コンセプト賃貸とは
「コンセプト」(concept)は、「構想」や「テーマ」という意味合いをもっています。コンセプト賃貸とは、1つのテーマに特化して建物をデザインしたり、環境や設備を整備したりすることで、画一的な賃貸物件との差別化を図った物件のことをいいます。
ターゲットを絞り込む上で、非常に効果的です。差別化を図る上で非常に効果的なコンセプト賃貸は、どのようにして生まれたのでしょうか。
コンセプト賃貸が誕生した背景
コンセプト型の住まいの先駆けは、分譲マンション。景気の変動や生活スタイルの変化にともない、高級志向や共働き向けに、タワーマンション、セキュリティマンションとスタイルを変えてきました。やがて、ゴルフ練習場のあるマンションやペットと暮らすマンションなど、コンセプトを前面に出した分譲マンションも登場しました。
コンセプト賃貸が注目を集めるようになったのは、それ以降。少子高齢化や人口減により供給過多となった賃貸物件を差別化し、収益性を上げることを目的として誕生しました。
コンセプト賃貸など個性派物件が話題に
土地に対する所有欲の低下やライフスタイルの多様化などにより、近年、持ち家志向が減少傾向にあります。それにともない、ライフスタイルに応じて手軽に住み替えのできる賃貸派が増加しています。
そうした中、SNSの影響により「理想のライフスタイルを実現したい」「自分らしさを表現したい」という風潮が広がっていることで、コンセプト賃貸の人気が高まっています。
コンセプト賃貸といえば、趣味嗜好を楽しむための施設や設備を整えた賃貸物件。そのほか、デザイン性を追求したデザイナーズ賃貸や入居者同士の交流を促進するコミュニティー賃貸も、コンセプト賃貸の一種に分類されます。
ハード面だけでなく機能性などのソフト面においても充実を図ることで、より独自性が増し、明確な差別化につながるといえるでしょう。
コンセプト賃貸のメリット
ここでは、コンセプト賃貸のメリットについて説明していきます。
入居付けしやすい
ターゲットを絞り込むことで競合物件が減り、入居付けがしやすくなります。インパクトがあって目にとまりやすく印象に残りやすいこと、訴求力が高いことも、早期に入居付けができる理由の1つです。
長期入居、家賃アップが望める
趣味嗜好に合致したコンセプト賃貸に一度住んでしまうと、もう普通の住環境では満足できないという人も多いでしょう。そのため、一般的な物件よりも長期入居の可能性が高くなります。「少しくらい家賃が高くても入居したい」というコアなファンも多いので、家賃を通常より高めに設定できるのもポイントです。
入居者同士の交流が増える
もともと入居者同士の交流を目的として企画されるコンセプト賃貸もありますが、そうでない場合でも同じ趣味を持つ人たちが集まることで、自然と入居者同士の会話が増えていきます。そのような雰囲気の良さも、コンセプト賃貸のメリットの1つです。
コンセプト賃貸のデメリット
次に、コンセプト賃貸のデメリットやリスクについて説明していきます。
需要が少ないかもしれない
コンセプトがあまりにもニッチすぎると、差別化する以前に需要が少なすぎて、入居につながらない恐れもあります。ターゲットの設定は、ある程度の市民権を得ていることを条件に絞り込むようにしてください。
建築コストが高くなる
ハード面とソフト面、いずれの場合も「独自性を出そう」「充実させよう」と思うと、それだけコストがかかります。コンセプト賃貸の場合、一般的な賃貸物件よりも2~3割コストアップすると考えてください。
運営に手間とコストがかかる
コンセプト賃貸は特殊性ゆえにイレギュラーなことも多く、トラブルが発生した際にはその都度、臨機応変な対応が求められます。設備が充実しているほど維持管理の手間やコストがかかるのも、デメリットの1つです。
リフォームしにくい
コンセプトが売りの賃貸物件ですから、リフォームしたことでコンセプトから外れてしまっては元も子もありません。軽微なものでも大家さん自身の判断でリフォームせずに、設計士やプロデュース会社に相談しながら進めていく必要があります。
コンセプト賃貸を成功させる秘訣
コンセプト賃貸は、安易に企画したのでは訴求力を高めることができず、失敗に終わってしまう可能性があります。コンセプト賃貸を成功させるために必要なこととは何なのか。今から、その秘訣をお伝えしていきます。
10年、20年先も見越した入居者ニーズ予想
