。
たとえば、固定資産税評価額が1,000万円の住宅を取得した場合、30万円の不動産取得税がかかります。なお、地方自治体によっては、新築や中古住宅の購入やリノベーションに対して減税措置や特例措置が適用される場合がありますので、対象となるかどうかを事前に確認することもおすすめします。
固定資産税・都市計画税
物件を所有すると、毎年固定資産税や都市計画税が課されます。これらは物件の評価額に基づき計算され、物件が特定空き家に指定された場合には税率が上がる可能性があるため、事前に確認しておくことが大切です。
修繕や解体・残置物撤去費用
物件が老朽化している場合、修繕や解体の費用も考慮する必要があります。修繕費用は数十万円から数百万円に及ぶこともあるため、費用見積もりを事前に取得しておきましょう。リフォームも一括見積などで複数社の比較をすることで、費用削減が可能です。
0円物件・無償譲渡物件を収益化するアイデア5選
無償で取得した物件は、賃貸住宅だけでなく、そのほかのビジネスとして活用することも可能です。以下では、収益化のアイデアをいくつか紹介します。
民泊
観光地に近い空き家を民泊施設として運営することで、観光客から収益を得ることができます。民泊は初期投資を抑えて始められるビジネスで、簡単な改装で運営をスタートできる場合も多いです。
また、民泊には「住宅宿泊事業法」に基づく届出が必要な場合もありますが、観光地やアクセスの良いエリアに物件があれば、短期間で集客を見込める可能性が高いです。SNSや宿泊サイトを活用すれば、プロモーションを強化し、収益を拡大することもできます。
シェアオフィスやワーケーション施設
リモートワークの増加に伴い、空き家をシェアオフィスやワーケーション施設として活用するのも魅力的です。とくに自然豊かな場所や都市から少し離れた地域では、リモートワーカーが増えており、働きやすい環境を提供できれば高い需要が期待できます。空き家を改装してワークスペースを提供するだけでなく、休憩スペースやカフェスペースを併設することで、快適な職場環境を作り出すことが可能です。
高齢者向け施設
高齢化がすすむ日本社会において、福祉施設や高齢者向け住宅の需要は年々高まっています。空き家を改装して高齢者向け施設として活用することで、地域に貢献しながら、安定した収益を得ることができます。施設として運営するための許認可が必要になる場合もありますが、改装費用を補助金や助成金で賄えることもあり、社会的な意義を持ちながらのビジネス展開が期待できます。
トランクルーム事業
都市部に近い空き家であれば、トランクルームとして運営することも収益化の選択肢の1つです。空き家を区切って小規模なスペースを貸し出すだけで済むため、初期投資が少なく、安定した収益を得ることができます。トランクルームの需要はとくに都市部や人口密集地で高いため、空き家の場所やスペースを有効活用して収益を上げるビジネスモデルとして有効です。
劇場、イベントスペース
比較的駅から近い空き家であれば、劇場などのイベントスペースとして活用することも可能です。大きく収益が得られるとは限りませんが、地域密着で地元文化を育てる社会貢献の一環となるでしょう。演出家の鈴木忠志氏が富山県利賀村の古民家を活用して劇団を運営をした事例もあります。
まとめ
0円物件・無償譲渡物件は、通常の不動産購入に比べて初期費用を抑えられるメリットがありますが、税金や修繕費、手続きの煩雑さといったデメリットも存在します。無償だからといって安易に飛びつかず、しっかりと調査を行い、リスクとリターンを見極めた上で取得を検討することが重要です。
この記事の監修者
アユカワタカヲ 不動産投資家/宅地建物取引士/AFP/J-REC公認 不動産コンサルタントなど
2010年、世田谷区内の中古区分ワンルームマンション購入から不動産投資をスタート。区分・一棟・戸建て・日本・海外…と幅広く不動産賃貸業を営む(2022年3月時点)。
現在は総合マネープロデューサーとして、人生におけるマネーリテラシーの重要性をメディアやセミナーなどで伝えている。年間のセミナー登壇数は300本を超える。
「満室バンザイ」(平成出版)、「不動産はあなたの人生を変えてくれる魔法使い 女性の願いを叶えてくれる最幸マイホーム購入術」(ごきげんビジネス出版)など執筆。
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●また、具体的なご相談事項については、各種の専門家(税理士、司法書士、弁護士等)や関係当局に個別にお問合わせください。
2024年石破新政権が誕生しました。石破総理は公約のひとつとして「地方再生」を掲げています。今後、さまざま地方活性化のための補助金などの施策が実施される可能性がありますので、期待したいところです。