【タワマン節税規制】2024年の改正内容や投資への影響をわかりやすく解説します

2024.07.19更新

この記事の監修者

吉崎 誠二
吉崎 誠二

不動産エコノミスト/社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

【タワマン節税規制】2024年の改正内容や投資への影響をわかりやすく解説します

2024年に導入される可能性が高いとされるタワマン節税対応の税制改正案が2023年6月に国税庁から発表されました。その内容および今後のタワマン投資の注意点について詳しく解説します。

目次

今後のタワマン節税は慎重に検討しましょう

2024年タワマン節税封じの税制改正が実施される?

2023年6月22日、マンションの財産評価に関する有識者会議が開催され、マンションについての財産評価方法に関する見直し案が議論されその内容が公表されました。これを受けて、国税庁は通達案を作成しパブリックコメントを公募する予定となっていますので、順調に行けば来年から改正案が施行される公算が高まっています。

改正内容は、今まで行き過ぎだった相続税対策のための不動産購入を是正する内容となっています。今後、相続税対策のためにマンションを購入しようと考えている人にとっては、想定どおりの節税効果が得られない可能性がありますので注意が必要です。

公表された見直し案の内容は、これまでの方法で算出された相続税評価額と市場価格の差が60%以上になる場合に、60%程度になるように是正しようとするものです。これによって、タワマンなど相続税の節税効果が高かったマンションの評価は、一般的な一戸建て住宅の水準に近づくことになります。

なぜ改正に至ったのか?

都市部を中心に人口が増加し、マンションが多く建設されるようになった中で、マンションの財産評価方法に着目した相続税対策が広く行われるようになりました。国税庁の調査では、マンションの約65%の財産評価が市場価格の50%以下になっているのに対して、一戸建ての財産評価は60%程度にとどまっているとのデータがあります。

この数字は国税庁がサンプル調査した全国平均のデータです。東京都心の高層マンションでは30%・40%台の部屋も多くあるようです。

吉崎 誠二
吉崎 誠二
以前より国税庁は、この相続税評価と市場価格との乖離を問題視していました。そのような中で、2022年4月にマンションの相続税評価に関する事案において言い渡された最高裁判決は、業界を仰天させるものでした。国税庁の通達による評価方法によって算出された相続税評価額が、著しい税負担の不公平を招くと認められた事案については、国税庁が独自に相続税評価額を算出しうるとしたものです。

この判決によって、事案の当事者は3億3,000万円もの追徴課税を受けるという事態に陥りました。この最高裁の判決によって、不動産の財産評価を総合的に見直そうという機運が高まり、今回の改正に至ったのです。

これまでのタワマン投資の概要と仕組み

タワマンとは概ね20階建て以上のマンションのことを言いますが、注目され始めたのは、1997年の建築基準法改正によってタワマンの建設に有利な容積率算出方法が採用され、また日照権が緩和されたことがきっかけです。これ以降、首都圏など都市部でタワマンが急増し、タワマンを所有することによるステータス的な気運が広まりや内装・共用設備の豪華さもあってタワマンは大変な人気物件に成長しました。

アベノミクスによる大規模な金融緩和が不動産価格の上昇を後押しし、最近のマンション価格は平成初期のバブル期を超える価格にまでになっています。価格が上がれば需要は抑えられるのが通常ですが、タワマンは市場価格が高いほど相続税対策の効果が高いため、人気が落ちることはありませんでした。

とくに、大都市部や地方中心都市のタワマンは人気があって資産価値が落ちにくい傾向にあるのに加え、高層階になればなるほど市場価格と相続税評価額の乖離が大きくなるという特徴があったために、相続税対策に悩む投資家の間でタワマン投資がブームになったのです。

都市部だけでなく、地方都市の駅前再開発などで建設されるタワマンは、数が少なく希少性があるため、資産価値が下がりにくく、人気が高くなっています。

吉崎 誠二
吉崎 誠二

市場価格と相続税評価額の差を利用した節税スキーム

タワマンを活用した相続税対策は、市場価格と相続税評価額の乖離に着目したスキームです。現金や株式などの金融商品は、時価がそのまま相続税評価額となるために、たとえば現金を株式や投資信託に変えても相続税は変わりません。しかし、不動産の場合には建物は固定資産税評価額、土地は国税庁が公表している路線価等による独自の財産評価方法によって相続税評価額が算出されます。

