生産緑地とは|2022年問題・生産緑地法の変遷も含めてくわしく解説します

2024.07.23更新

この記事の監修者

逆瀬川 勇造
逆瀬川 勇造

AFP/2級FP技能士/宅地建物取引士/相続管理士

生産緑地とは|2022年問題・生産緑地法の変遷も含めてくわしく解説します

生産緑地を所有者の方に生産緑地の基礎知識や変遷、2022年問題とその後についてご紹介します。

この記事のポイント
  • 生産緑地とは、1992年に生産緑地法で定められた土地制度の1つ。
  • 2022年に一斉に生産緑地の指定が解除、地価や固定資産税への影響が懸念されていました。
  • 「2022年問題」のその後についても確認し、今後の活用方法についても検討していきましょう。

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目次

生産緑地とは

生産緑地とは、1992年に生産緑地法で定められた土地制度の1つで、簡単に言うと「最低30年は農地・緑地として土地を維持する代わりに税制優遇を受けられる」ものです。

同法において、生産緑地は「良好な生活環境の確保に相当の効用がある」ことや「公共施設等の敷地として適していること」「農林漁業の継続が可能であること」「500m2以上(2017年改正で300m2)の規模であること」などの定義がなされています。

また、「令和2年都市計画現況調査」によると、生産緑地地区は全国で12,332.3ヘクタールとなっています。

エリア別の内訳を見てみると、関東に半数以上が集中し、次いで近畿、中部と続きますが、他のエリアではほとんど指定されていません

とくに多いのは東京都、大阪府のほか、埼玉県、千葉県、神奈川県、愛知県と都市部に集中していることが分かります。以下、生産緑地の特徴を3つに分けて見ていきましょう。

【特徴1】30年間の営農義務

生産緑地に指定されている土地の所有者に対しては「30年間の営農義務」が課され、また、営農義務以外にも以下のことを守る必要があります。

・生産緑地を農地として管理しなければならない
・生産緑地である旨を掲示しなければならない
・生産緑地地区において建築物や工作物の造成、土地に手を加える行為はできない。ただし、農林漁業を営むための施設等は市町村長の許可を得て設置・管理できる
このように、生産緑地はさまざまな税制優遇を受けられる代わりに多くの制約が課されています

【特徴2】相続税の納税猶予

相続や遺贈により生産緑地を取得した場合、その取得者は生産緑地分の相続税の納税猶予を受けることができます

通常と比べるとかなり優遇されますが、これはあくまでも「納税猶予」であることに注意が必要です。

たとえば、終身の営農義務が課されている生産緑地において、相続人が営農を廃止した場合、相続時までさかのぼって相続税が課税されるとともに、猶予期間に応じた利子税まで支払わねばなりません。

なお、納税猶予された分の相続税の支払いが免除されるのは、営農相続人の死亡時のみとなります

【特徴3】固定資産税の優遇

通常、農地は宅地とは異なる方法で固定資産税評価額が計算され、納税額が安く抑えられています。

しかし、市街化区域内にある土地については宅地並み評価され、納税額が高くなってしまいます

なお、東京都や愛知県、大阪府ならびにその近県にあたる区域の市街化区域農地は「特定市街化区域農地」に分類され、通常の市街化区域農地(一般市街化区域農地)よりさらに高い納税額となります。
分類評価方法・課税方法
一般緑地農地評価
市街化調整区域生産緑地地区の指定を受けた農地農地評価
一般市街化区域農地宅地並み評価
(農地に準じた課税)
特定市街化区域農地宅地並み評価
(宅地並み課税)
一方、生産緑地内にある土地については、一般市街化区域農地と特定市街化区域農地のいずれについても一般農地並みの課税がなされます。

農林水産省の「農地の保有に対する税金」によると、税額のイメージとして以下の金額が記載されています。
一般農地千円/10a
生産緑地数千円/10a
一般市街化区域農地数万円/10a
特定市街化区域農地数十万円/10a

