- 地面師の詐欺は一般の個人も狙われるため、契約前に不自然な点がないか冷静に確認することが重要です。
- 地面師は買い手を引き込みやすい高額条件や即決提案を行い、特に更地や所有者不明の物件を狙います。
- 不動産取引には信頼できる専門家を関与させ、リスクを減らすために第三者の意見も取り入れましょう。
目次
「地面師」とは、いったい何者…?
大ヒットしたドラマをみて、初めて「地面師」という言葉を聞いた方も多いかと思いますが、どんなものか探ってみましょう。
広辞苑などで「地面師」という言葉の意味を探すと「他人の地所を種にして売買の詐欺をする人」とか「他人の所有地を利用して詐欺を働く者」と記されています。
つまり、他人の土地を自分のものと偽り、売買をするように仕向けてその代金を取るという詐欺師であり、不動産取引の古典的な詐欺としては業界的にはよく知られているものです。
こうした地面師の手口としては更地が狙い目で、抵当権や差押登記などが付いていない場合や、地主や管理者が遠方にいるケース、また、所有者が生存不明、所在不明の放置されている空き家や空き地も狙われやすいとされています。
一方で、土地の上に建物が建っていて真実の所有者が住んでいれば、すぐに詐欺がわかってしまうのでそういった不動産の状況では起こりにくいとされています。
また、バブル期にはこの地面師による詐欺が横行して社会問題にもなりましたが、近年では不動産価格の上昇にともない、ここにきてまたも地面師が暗躍するようになっています。
現在のように、首都圏の土地価格の上昇で優良物件が不足してくると、誰もが「いい物件を買いたい!」と思うものです。こうした状況を逆手に取るのが地面師。地主に成りすましたうえで、「土地売りますよ」といいながら、代金だけだまし取ってそのままドロンしちゃう…、というものです。
地面師はドラマのように不動産会社だけではなく、一般の個人でも騙す可能性がありますので注意する必要があります。
地面師詐欺について、知っておきたい基本知識
ことさら、印刷技術などはかなり発達しており、後ほどお伝えしますが積水ハウスの事案では身分証明書に偽造パスポートが使われ、ホンモノかどうかは見破りにくいものとなっていました。
こうした背景から、買主側が必要書類を偽造と見抜けないと地面師による詐欺は防げないのが現状です。このあたりのことは、不動産取引を行う者は基本知識として知っておく必要があります。
実際の事件例:積水ハウスとアパホテルも被害に遭った巧妙な手口とは?
不動産の取引では、売買代金をすべて支払った後に買主に所有権移転がなされるわけですが、代金全額の支払後に移転登記をするために、申請内容が正しいかは直ぐには判別できません。数日後に、売主は正しい所有者でないと法務局から呼び出しが来るというパターンです。
【その一】積水ハウスの事例
当時の報道などによると、積水ハウスの事案の舞台となったのは東京のJR山手線五反田駅から徒歩5分程度、およそ600坪のまとまった土地で、周辺の不動産業者の間ではかねてから注目の案件。何年も営業していない古びた旅館の建物が建っていました。
所有者はこの旅館の女将で、抵当権などの権利関係も付着がなく、いわゆる「更な土地」だったわけです。そこに目をつけた地面師がここの女将に成りすまして、不動産取引をしたということです。
積水ハウスはマンション用地として絶好の場所と判断し、結果的には所有者の権利関係を十分に調査をしないまま、購入代金の9割の63億円を相手方に支払ってしまい。所有権移転登記を受け取ることができないという事態になったという話です。
積水ハウスのHPでは、当時の経緯についてこう述べています。
本件不動産の購入は、当社の契約相手先が所有者から購入後、直ちに当社へ転売する形式で行いました。
この不動産取引は物件の真の所有者との直接取引ではなく、第三者の法人が「この不動産を買う」という形で売買予約の契約をこの真の所有者と取り交わしており、その条件で同時に積水ハウスが売買予約による所有権移転仮登記をしていました。
積水ハウスは4月に売買契約を結び、6月1日の決済日に数十億円の決済金を支払い、通常の取引通り、所有権移転の登記関係の書類や本人確認を済ませ、法務局に所有権移転の登記を申請しました。ところが、申請から8日後の6月9日、法務局から、「土地所有者は真の所有者ではないので所有権移転の登記はできない」旨の通知をもらったのです。
法務局によれば、所有者である女将はすでに亡くなっており、親族が相続でこの土地の所有権を得たという説明でした。したがって真の所有者ではないため、所有権移転はできないとなったわけです。
積水ハウスとの取引の場に現れたのは真の土地所有者ではなく、地面師が所有者に成りすました偽者で、パスポートや印鑑登録証明書なども偽造されていました。積水ハウスはこの時点で初めて「騙された」と気づくことになったわけです。
「他人物売買」の注意点


不動産業者からすると、こうした「中間省略」の取引であれば登録免許税や不動産取得税などのコストを節約できるので、うまく利用しているのです。
「他人物売買」の制限は、あくまでも一般のエンドユーザーを保護するためのものです。宅建業者同士であれば「プロ同士の取引」として、他人物であっても制限なしで売買が可能となっています。今回、積水ハウスが被害に遭ったケースは、いわゆる他人物売買の取引でした。当然、積水ハウス側も売買にあたってさまざまな調査をしたはずですが、地面師の方が一枚も二枚も周到で上手だったことが伺えます。
