個人事業主が不動産投資をするメリット・デメリット|注意点や法人化についても解説します

2024.07.18更新

この記事の監修者

八木エミリー
八木エミリー

証券外務員一種/2級FP技能士

個人事業主が不動産投資をするメリット・デメリット|注意点や法人化についても解説します

不動産投資に興味がある個人事業主の方に向けて、始めるメリット・デメリットや注意点、法人化についてわかりやすく解説します。

この記事のポイント
  • 青色申告特別控除の条件をクリアしやすいため、個人事業主が不動産投資を行うのは有利です。
  • 家賃収入は安定した収入源となりやすいため、個人事業主とは相性が良いと言えるでしょう。
  • 法人化するべきか否かは、本業の収入や投資の目標によっても異なります。

目次

個人事業主でも不動産投資はできる?

個人事業主でも、不動産投資を始めることは可能です。一般的に、収入が不安定なイメージを抱かれやすい個人事業主。しかし、税制面を考えると、不動産投資と相性がよいといえます

ただし、個人事業主が不動産投資を始める際はデメリットや注意点が複数ありますので、事前に情報収集をしておきましょう。

そもそも個人事業主とは?

個人事業主とは、みずから独立して事業を行う方です。そのため、法人と雇用関係にある方や、他者から給与収入を得ている方は個人事業主に該当しません。不動産投資のために開業届を提出した場合、「不動産賃貸業」という事業を営む個人事業主になります。

また、不動産投資は法人として行うことも可能で、人によっては法人化したほうがよいケースもあります。法人化については記事の後半で解説しますので、ぜひご確認ください。

サラリーマンが個人事業主として不動産投資を行う場合

昨今は、副業として不動産投資を始める方が増えています。会社員が税務署へ開業届を提出すれば、個人事業主として不動産投資を始められます。会社員が副業として行う場合、収入が安定しているため融資を受けやすい点や、賃貸経営で生じた収入を経費計上できる点がメリットです。

ただし、デメリットとして、不動産投資の規模が一定以上になると個人事業税の納税義務が生じる点、青色申告を受けるためには複式簿記による帳簿付けが必要な点が挙げられます。また、注意点として、青色申告特別控除(55万円または65万円)を受けるためには、不動産投資の規模が事業規模でなければならない点です

賃貸経営で得た家賃収入は、規模の大きさに関わらず「不動産所得」です。ただし、同じ不動産所得でも事業的規模か否かで税制上の取り扱いが異なります。

個人事業主として不動産投資をするメリット

個人事業主が不動産投資を行う場合、税制面や収入面などでメリットがあります。メリットは複数ありますので、順番にご紹介しましょう。

青色申告の制度上、サラリーマンよりも有利

所得税を計算する際の基準となる「所得」は、特徴に応じて10種類に分類されます。事業を営む個人事業主の所得は「事業所得」です。現在、事業所得を得ている方は、給与所得のみを得ている会社員が青色申告制度を利用するよりも有利です

不動産投資による家賃収入は「不動産所得」に該当します。不動産所得を得た方は、賃貸経営の規模に関わらず、申請すれば青色申告による確定申告が可能です。ただし、給与所得と不動産所得のみの方が青色申告特別控除(55万円または65万円)を受けるためには、不動産投資の規模が「事業規模」でなければなりません

事業規模とみなされるかどうかの基準

・アパート等がおおむね10室以上
・独立した貸家が5棟以上
上記はあくまでも目安です。事業規模に該当するかどうかは、不動産会社や税理士などの専門家へご相談ください。

一方、事業所得と不動産所得の両方がある場合、条件を満たせば賃貸経営の規模が事業規模でなくても青色申告特別控除(55万円または65万円)を受けられます。

青色申告特別控除の条件

・不動産所得または事業所得を得ている青色申告者
・複式簿記で取り引きを記録している
・確定申告時に貸借対照表、損益計算書を提出する
青色申告特別控除(55万円または65万円)の条件は、不動産所得のみの場合と事業所得プラス不動産投資の場合では、後者のほうが達成しやすくなっています。個人事業主として事業所得がある方が不動産投資を始める場合、会社員よりも有利です。

