銀行融資でも用いられる「積算価格」とは|計算方法や収益価格との違いを解説します

2024.07.18更新

この記事の監修者

吉崎 誠二
吉崎 誠二

不動産エコノミスト/社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

銀行融資でも用いられる「積算価格」とは|計算方法や収益価格との違いを解説します

今回の記事では、不動産の評価額の1つである「積算価格」の概要と計算方法、「収益価格」との違いについてもご説明します。

この記事のポイント
  • 積算価格を理解することで”不動産の見極め力”が身に付きます!
  • 金融機関にもよりますが、一般的に融資金額の上限は積算価格の7~8割程度。
  • 積算価格が高いからいい物件と安易に判断せず、その他の情報と合わせて総合的に判断しましょう。

目次

積算価格とは

「積算価格」とは、不動産鑑定理論に基づく不動産の評価額の1つです。積算価格の算出方法を「原価法」といい、土地、建物を以下の計算式で算出し、土地の価格と建物の価格を合計して「積算価格」を出します。
【建物の価格】
再調達価格(単価)※1×延床面積×(法定耐用年数-築年数)÷法定耐用年数※2
【土地の価格】
公示地価※3または路線価※4×土地面積

※1 再調達価格

建物を再び建設した場合の価格をいいます。正確な再調達価格を算出するには、建物の建築価額、建築年、延床面積などの情報が必要です。当時の建築価額や建築年の情報が分からない時には、建物に使われている材料や構造によって定められた1m2当たりの標準単価に建物の延床面積を乗じて算出します。

文化財や伝統的建築物などでは、再建築が難しい場合は適用できません。

吉崎 誠二
吉崎 誠二

※2 法定耐用年数

建物の構造によって、木造住宅22年など法定耐用年数が決められています。詳細については、以下のサイトを参考にしてください。

※3 公示地価

公示地価は、適正な取引価格を決定するための1つの重要な指標として、国土交通省が毎年3月に発表する1月1日時点の1m2当たりの土地の価格です。

※4 路線価

相続税や贈与税の評価計算のための基準として、国税庁が毎年7月に発表する1月1日時点の1m2当たりの土地の価格です。公示地価の80%程度の価格となっています。

積算価格の計算方法とシミュレーション

積算価格の計算方法、具体的に計算シミュレーションを行ってご説明します。
【物件例】築年数10年、鉄骨造(耐用年数34年)のアパートについて考えます。敷地面積は200m2、延床面積は160m2とします。なお、標準単価は25.6万円、路線価は46万円とします。

建物の積算価格

この建物の再調達価格(単価)を25.6万円/m2とした場合、
再調達価格=25.6万円×160m2=4,096万円となります。
建物の積算価格を求める以下の計算式に条件を当てはめると、

再調達価格×延床面積×(法定耐用年数-築年数)÷法定耐用年数
=4,096万円×(34年-10年)÷34年
=4,096万円×24年÷34年
=4,096万円×0.705
=2,891万円 ← 建物の積算価格

今回は、国税庁の発表しているデータを用いてシミュレーションをしましたが、建物に使われている材料や構造、地域によって再調達価格の単価を低く見積もる場合もあります。評価を行う主体によって、基準とする再調達価格の単価は異なるという点も知っておきましょう。

土地の積算価格

土地の積算価格を求める以下の計算式に条件を当てはめると、

路線価×土地面積
=46万円×200m2
=9,200万円 ← 土地の積算価格

今回は、路線価を使って積算価格を求めました。公示地価は、適正な取引価格を決定するための1つの重要な指標としての役割を持っていますが、実際の取引価格である実勢価格とは乖離も見られます。地域差もあるので一概にはいえませんが、実勢価格は公示地価の70%程度といわれています。

また、公示地価が調査される基準地は26,000地点で、必ずしも評価をしようとする土地の周辺に基準地がない場合も考えられます。一方で、路線価は32万5,000地点について公表されており、路線価のない地域も倍率方式(固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて求める方法)で算出できます。

実勢価格により近く、カバーしている地域の範囲が広いため、土地の積算価格算出をする際には路線価の方が使い勝手が良いと考えます。

建物および土地の積算価格を合計してアパートの積算価格を算出すると、例に挙げたアパートの積算価格は、建物2,891万円+9,200万円=1億2,091万円となります。

収益価格とは|収益価格の計算方法

「収益価格」も、不動産鑑定理論に基づく不動産の評価額の1つです。収益価格の算出方法を「収益還元法」といい、評価する不動産が将来生み出すと考えられる純利益と現在価値を足し合わせて、「収益価格」を算出します。

収益価格の計算方法には、「直接還元法」「DCF法」があります。直接還元法は、現1年間の収益に着目する方法ですが、DCF法は将来にわたる収益に着目しているという点で異なっています。