建物の評価について、一般的に固定資産税評価額は時価の7~8割となりますが、この固定資産税評価額は一棟のマンションの評価額を専有面積で按分して算出され、マンションの階数や向きなどは考慮されません。タワマンは同じマンションでも階数が上がるほど、一般的に販売価格が上がりますので、タワマンの高層階であればあるほど市場価格と固定資産税評価額(相続税評価額)の差は大きくなります。

土地の評価(敷地権の評価)については、マンションの敷地の相続税評価額を敷地権持分で按分された価額になります。大規模なタワーマンションの場合には一棟の戸数が多いために土地の相続税評価も割る数が増えるため比較的低くなります。

このような理由から、タワマンの高層階の相続税評価は市場価格の3割程度になってしまうこともあるのです。

賃貸にするとさらに評価減!

さらに、所有する住宅を他人に賃貸するといくつかの相続税評価減の特例が適用されます。タワマンでももちろん適用されます。

タワマンを自宅として住んでいる場合には、相続人が同居の親族でないと相続税評価減の特例を活用することはできません。しかし、賃貸している場合には、建物について貸家の評価減、土地については貸家建付地の評価減および小規模宅地の評価減の適用があります。賃貸不動産は自分で使うことができないために、活用方法が制限されていることを考慮した評価減の特例です。

これにより、建物は30%の評価減、土地については路線価における借地権割合によって変わってきますが貸家建付地・小規模宅地の評価減をあわせて60%以上の評価減となることもあります。

タワマン節税封じの新ルールとは?

税負担の不公平感を招くタワマン節税を抑制するために、不動産の相続税評価方法について新しいルールが24年から導入されようとしています。建物の評価については再建築価格を想定した固定資産税評価額が用いられていましたが、個別のマンションの特徴が反映されたものではありませんでした。

国税庁が発表した新ルールによれば建物の築年数やマンションの階数、対象住戸の存在する階数などから、市場価格の理論値を想定し、市場価格理論値と従来の方法で算出した相続税評価額の乖離が大きい場合には、補正を行うというものです。ここで乖離を比べるための市場価格はあくまで理論値であって、実際の購入価格を考慮するものではないため注意が必要です。

市場価格と相続税評価額の乖離率を導入

具体的には対象マンションの築年数、マンションの階数、対象住戸の存在する階数、対象住戸の敷地権の狭小度に、市場価格や相続税評価額のデータ統計に基づいて算出した指数を乗じて、対象マンションの相続税評価額と市場価格理論値にどれぐらい差があるかの値を算出します。

これを「評価乖離率」と定義し、評価乖離率が1.67倍以上の場合には、一律に市場価格理論値の60%を相続税評価額とすることにしました。つまり、改正後は評価額が市場価値理論値の60%(≒1÷1.67)に達しない場合、60%になるまで補正を行うというルールになったのです。

評価乖離率の算出については、また対象住戸の階数が高層階であればあるほど、一室の専有面積当たりの敷地権の面積が小さければ小さいほど乖離率が高くなるような計算式となっています。過度なタワマン節税を抑制しようとした新ルールであることは否めません。

タワマンに限らずマンションも増税対象に入る?

今回の新ルールは、20階建て以上のマンションを言うタワマンに限らず、一般のマンションについても適用されます。
築年数が浅く、高層階に存在するマンションについては、一般のマンションについても評価乖離率が1.67倍以上になるケースが想定されます。そのようなマンションについては新ルールによって評価額が上がることになります。

逆に、計算上評価乖離率が1.0未満になるケース(築年数が50年前後経過・低層で広めの敷地面積に立地している低層ビンテージマンションなど)は、従来の相続税評価額に乖離率を乗じたものが新しい評価額になりますので、評価額は下がります。

相続税評価額の計算式|改正前後比較

それでは、改正前と改正後で相続税評価額にどの程度の差があるのかを検証してみましょう。以下のタワーマンションを例に相続税評価額を計算してみます。

(例)
所在地東京都港区
マンションの総階数33階
マンションの所在階25階
築年数10年
専有面積69㎡
マンション全体の敷地面積4,000㎡
一戸当たりの敷地権面積13.2㎡
敷地権持分0.0033
建物の固定資産税評価額2,400万円
敷地権の相続税評価額800万円