経費を有効的に使うことができる

個人事業主の方は、事業に関連する支出を経費として計上しているでしょう。不動産投資においても、賃貸経営に関するさまざまな経費を計上可能です。必要経費として認められる支出の例は以下の通り。

・賃貸経営にかかる税金(固定資産税、登録免許税など)
・入居者募集にかかる費用(仲介手数料、広告費など)
・マンションの管理費、修繕積立金
・損害保険料(火災保険料・地震保険など)
・修繕費
・減価償却費

とくに、減価償却費(※)は支出をともなわない経費です。減価償却費を上手に活用して所得を減らせば、節税効果を期待できます。

※減価償却費

建物の購入価格を、一定期間に分けて経費計上する際に用いる勘定科目です。

本業以外の収入源を確保できる

個人事業主は、会社員よりも収入が不安定になりがちです。家賃収入を得られれば、新たな収入の柱を確保できます。安定した収入源を確保したい方にとって、不動産投資は相性がよいといえるでしょう。

今後別事業を始める場合にも始めやすい

すでに個人事業主として事業を営んでいる方だけでなく、これから個人事業主になる方にとっても、不動産投資を始めるメリットがあります。

不動産投資を行うことは「不動産賃貸業」という事業を営むことです。一般的な事業と同様に、収入・支出に関する帳簿付けを行います。今後、個人事業主として新しい事業を始めたい方にとって、確定申告にともなう会計処理は必須です。不動産投資で会計の知識を身に付けておくと、新規事業にも取り掛かりやすくなるでしょう

個人事業主として不動産投資をするデメリット

個人事業主として不動産投資をする場合、融資を受けにくい、確定申告の手間がかかるといったデメリットがあります。メリットとあわせて、デメリットも確認しておきましょう。

融資を受けにくい

賃貸経営に必要な土地や建物は高額になるため、融資を受けて物件を購入する方がほとんどです。ただし、事業開始から間もない方や本業で赤字が続いている方は、融資審査に通りにくい傾向があります

一般的に、個人事業主が融資を受ける場合、黒字の決算書3期分が必要といわれています。そうでない場合、融資を受けることは難しいかもしれません。審査基準は金融機関によって異なりますので、お近くの金融機関へ確認してみるのも手です。

確定申告をする必要がある

個人事業主の方は毎年確定申告をしていると思いますが、不動産投資においても同様です。不動産投資のための帳簿付けや作業が増える分、面倒に感じることがあるでしょう。

個人事業主として不動産投資をする際の注意点

ここまでは、個人として不動産投資を行うケースを中心に解説しましたが、不動産投資には「法人化」という選択肢もあります。法人化せずに個人事業主として不動産投資を行う際の注意点は「個人事業主と法人では経費の取り扱いが異なる」点です。

たとえば、法人の場合は法人から賃貸経営者への給与を「役員報酬」として支払い、必要経費へ算入できます。賃貸経営者からすると役員報酬は給与所得となり、給与所得控除を利用できます。

一方、個人事業主の場合はこのような方法を利用できません。また、個人事業主の自宅にかかる固定資産税は必要経費となりませんが、法人化して社宅とすることで適正額まで損金算入できます。

個人事業主よりも法人のほうが経費として認められる範囲が広がるため、節税効果が大きくなる可能性があります。ただし、どちらが有利と一概には言えないため、税理士へ相談のうえ、慎重に検討することが大切です。

法人化すべきタイミングとは

先ほどお伝えしたとおり、不動産投資には「個人」または「法人」という2つの選択肢があります。法人化した場合、賃貸経営者が会社の代表となり、資本金を出資して、会社が物件を購入・所有するという構図になります。

法人化すべきタイミングの1つは「事業規模を拡大していきたいと思った時」です。たとえば、個人の場合、本人が高年収でも年収の〇倍など上限が設けられているケースが多いです。

