不動産投資ローンの頭金は入れるべき?相場や頭金なしのリスクを解説します

2024.08.21更新

この記事の監修者

アユカワタカヲ
アユカワタカヲ

宅地建物取引士/AFP/J-REC公認 不動産コンサルタントなど

不動産投資ローンの頭金は入れるべき?相場や頭金なしのリスクを解説します

これからマンション投資を始めたいという方に、不動産投資ローンにおける頭金の要否を具体的な事例を交えてご紹介します。

この記事のポイント
  • 頭金を多く入れることで本気度を測っているともいわれており、審査に有利になります。
  • 頭金の相場は「物件価格✕1〜2割」が一般的。ただし、そのときの金利や政策、物件の評価などによっても異なります。
  • 頭金なしの場合は売却しても残債を返せないというリスクも。長期的なプランを考えながら資金の準備を進めましょう。

目次

不動産投資ローンの頭金って必要?

不動産投資ローンにおける「頭金」とは、不動産価格から不動産ローンの借入額を引いた部分の金額を指します。たとえば、不動産投資で5,000万円の物件を購入するケースで考えてみましょう。

最初に自分が用意できる金額が1,500万円で、金融機関からの融資額が3,500万円だった場合、頭金は1,500万円となります。つまり頭金とは、不動産価格のうち、不動産ローン以外から手配するお金のことです。それでは、頭金が必要な人はどのようなケースなのでしょうか。

頭金が必要な人はこんな人!

頭金が必要なケース1希望の融資金額に届かない場合
金融機関から融資を受けるには、審査を受けなくてはいけません。審査の結果、残念ながら希望の融資額に満たない可能性もあります。

一般的に不動産投資の融資額は、年収の5~10倍とされており、単純計算で年収が600万円の人であれば、厳しい設定の融資限度額なら3,000万円程度までが目安になります。

ですから頭金500万円を用意すれば、融資額3,000万円と合わせて、3,500万円の物件も検討することが可能になるということです。
頭金が必要なケース2融資引き締めの時期の場合
金融機関は、その時の市況や政策によって融資を緩和したり引き締めたりすることがあります。不動産が供給過多になったり、投資が過熱して不動産価格が高騰したりした場合などです。

このような時期は、融資を引き出すことは非常に難しくなり、審査の際に、購入者の年収や年齢だけでなく「融資に適した人物かどうか」という部分を厳しくチェックされます

金融機関は不動産投資を事業と見なしているため、ローンを利用する人は不動産オーナーであり、経営者でもあるのです。

その経営者が今回の事業に向けてどれだけの本気度で臨んでいるのかは返済能力に直結するため、頭金を多く入れることで本気度を測っているともいわれています。頭金を多く用意できれば、自己資金がある、自己管理がしっかりしていると見なされ、審査に有利になります。

不動産投資ローンの頭金の相場

それでは、不動産投資ローンにおける頭金はいくら必要なのでしょうか。頭金の相場については、「物件価格✕1〜2割」の金額が一般的だと言われています

たとえば、4,000万円の物件を購入しようとするなら、400〜800万円の頭金を準備できるのが理想と言えるでしょう。しかし頭金の目安は、そのときの「金利や政策、物件の評価」などによっても異なるため一概にはいえません。

また、必要な頭金の額は属性によっても変化します。一部上場企業勤務や、公務員、医師、士業といった年収の高い人や、物件の積算評価が高い場合は、頭金なしのいわゆる「フルローン」でも審査に通る可能性は高いです。

一方、年収が低い、勤務先の経営状態が良くない、借金があるなどのマイナス要因がある方は、頭金の水準が高めに設定される可能性があります。

以上のことから、「頭金の目安は1〜2割」といった固定観念で考えるのではなく、自身の状況や投資計画を考慮しながら柔軟に対応しましょう

なお、購入価格に融資額が満たないケースは、頭金が必要になります。また、豊富な自己資金を持っていても希望の融資額が下り、運用後じゅうぶんな収益が得られるのであれば、頭金はゼロがいいと考える人もいます。