コンセプト賃貸の難しさは、テーマ選びにあります。たとえば、一過性のブームに乗ったものでは一時的には評判になりますが、長期的な入居者確保は難しいでしょう。長期的な視点をもって、ニーズを予測する力が必要です。
また、テーマを選ぶ際には、地域性や立地といった基本的な条件も加味した上で、的確にターゲットを設定しなければなりません。ターゲット設定を誤ると、どれだけコンセプトがよくても入居者を集めることはできません。専門家の力も借りながら、リサーチとニーズ予測はしっかりと行ってください。
顧客満足度を追及するホスピタリティ
ニーズに合ったテーマを見つけることができても、機能面が追い付いていなければ入居者確保は望めません。たとえば、ガレージハウス。1戸に車1台分のガレージがあるだけでは、車好きの入居者を満足させることはできません。
整備や収納もできる広いスペースがあって、室内からガラス越しに愛車を眺めることができる。そんなガレージハウスなら、高い家賃に見合った満足度を提供できるでしょう。
また、ホスピタリティを考えた場合、重要なのはコンセプトだけではありません。プライバシーの確保やセキュリティ対策、基本的な住宅性能も必須であると考えましょう。
費用対効果を意識した収支計画
コンセプト賃貸は、一般的な賃貸住宅と比べて建築コストも運営コストも高くなる傾向にあります。家賃はどうするか、運営や維持管理にかかるコストをいかにして削減するか。費用対効果を考えた上で、どこまでコンセプトを追求するかを検討してください。
キャッシュフローを常に意識し、手元に残ったキャッシュをできるだけプールしておくことも大切です。時代のニーズやトレンドは日々移り行くものですから、万が一入居者の確保が難しくなった場合でも、資金をプールしておくことで方針変換することが可能です。
さまざまなコンセプト賃貸
コンセプト賃貸にもさまざまな種類、タイプのものがあります。その一例を、具体例を挙げて紹介していきます。
デザインに特化したコンセプト賃貸
まずは、デザインに特化したコンセプト賃貸のご紹介です。
デザイナーズ
北欧風やヴィンテージスタイル、シンプルモダン、カフェスタイル、町家風など、テーマに合わせて建築家やデザイナーが設計します。外観やインテリアがおしゃれでインパクトがあるのはもちろんのこと、居住空間にもさまざまな趣向がこらされています。
素材にこだわった建物は古くなるほど味わいが増すのも特徴で、多少コストがかかっても資産価値の高い賃貸物件を建てたいとお考えの大家さんには最適です。ただし、デザインだけを追求しすぎると、性能やメンテナンス性に難が生じる場合があるため注意が必要です。
カスタマイズ
壁紙や床材、照明器具、造作棚など、入居者の好みで自由に選んでカスタマイズできる賃貸物件です。スケルトン・インフィル構法を導入すれば、間取りの変更も自由自在。より細かく入居者のニーズに対応できます。
カスタマイズにかかる工事費の負担については、トラブルになることのないよう契約書できちんと定めておきましょう。最初からターゲットを絞りすぎずに、入居者のさまざまなニーズに応えていきたいという大家さんにおすすめです。
趣味に特化したコンセプト賃貸
少数派をターゲットにしたコンセプト賃貸は、絶対数が少ないこともあり、訴求力を高めることで、思い切った家賃設定をすることも可能です。ただし、かなりの設備投資が必要で、後からコンセプトを変更するには手間も費用もかかるため、コンセプトの設定は慎重に行う必要があります。
理想的なのは、大家さん自身の趣味をとり入れること。物件に愛着を持てるだけでなく、欲しい設備やこだわりのポイントがわかる分、より入居者満足度の高いコンセプト賃貸を提供できます。入居者間のイベントを企画するのもよいでしょう。ニッチなニーズを見つけることができれば、早期入居付け、長期入居で安定した収益を見込めます。
ガレージ
各戸にインナーガレージを併設した、車・バイク好きのためのコンセプト賃貸です。ガレージはできるだけ広く。心ゆくまで愛車を眺めることができるよう、部屋の一面をガラス張りにします。ガレージの中に、洗車用の水栓や電気自動車の充電スタンドがあると喜ばれます。
サイクリスト向け
ロードバイクは室内へ持ち込めるよう、屋外には洗い場を。建物内の床材は傷つきにくく滑りにくいものを採用し、廊下や出入り口の幅にも配慮が必要です。室内にはロードバイクを置ける土間かサイクルラックが必須。トレーニングルームを併設すると、趣味のサイクリストだけでなくレーサーに対しても訴求力を高めることができます。