生産緑地法の変遷

生産緑地法は1972年に制定されて以降、社会背景の変化に伴い、たびたび手が加えられています。ここでは、それら生産緑地に関わる法律の変遷を見ていきたいと思います。

1992年:新生産緑地法制定

1991年に長期の営農することで課税を農地並みとする「長期営農継続制度」が廃止され、その対策として1992年に生産緑地法が改正され、「生産緑地については農地並み課税を継続する」こととなりました。

これに伴い、もともと指定条件の厳しかった生産緑地地区の条件が緩和され、指定を受ける農地が増加しました

2016年:都市農業振興基本計画閣議決定

都市計画法において、市街化区域とは「すでに市街地を形成している区域およびおおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域」とされています。

このことから、市街化区域にある農地についても「いずれ宅地化すべきもの」とされてきました。

しかし、時代の流れとともに都市部(市街化区域)においても農地や緑地は必要なものと認識されるようになってきました。そうした背景から2015年に「都市農業振興基本法」が成立。

2016年には「都市農業振興基本計画」が閣議設定され、これまで市街化区域内の農地について「宅地化すべきもの」とされていたものが「あるべきもの」へと政策を転換することになりました。

2017年:新生産緑地法改正

こうした流れを受けて、2017年に生産緑地法はさらに改正されています。以下で、2017年に改正された生産緑地法の内容とポイントを見ていきたいと思います。

【ポイント1】特定生産緑地指定

2017年の生産緑地法の改正で「特定生産緑地」が指定されることになりました。

生産緑地は30年の営農義務経過後は市町村に対して買取の申し出ができますが、特定生産緑地に指定された土地は買取の申し出をできる時期が10年延長できることになりました。また、10年経過後は繰り返して延長申請ができるようになっています。

特定生産緑地の指定を受けた場合は固定資産税の減免などの減税措置を引き続き受けることができます。「2022年問題」の影響を緩和する意図で制定されたものです。

【ポイント2】条例による面積要件の引き下げ

生産緑地法改正の2つ目のポイントは面積要件の引き下げです。

生産緑地地区の面積要件はこれまで500m2でしたが、市町村が一定の基準のもと、条例により面積要件を300m2に引き下げることが可能となりました

これは、500m2という要件が都市部の農地にしては広いものだったことが改正に至った要因です。

【ポイント3】行為制限の緩和

最後に行為制限の緩和です。これまで生産緑地内に設置できるのは農業用施設のみでした。しかし、これでは所有者が生産緑地を使って収益を得ることが難しい状況にありました。

こうした背景から、改正後には地元の農産物を使った商品の製造、加工、販売のための施設やレストランを設置できるよう変更されたのです

2018年3月:田園住居地域創設

田園住居地域は「農業の利便の推進を図りつつ、良好な低層住宅の環境を促進する地域」です。

田園住居地域は「都市農業振興基本計画」で閣議設定された、市街化区域内の農地を「宅地転用するべきもの」から「あるべきもの」へと変更した流れの中で追加が決定されたものです。

つまり、田園住居地域の追加により「住宅と農地が混在し、両者が調和する地域をあるべき市街地像として都市計画に位置付けた」のです。

2018年:都市農地賃借法制定

生産緑地に関する法律の制定や改正が続く中、2018年には「都市農地の賃貸の円滑化に関する法律案(以下、都市農地賃借法)」が制定されました。

都市農地賃借法を一言で表すと、「生産緑地の所有者が生産緑地を第三者に貸しやすくなる法律」です。以下、本法律のポイントを見ていきましょう。

【ポイント1】法定更新適用なし

一般農地も第三者に貸すことはできますが、農地法により賃貸借契約が自動更新される法定更新制度が適用されてしまいます。これにより、一度農地を貸したら返してほしいタイミングで返ってこない可能性がありました。