一方で、手持ち資金を残すためにあえて頭金なしにするケースや、月々の返済額を減らすために、従来通りの頭金を投入したいと思う方もいるでしょう。それぞれのメリットやデメリットを考えながら、自分に合った方法を選択しましょう。

頭金を入れるメリット

ここでは、頭金を入れることで得られるメリットを解説していきます。

ローン審査に通りやすくなる

不動産投資ローンを利用するためには、金融機関のローン審査を通過しなければなりません。ローン審査は希望する借入額が大きいほど厳しくなります

2019年3月に、金融庁が発表した「投資用不動産向け融資に関するアンケート調査結果」によると、「物件の購入金額の一部を顧客の自己資金で賄わせているか」という質問に対し、金融機関の回答は以下の通りでした。
概ね1/3以上の顧客に頭金を求めていると回答したのは、信用金庫・信用組合で67%、銀行においては88%でした。ローンを組むにあたって、これだけ多くの金融機関が頭金を求めていることが分かります。

また、頭金があれば、これだけの自己資金があるという証明にもなり、金融機関からの信用が上がるといえるでしょう。

ただし、これは一律で言えることではありません。審査には個人の属性に加え、物件に対する評価も含まれます。融資審査にはさまざまな要素が複合的に絡んでくるため、頭金を入れたから必ずしも希望の融資額が下りるわけではないので注意しましょう

毎月のローン返済額が減って利益を上げやすい

頭金の額だけ融資額を抑えることができます。融資額が減るということは、その分、毎月のローン返済額も減るということです。毎月の返済額が減ることで利益を上げやすくなります。

不動産投資の収支においてローン返済と金利支払いは大きな割合を占めているため、返済額と支払金利の金額を減らすことで毎月の収益が大きくなる点は、大きなメリットです。

毎月の返済額が小さくなると、空室発生時の返済にも余裕が持てます。不動産投資における収入は、入居者から入ってくる家賃収入がほぼ全てです。空室発生時は家賃収入が途切れるため、現在働いている会社の給与など別の収入からの返済が必要となります。

また、不動産投資では、毎月の家賃収入でローン返済と建物の修繕費や管理費、さらに税金の支払いなどの経費も発生します。

ローン返済額や修繕費・税金などの費用が家賃収入を下回れば、手元に資金が残ります。それらを突発的な出費に回したり、繰り上げ返済をしたり、空室や家賃滞納などのトラブルに備えることができますし、次の物件を購入する際の資金にもなります。

金利上昇の影響が小さい

頭金を投入して融資額が下がれば、それだけ元金が少なくなるということです。金利は元金に対してかけられるため、元金が少なければ少ないほど、今後金利が上昇した場合の影響をより少なくすることができます

2024年3月に日銀が金融緩和政策を解除、その後金利の引き上げが決定されました。今回の利上げ幅は大きくないことから、現在も低金利の状況は継続していますが、今後の政策の変化や経済動向によって金利が大幅に上昇する可能性もあります。今後ローン残高が多い時期に金利が上昇してしまったらどうなるでしょうか。

返済が重くのしかかり、生活が苦しくなってしまう可能性も十分に考えられます。そのため、頭金を入れて借入金を少なくすることは金利上昇のリスク対策にもつながるのです。頭金の額によっては金利優遇を受けられるケースもあるため、金融機関に確認してみるとよいでしょう

頭金を入れるデメリット

次に、頭金を入れることによって考えられるデメリットについて解説します。

頭金を準備する期間が必要になる

不動産投資で頭金を入れるデメリットとして最も考慮すべきポイントは、頭金を貯めるための期間が必要になる点です。先述した頭金の目安を1〜2割と考えると、仮に4,000万円の物件を購入する場合は400~800万円の頭金が必要になります。