それぞれの計算方法についてもご説明しますが、DCF法の計算は少し複雑なので、算式と考え方だけご説明します。

直接還元法

1年間における純利益を還元利回り(表面利回り)で除して、収益価格を算出する方法です。

家賃収入6万円/月(6戸)、諸経費80万円/年、還元利回り5%である場合、以下のように計算されます。

純利益=6万円×6戸×12か月分-80万円=352万円
収益価格=352万円÷5%=7,040万円

DCF法

DCF法は、「純利益(=NOI)の現在価値の合計+復帰価格(売却価格)の現在価値」で算出します。所有期間を想定し、その期間に考えられるリスクを考慮して、年間の純利益を割り戻して「純利益の現在価値の合計」を算出します。

また、復帰価格(所有期間終了時に売却する金額)も価値低下を考慮して現在価値から割り戻して算出します。それらの合計額を収益価格とする方法です。

積算価格と収益価格との違い

積算価格と収益価格の重視するポイント、および活用される場面は異なります。それぞれの違いについてご説明します。

以下でご説明するとおり、重視するポイントや活用される場面は、積算価格、収益価格によって異なります。しかし、不動産投資をする上で、融資可能額や収益性の有無はどちらも大切なポイントです。

どちらかの評価額に偏り過ぎず、積算価格と収益価格の両評価を見比べながら不動産の価値を見極めるという姿勢も大切にしておきましょう。

重視するポイント

評価価格重視するポイント(着目点)
積算価格費用面
収益価格収益面
積算価格は、対象となる不動産を再び建設するとした場合の費用に着目した評価価格です。先にご説明したとおり、再調達価格の単価設定は、評価の主体者によって異なる点には注意が必要です。

一方で、収益価格は、対象となる不動産から生み出される収益に着目した評価価格です。物件価格を基に家賃設定などを踏まえてどれくらいの利回りが得られるかをシミュレーションできます。

活用される場面

評価価格活用される場面
積算価格融資審査をはじめ様々な場面
収益価格物件購入 物件売却
積算価格は、デベロッパーがマンション販売価格を決める時のベースや、金融機関での融資審査の際に活用されることが多いでしょう。対象となる不動産を再び建設するとした場合の費用面に着目することで、実際の需要を踏まえた担保価値があるかどうかを定量的に判断する目安とされます。

金融機関にもよりますが、一般的に融資金額の上限は積算価格7~8割程度で考えていることが多いようです。そのため、積算価格は融資を受ける際に、知っておきたい評価額であるといえます。

一方、収益価格は収益面に着目していますので、物件の購入を検討する際に収益が出る物件であるか否かを見極めるのに活用されます。

物件価格と想定家賃、想定経費をシミュレーションすると、周辺の類似物件の家賃相場と同じ水準で運営ができるのか否か、競合力が判断できます。

収益価格は、投資用物件の売買では頻繁に使われる手法です

吉崎 誠二
吉崎 誠二
また、逆の視点で、現在所有している賃貸物件の家賃条件などから逆算して、賃貸物件の現状の売却価格や価値を算出することもできます。

2つの価格評価方法とも、中古マンションなどで広く用いられる取引事例法による価格算出がそぐわない時にもちいられる方法です。

積算価格が高いからいい物件、とは限らない

今回のシミュレーションでは、国税庁が示している地域別・構造別の工事費用表のデータを活用して積算価格の算出を行いました。しかし個別具体的な積算価格を算出する場合、建物に使われている材料や構造などの費用を細かく見積もっていくケースもあります。

その際、たとえば前面道路の幅員がきわめて狭い場合には工事費用も割高になり、そのような費用も反映されていれば、積算価格は高くなる可能性もあります。また、積算価格が高い物件は運営コスト(固定資産税や修繕費など)も高くなる可能性もあります。

確かに、先にご説明したとおり、積算価格が高ければ融資の上限額は上がる可能性はあります。

しかし、先ほど例に挙げたような利便性の低い物件である場合、賃貸物件を利用する入居者が集まらず、想定した家賃収入を得られなければ収益性は低くなります。また、運営コストが高ければ利益率は低くなり、やはり収益性は低くなります。

積算価格、収益価格の有する意味や目的を理解した上で、それぞれの評価額や評価方法の活用をする姿勢が大切であると知っておきましょう。

まとめ

不動産投資に関わっていると、目や耳にすることのある「積算価格」と「収益価格」。不動産の評価額を示すものであるという点においては共通していますが、その着目ポイントや活用場面は異なります。

不動産投資を成功させるために、価値ある物件を取得するには、判断材料となる指標を正しく理解することが重要です。また、1つの方法で算出された価格だけにとらわれず、総合的に判断する姿勢が大切でしょう。

不動産の価値を見極めるために
「積算価格」「収益価格」を正しく理解しよう!

この記事の監修者

吉崎 誠二
吉崎 誠二

不動産エコノミスト/社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

(株)船井総合研究所上席コンサルタント、等を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルなどを行うかたわら、ラジオNIKKEI「吉崎誠二の5時から”誠”論」などテレビ、ラジオのレギュラー番組に出演。また新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は年間多数。

著書:「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社)など11冊。

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