しかし、都市農地賃借法の適用を受けられる生産緑地においては、法定更新制度の適用から除外されるため安心して農地を貸せるようになっています

【ポイント2】相続税納税猶予制度は継続

生産緑地については相続納税猶予制度の適用を受けることができますが、これには「自分が死ぬまで生産緑地の管理をすること」という条件がありました。

つまり、誰かに生産緑地を貸し付けてしまうと、納税猶予が打ち切られてしまうのです。

一方、都市農地賃借法の適用を受けて生産緑地を貸し出すと、生産緑地を第三者に貸しだしても相続税の納税猶予制度を継続して利用できるようになりました

生産緑地の「2022年問題」とその後

生産緑地には「2022年問題」と呼ばれる問題がありました

生産緑地は1992年に一斉に指定されているため、指定の日から30年の営農義務が終える2022年に一斉に生産緑地の指定解除がなされる予定でした。

生産緑地に指定されている間は他人に譲渡することができませんでしたが、30年の営農義務経過後は市町村に対して買取の申し出をすることが可能になり、結果として大量に市場に土地が供給され、地価の下落を引き起こすのではないかと懸念されていたのです

先述の通り、一般農地は固定資産税が安く抑えられていますが、市街化区域内農地については宅地のみ評価となっています。

生産緑地の指定が解除されると固定資産税の減免もなくなることから、所有し続けることの負担が大きいことも2022年問題が懸念される理由の1つでした
しかしその後、1992年に定められた生産緑地のうち、特定生産緑地に指定された割合は約9割、という調査の結果が発表されました。生産緑地指定の解除により買取申し出から宅地転用された土地は991ヘクタールにとどまり、地価への影響はそれほど大きなものとはなりませんでした。

特定生産緑地は10年ごとに延長を可能とし、農業従事者が亡くなった場合や何らかの事情で営農が困難になった場合は、市区町村への買取申し出ができるようになっています。

よくある質問

ここでは、生産緑地に関するよくある質問をご紹介します。
現在の生産緑地でできることはある?
生産緑地法の改正により、生産緑地でもいろいろなことができるようになりました。たとえば、営農、第三者への農地の貸し出し、獲れた作物を製造、加工、販売、獲れた作物による農家レストランの経営などが可能です。

生産緑地の所有者にとっては、税制上のメリットを受けながらさまざまな方法で収益化を目指すことが出来るようになったと言えるでしょう。
生産緑地問題は土地活用にどう影響する?
生産緑地の指定解除による地価の下落が懸念されていますが、土地の価格が低下すれば、その土地を購入してアパートやマンションを建て賃貸経営を始める人が増加することが予想されます。

賃貸物件が増えれば入居者の確保が難しくなるほか、空室状態が続く物件が増える可能性も否めません。

生産緑地問題は土地活用を行う上で注視していかなければならない問題の1つであると言えるでしょう。
生産緑地解除の手順は?
まず、市町村に買取の申出をし、市町村が買い取らない場合には農林漁業希望者へのあっせんが行われます。

ここで買取希望者が見つかった場合、所有者と買取希望者で価格などの協議を行います。申出から3カ月以内に買い取りがなされない場合には、行為制限(住宅の新築や宅地の造成)が解除されます。

なお、生産緑地解除には、主たる従事者の故障、期限の到来、所有者の死亡のいずれかの要件を満たさなければなりません。

まとめ

1992年に改正された生産緑地法により「30年の営農義務」が課され、30年経過後は市町村に買取申出できることから、2022年には大量の土地が市場に溢れる2022年問題が懸念されていました。

しかし、生産緑地法の改正された1992年から現在までの間にさまざまな法改正が行われ、生産緑地のもつ可能性も変化してきました。実際2022年以降、生産緑地指定解除となった農地は生産緑地の1割程度にとどまっています。

本記事で生産緑地の全容を理解し、今後の活用法についても検討してみてはいかがでしょうか。

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逆瀬川 勇造
逆瀬川 勇造

AFP/2級FP技能士/宅地建物取引士/相続管理士

明治学院大学 経済学部 国際経営学科にてマーケティングを専攻。大学在学中に2級FP技能士資格を取得。大学卒業後は地元の地方銀行に入行し、窓口業務・渉外業務の経験を経て、2011年9月より父親の経営する住宅会社に入社し、住宅新築や土地仕入れ、造成、不動産売買に携わる。

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