400万円以上の金額を貯金するまでには相応の期間が必要ですし、貯める期間が長いほど不動産投資をスタートする時期が遅くなります

不動産投資は、実績を積むことで金融機関からの信頼も深まり、その結果年々事業を拡大しやすい投資方法です。こうした特性から、不動産投資をスタートする時期は早ければ早いほどいいと言われています

しかし、自己資金が貯まるまで待っていた場合、不動産投資に着手するタイミングはどんどん遅くなってしまいます。頭金を投入するメリットと、頭金が少額もしくはゼロの状態でもとにかく素早く不動産投資に取り掛かるメリットを比較しながら判断することが必要です。

突発的な支出に対応しづらくなる

頭金を入れることで、一時的に大きな金額の自己資金が減少します。余裕のある範囲で自己資金が手元にある場合はいいですが、そうでない場合は注意が必要です。不動産投資のトラブルには、主に設備や建物の修繕に加えて家賃の滞納など、手元に資金がないと対応が難しくなってしまうものが多くあります。

対策用の資金が少ないとトラブルの対応策が限られる可能性も否めません。頭金を貯めることができたとしても、その全額を物件購入の際に使ってしまうとリスクを伴います。ある程度手元資金が残るようにバランスを取ることも必要です

レバレッジ効果が弱まる

「レバレッジ」という言葉は、日本語で「てこの原理」という意味です。投資においては「他者の資本を活用して自己資本の拡大につなげる」ということになります。

不動産投資では、自己資金と融資金を組み合わせることで、本来持っている自己資金のみで物件を購入したときよりも大きな収益を得ることができます。

つまり自己資金額の割合が多ければ多いほど、このレバレッジ効果が弱まってしまうわけです。また、頭金の額が大きければ大きいほど、自己資金の回収スピードも下がってしまうのも大きなデメリットといえるでしょう。

頭金なしでもOK!フルローンとは

「フルローン」とは、頭金なしに投資物件の物件価格を金融機関からの融資のみで調達することです。自己資金を投資物件の購入に充てなくてもよいため、余裕が生まれ、余った資金をリフォームやリノベーションの準備金に回すことも可能になります。

一方で、フルローンの融資を受けられるのは、金融機関の厳しい審査を通過した人のみです。属性の高さはもちろん、物件の担保価値も判断基準の1つです。さらに、不動産投資の成功実績など銀行からの信用を得るための材料も必要になります。

私は職業柄、多くの金融機関の担当者、不動産投資家様の話を聞くことがありますが、2022年7月時点、一棟物の不動産投資の場合は、よほどの条件が揃わない限りフルローンの審査に通るのは難しいようです。

一方、ワンルームマンション投資の場合は、サラリーマン属性などによってフルローンが出る状況ですね。

フルローンのメリット

メリット1:「資金を使わずに資産を増やせる」
物件購入時の出費が諸経費等の金額にとどまるため、少ない資金で利益を上げられます。金融機関のフルローン融資を活用することで、非常に低い金利で投資効率を高めることが可能です

メリット2:「不動産投資のスピードを上げることができる」
物件購入の際に必要な費用が少ない訳ですから、今手元に資金がなくても、目いっぱい借りられる範囲まで物件を購入することができます。たとえば、与信枠(借りられる範囲が)1億円の方が、2000万円の中古ワンルームマンションをフルローンで一気に5戸購入することが理論上可能となります。

オーバーローンってなに?