そのため、個人の融資限度額を超えるほど大きな投資をしたいと思っても、融資を受けられない可能性があるでしょう。法人化して実績を出していくことで、個人よりも多くの融資を受けられるようになります

法人化する流れと費用

法人化の流れと費用をまとめたので、検討する際の参考にしてください。

【法人化の流れ】
STEP1会社設立の準備(代表者印の準備、役員の決定など)
STEP2定款の作成・認証
STEP3法務局へ設立登記申請書を提出
STEP4税務署へ必要書類を提出(法人設立届出書など)
【法人化の費用】
目安30万円(株式会社の場合)

不動産は購入後に気軽に売却することが難しいため、そもそも個人で購入するか法人で購入するかの見極め、戦略がとても大切。最初の1件を購入する前に、自分がどの程度不動産投資の規模を広げていきたいか考えていくことがとても重要です。

八木エミリー
八木 エミリー

法人化して不動産投資をするメリット・デメリット

法人化して不動産投資をするメリット・デメリットをご紹介しますので、個人事業主・法人を選択する際の参考にしていただければと思います。

法人化のメリット

法人化のメリットは、個人よりも融資を受けやすい点です。個人よりも法人のほうが金融機関から信頼されやすく、事業を拡大しやすくなります。

先述のとおり、個人では融資限度額があるため、事業規模を拡大したいと思っても融資を受けられない場合があります。法人として実績を積みあげることで、より大きな融資を受けられるでしょう

初めから求める不動産投資のゴール、規模感を決められたのであれば、始めの1件から法人化させるのも手です。

八木エミリー
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法人化のデメリット

法人化のデメリットは、費用や手間の負担が大きい点です。たとえば、法人設立時の費用(目安で30万円程度)や会計処理を依頼するための税理士報酬といった維持費がかかります。また、法人の利益が赤字の年でも、法人住民税の納税義務が生じます

法人設立時には必要書類の準備・申請や定款の作成など手間もかかるため、個人事業主として不動産投資を始めるよりもハードルが高いといえるでしょう。

そこまで規模を追い求めないのであれば、意外とデメリットが大きい法人化。不動産投資は経費についてシビアな部類であることが多いため、初期経費や税金を払ってまでも法人化させたいかはしっかり考えるべきです!

八木エミリー
八木 エミリー

目的や目標に沿って個人事業主/法人化を決めよう

個人事業主として不動産投資を始めるか、法人化するべきかはケースバイケースです。将来的にどれくらいの規模を目指すのか、本業でどれくらいの収入があるのかなど状況によって異なります。不動産投資を始める目的や目標をしっかりと考えたうえで、個人事業主・法人化を検討しましょう

まとめ

個人事業主の方でも、不動産投資を始めることは可能です。ただし、デメリットや注意点もありますので、前もって情報収集しておくとよいでしょう。

また、不動産投資には、個人・法人といった2つの選択肢があります。どちらがよいかは目的や目標、本業での収入などによって異なるため、税理士や不動産会社へ相談のうえ、慎重に選択しましょう。

個人事業主と不動産投資は相性がいい?
メリット・デメリットをおさえた上で始めましょう!

この記事の監修者

八木エミリー
八木エミリー

証券外務員一種/2級FP技能士

新卒時に野村證券入社。新人時に営業成績東海地方1位を獲得。2016年より不動産を購入。現在7棟を所有。2019年より独立系ファイナンシャルアドバイザーとして主に富裕層向けに資産活用のアドバイスを行うほか、一部上場企業の社員向けセミナー講師としても活躍。オンラインサロン「em会」にて金融知識の啓蒙に務める傍ら、地域活性事業など活動も行う。東京駅に近いバイリンガルスクール「WONDER KIDS BILINGUAL PREP SCHOOL」オーナー。「元証券ウーマンが不動産投資で7億円」など執筆。

●紹介されている情報は執筆当時のものであり、掲載後の法改正などにより内容が変更される場合があります。情報の正確性・最新性・完全性についてはご自身でご確認ください。
●また、具体的なご相談事項については、各種の専門家(税理士、司法書士、弁護士等)や関係当局に個別にお問合わせください。