楽器可
楽器を演奏する人向けの賃貸物件には2種類あります。各戸を防音仕様にすることで個人での演奏を可能にした楽器可物件と、音楽スタジオを併設したバンドマン向けのコンセプト賃貸。いずれの場合も、しっかりとした防音対策を施すことで、趣味の域を超えて音楽活動に取り組む入居者を受け入れることが可能です。
シアタールーム
趣味の音楽や映画を、大音量で楽しみたい人向けのコンセプト賃貸です。窓が小さめで、可動式スクリーンとオーディオ機器のディスプレイコーナーを備えたシアタールームなら、リビング兼用でも可。もちろん防音機能は必須です。
充実キッチン
部屋の中心にアイランドキッチンを配置し、大型冷蔵庫置き場を備えた、キッチンがテーマのコンセプト賃貸。料理好きな人だけでなく、賃貸でもホームパーティーを楽しみたい入、料理教室を開きたい人からも人気です。
巨大クローゼット付き
海外セレブのような、贅沢な衣装部屋のあるコンセプト賃貸。ファッションが大好きという入居者向けです。洋服も小物もすべて収納できる広さと機能。ファッションチェックのための、等身大の鏡も必要です。
ジム付き
ジム通いを日課にしている人にはとてもうれしい、トレーニングジムを併設した賃貸物件です。ランニングマシーンやエアロバイクなどの大型マシンを設置するほか、ヨガやダンスのスタジオを併設して定期的にインストラクターを呼んでもよいでしょう。
サーファー向け
一般的に賃貸経営は難しいといわれる海辺の土地に最適なのが、サーファー向けのコンセプト賃貸です。玄関から直通のバスルームや、サーフボードをおしゃれに収納できる広い土間があると喜ばれます。
建物の一部を、テナントとしてサーフショップに賃貸することも検討可能です。ダイビングやシーカヤックなど、マリンスポーツ全般に対応できるコンセプト賃貸もよいでしょう。
スポーツ
ゴルフ練習場のほか、バッティング練習場、テニスコート、フットサルコートを併設するなど、スポーツをテーマにしたコンセプト賃貸には一定の需要があります。
ライフスタイルに特化したコンセプト賃貸
多様化するライフスタイルに応じてターゲットを絞った賃貸物件で、入居者同士の交流を図る工夫を取り入れていることから、コミュニティー賃貸ともいわれています。
運営管理にはある程度のノウハウが必要で、入居者間のトラブルは懸念されるものの、キャンセル待ちが出るほど人気の物件も少なくありません。トラブル回避のため、共有部分の利用方法を、規約の中で明確にルール化しておきましょう。
ペット共生
いまや定番ともいえるペット共生型の賃貸物件。滑りにくい床材やメンテナンスしやすいクロス。くぐり戸やキャットウォーク、リードフックなど、ペットが過ごしやすい配慮が必要です。共有部分には足洗い場や、飼い主同士のコミュニティーの場を兼ねたドッグランが必須。トリミングルームがあると喜ばれます。
子育て
「地域で育てる」を具現化する、子育て世帯のためのコンセプト賃貸です。家事・育児に便利な動線と、子どもの様子がよくわかる間取り。もっとも重要なのが、子ども同士、母親同士のコミュニティー空間です。中庭を囲んだレイアウトで家の中と外をゆるくつなぎ、子どもたちを安全に遊ばせながら、母親同士お喋りを楽しめます。
SOHO
テレワークやフリーランスが増加している昨今、SOHO向け賃貸は今後ますます人気が高まると予想できます。インターネット環境は必須。可変性のある間取りで、さまざまな職種に対応。
直射日光が当たらないよう、窓の配置や大きさにも配慮が必要です。時々は気分を変えて仕事をしたいというSOHOのために、共有のコワーキングスペースを併設するとよいでしょう。
まとめ
少子化が進み、競争が激化する現代において、賃貸経営で収益を上げるためには、賃貸物件を明確に差別化することが重要です。そこで候補に挙がるのがコンセプト賃貸ですが、一口にコンセプト賃貸といっても内容はさまざま。地域性や費用対効果を考慮し、長期的な視野をもったリサーチをおすすめします。
この記事の監修者
いしわた さとみ 宅地建物取引士/二級建築士/既存住宅状況調査技術者/ホームステージャー
建築設計事務所、不動産会社、建設会社等での勤務を経て、現在は不動産・住宅・建設ライター、住宅営業、建設CADオペレーターとして活動。
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