【改正前】計算式

従来の方法では、マンションの相続税評価額は以下のように算出されます。

(相続税評価額)=(建物の固定資産税評価額)+(敷地権の相続税評価額)

例を基に計算すると3,200万円です。購入価格は、現在の相場を考えれば1億円を超えると推測されることから、かなり相続税評価額が減じられたことがわかります。

【改正後】計算式

改正後の新ルールでは、相続税評価額は以下のように計算されます。

※評価乖離率が1.67倍以上の場合、
(相続税評価額)=(従来の相続税評価額)×(評価乖離率)×60%

(評価乖離率)=築年数×(-0.033)+総階数指数×0.239+所在階×0.018+敷地持分狭小度×(-1.195)+3.220

※(総階数指数)=階数÷33(33階以上のタワマンの場合は1とする)
※(敷地持分狭小度)=対象住戸の敷地権面積÷対象住戸の専有面積

例のマンションを基に計算してみると

(評価乖離率)=10×(-0.033)+1×0.239+25×0.018+0.191×(-1.195)+3.220=3.35

評価乖離率は1.67倍以上なので、
(相続税評価額)=3,200万円×3.35×60%=6,432万円

新ルールでの相続税評価額は、およそ2倍に跳ね上がった計算になりますので、大幅な負担増となります。

今後のタワマン投資の注意点

タワマンは駅近の好立地であることが多く、付近の再開発と合わせて建設されることが多いため住環境としては抜群です。専有部分の設備仕様は豪華で共用部分も充実しているために、これからも人気を博することは間違いありません。

しかし、投資や節税を目的としたタワマン購入にはこれまで以上に注意が必要です。余裕を持った資金計画のほか、想定した節税効果が得られるのかについて検証が必要になります。

節税効果が薄くなる

具体的な計算例で示したとおり、とくに相続税の節税効果は従来に比べて抑えられます。節税効果を狙ってタワマンを購入するのであれば、従来のような劇的な評価減にはつながらないことを肝に銘じておくべきです。

それでも、賃貸に出して運用するのであれば、貸家の評価減や貸家建付地・小規模宅地の評価減が活用できるために、現金や金融商品を保有することに比べれば一定の節税効果が期待できますので、選択肢の1つとしてタワマンに投資することは考えられます。専門家と相談しながら、ほかのアパート・マンション投資と比較検討してみるとよいでしょう。

初期投資額が非常に高額になる

日本では、低水準の金利が続いていることが一因となり、住宅価格は高止まりしています。タワーマンションは郊外のものでも億ションとして販売されているものも見かけられるほどです。初期投資額がかなり高額になりますので、それに見合った家賃を設定できるかについては市場調査が必要です。

都心の一等地のタワーマンションであれば、賃料が100万円を超える金額の賃貸物件でも一部の富裕層や外国人向けに募集すれば借り手は付きますが、都心から離れるとそこまで強気の家賃設定はできません。投資に合理性がなければ事業計画が破綻してしまうとともに、節税目的が主たる目的の投資として国税庁のメスが入る可能性もあります。

出口戦略までの計画を立てる

不動産投資は売却して利益を確定させるまで気が抜けません。出口戦略まできっちりと事業計画を立てておくことで、売却時の判断材料になります。

タワーマンションは資産価値が落ちにくいことで人気がありますが、一部のタワーマンションは水害などの影響で価値が下落しているものもあります。このようなリスクを考慮しつつ、売却時期や売却価格を検討することが大切です。

まとめ

不動産を活用した相続税対策は効果的であることは変わりありません。しかし、タワマン節税については、新ルールが施行されることで従来のように劇的に相続税評価が下がるということはなくなりそうです。

最終的にどのようなルールになるか、またいつから施行されるのかについては、今年の税制改正大綱を待つ必要があります。今後の動向を見守っていきましょう。

今後のタワマン節税は慎重に検討しましょう

この記事の監修者

吉崎 誠二
吉崎 誠二

不動産エコノミスト/社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

(株)船井総合研究所上席コンサルタント、等を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルなどを行うかたわら、ラジオNIKKEI「吉崎誠二の5時から”誠”論」などテレビ、ラジオのレギュラー番組に出演。また新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は年間多数。

著書:「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社)など11冊。

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