【その二】アパホテルの事例
港区赤坂のホテル用地で地面師詐欺によりアパホテルが12億円の被害に遭いました。物件の状況は更地、土地の所有者はそこに住んでおらず無借金。その所有者は既に亡くなっており、2名の親族に相続されていました。
こうした状況で地面師らは所有者の相続人になりすまし、ある会社を通じて物件の売買契約を結んだかのように仕立てました。当然ながら、ある会社も地面師の一味です。アパホテルは関連会社のアパが買主となる旨を承諾し、このある会社との契約により、購入代金の約12億6千万円を支払ったわけです。この事案も、いわゆる他人物売買の一環です。
騙されたとわかったのは売買から6日後で、管轄の法務局から「印鑑証明書など登記の申請書類は偽造」と告げられたのです。
アパ側は本人確認を住民基本台帳カードで行ったのですが、実はこれが偽造されたものだったわけで、不動産権利書、固定資産評価証明書、印鑑証明書など契約に必要な書類もすべて偽造となっていました。
アパホテルとしてはホテル用地としては最適な土地と判断して売買契約をしたのですが、まさか地面師に騙されるとは思ってもみなかったようです。
積水ハウスの事例もアパホテルの事例も、いわゆる他人物売買という取引を対象にしたものです。 他人物売買の場合には、真の所有者が本当に存在するのかとか、真の所有者が第三者と本当に売買を約束したのかなど、不明瞭な点が浮き彫りになる場合があります。そうなると取引自体が信用できないということもあります。したがって、他人物売買の物件の不動産取引には充分な注意が必要になります。
なぜ不動産のプロである大手の不動産会社まで騙されたのか?
1. 偽造書類の巧妙さ
ここ最近の不動産取引では、写真付きの身分証明書の提示を求めるケースや、2種類の身分証明書を提示する場合が多くなっています。騙されないためにも、できる限り本人確認はキッチリ行う必要があります。
2. 詐欺グループの分業体制と組織力
そんな中、まったく関係のない第三者が買主側の視点から取引の場に立会っても、その取引が真の不動産取引かどうかを見極めることは不可能でしょう。
3. 取引スピードへのプレッシャー
積水ハウスの事例のように、4月24日に売買契約を結び、6月1日の決済日までの間はわずか1ヶ月程度でした。何十億もの不動産取引を1ヶ月で処理するというスピード感は、一般的な不動産取引では考えにくいものです。
地面師がそれほど早くすべての取引を完了させるには、理由があります。契約後、あまりに長い期間空けてしまうと色々と調べることができ、下手すれば「詐欺では?」という疑いが持たれます。そのため地面師側にしてみれば、早く取引完了することに越したことはないわけです。
4. 不自然に安い物件や即決を求められる取引
相場よりも安価な価格や条件が良すぎる物件には、注意が必要です。地面師は物件を買っているわけではありませんので、高く売る必要がありません。したがって、相場よりも安価で話をすることで買い手が早く見つかり、さっさと契約してお金をもらうという流れに持ち込むわけです。
地面師に騙されない!自分の身を守る防衛策4つ
1. 信頼できる仲介業者や司法書士などをパートナーにつける
2. 本人確認を専門家と一緒に行う
3. 高額条件や即決提案に注意する
4. 地面師に狙われやすい不動産の特徴を把握しておく
まとめ
取引の際には、権利書関係は法務局、身分証明書などは警察署や各行政庁に、といったように各証明書関係などを所轄の管理者に事前に確認しておくべきでしょう。
また、具体的な取引が進展しそうな場合には、「契約前に売主に事前にお会いしたい」などと言いながら、真の所有者かを確かめることも必要でしょう。加えて、購入予定地の近隣を巡ってみて該当する土地の所有者に関するヒアリングも行っておくべきです。特に「契約を急かされる」とか「なんとなく不自然な話が多い」、「早く決済して欲しい」というような違和感があれば、早急な契約や決済はしないことです。
不動産取引は難しいものがあります。とくに、売主が本当に真の所有者かどうかを見極める必要があります。したがって、契約締結前に第三者や専門家を使ってそのあたりを充分に調べておくべきです。
不安な取引を避けるために、安心して任せられる不動産会社を選びましょう。
この記事の監修者
不動産投資アドバイザー(RIA)/相続診断士/貸家経営アドバイザー/住宅ローンアドバイザー
アネシスプランニング株式会社 代表取締役。住宅コンサルタント、住宅セカンドオピニオン。大手ハウスメーカーに勤務後、2006年に同社を設立。
個人住宅・賃貸住宅の建築や不動産売却・購入、ファイナンスなどのあらゆる場面において、お客様を主体とする中立的なアドバイスおよびサポートを行い、3000件以上の相談を受けている。
WEBメディアに不動産投資についてのコラムを多数寄稿。著書に「不動産投資は出口戦略が9割」「不動産投資の曲がり角 で、どうする?」(クロスメディア・パブリッシング)など。
不動産の所有権移転登記が正しく行われるには、真の所有者からの権利移動が必要になります。お金を払ったからOKとはならないので、真の所有者であるかどうかの確認は契約締結前から重要になります。