フルローンと似ている言葉に「オーバーローン」があります。オーバーローンとは物件価格以上の融資を受けることです。たとえば1億円の物件を購入する際、購入にかかる諸費用1,000万円と合わせて1億1,000万円のローンを組むことを、オーバーローンと言います。

オーバーローンで融資を受ければ、出費ゼロ円で契約でき、資金を手元に残せるというメリットがあります。しかし、金融機関にとっては、物件の担保評価を超える額で融資を行うことは非常にリスクの高い融資となります。そのため融資審査は非常に厳しく、金融機関がオーバーローンを許可する可能性は低いといえます。

頭金なしにはリスクがあることも理解しておこう

自己資金を減らさずに不動産投資を始められる点がフルローンの魅力ですが、メリットばかりではありません。頭金なし(フルローン)におけるデメリットについて解説していきます。

ローン返済額増加のリスク

フルローンのデメリットは、頭金を投入しない分毎月のローン返済額が大きくなります。ローンの返済額を家賃収入から支払うのが一般的な不動産投資のやり方ですが、返済金額によっては家賃収入だけでは返済ができない可能性も出てきます

空室になったり、修繕の必要性が出てきたりすると、すぐにキャッシュフローが悪化し自己資金を取り崩す羽目になるリスクがあります。

出口戦略に影響が出るリスク

フルローンの不動産投資では、出口戦略(売却時)に影響が出る可能性があります。投資物件を売却するタイミングは、購入した時よりも物件の価値が上がった時、または賃貸経営に行き詰まった時などが考えられます。

しかし、フルローンで物件を取得すると返済額がかなり高額になってしまうため、売却しても残債を返せないということも起きてしまいます

手持ちの資金で残債を完済できるのであればまだいいですが、手持ちの資金がなければ売るに売れない、経営を改善するための資金もないという、「出口なし」の状況に陥ってしまいます。

不動産投資で大切なのは物件を購入して終わりではなく、長期的なプランを考えることだということを頭に入れておきましょう

金利上昇の影響が大きい

前述しましたが、世界的に金利上昇傾向の中、日銀は金融緩和政策を解除、その後金利の引き上げも決定しています。フルローンを利用している場合、金利上昇の影響を大きく受けることになります

フルローンを利用すると支払金利が多くなるため、金利上昇に伴って赤字収支に転換してしまう可能性が高まります。金融機関の審査を通過できるからと言ってフルローンを利用するのではなく、あらかじめ収支をシミュレーションして慎重に検討しましょう

まとめ

不動産投資ローンにおける頭金の要否やメリット・デメリットについて解説しました。不動産投資ローンの利用にあたって頭金を入れることは、さまざまなメリット・デメリットがあります。あらゆる要素を含めたシミュレーションを行い、頭金の金額を算出しましょう。

ご参考までに私自身の話をしますと、サラリーマン時代に始めた中古区分マンション投資ではほぼフルローンに近い形で不動産投資を進めました。その後、一棟もの投資にシフトチェンジしてからは自己資金を投入し不動産事業を拡大。

その自己資金の割合も年々高くなってきています。そうすることにより、より安定的な不動産賃貸業を目指しているのです。

最後にもっとも重要なことをお伝えします。それは、入ってきたキャッシュフローをすぐに使ってしまうのではなく、しっかり銀行で積み立てをして、何かの時に備えるもよし、タイミングが来たら繰り上げ返済するもよし、次の物件購入の頭金に充てるもよし。長期計画で不動産事業に取り組むことこそが不動産投資で重要なポイントなのです。

不動産投資ローンの頭金を入れるか入れないか、
メリット・デメリットを理解した上で判断を!

この記事の監修者

アユカワタカヲ
アユカワタカヲ

宅地建物取引士/AFP/J-REC公認 不動産コンサルタントなど

2010年、世田谷区内の中古区分ワンルームマンション購入から不動産投資をスタート。区分・一棟・戸建て・日本・海外…と幅広く不動産賃貸業を営む(2022年3月時点)。

現在は総合マネープロデューサーとして、人生におけるマネーリテラシーの重要性をメディアやセミナーなどで伝えている。年間のセミナー登壇数は300本を超える。

「満室バンザイ」(平成出版)、「不動産はあなたの人生を変えてくれる魔法使い 女性の願いを叶えてくれる最幸マイホーム購入術」(ごきげんビジネス出版)など執筆。

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