監修吉崎 誠二
【資格】宅地建物取引士
不動産エコノミスト/社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、等を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルなどを行うかたわら、ラジオNIKKEI「吉崎誠二の5時から”誠”論」などテレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は年間多数。著書:「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社)など11冊。
吉崎誠二公式サイトhttp://yoshizakiseiji.com/
2023年最新の地価公示からわかる不動産市況
2023年の地価公示からわかる直近の不動産市況についてご説明します。
2023年の全国の地価公示概要
2023年の地価公示を見ると、全国平均では、全用途平均で+1.6%、住宅地で+1.4%、商業地で+1.8%といずれもプラスとなりました。2年連続のプラス、またいずれも上昇幅拡大ということになります。
新型コロナウイルス感染症の影響が徐々に緩和される中で、全体的に景気回復傾向が見られるようになってきました。それに加えて、低金利環境の継続、住宅取得支援施策などによる下支えの効果もあって、住宅需要が堅調であることから、住宅地地価上昇が続きました。
2023年の地価公示では、新型コロナウイルスの影響から地価の回復がより鮮明になってきました。都市部や地方主要都市を中心に上昇幅が拡大、そして住宅地においては都市の郊外へ上昇の波及、また都市部から地方へ上昇の波及が顕著に見られました。
2023年の3大都市圏の地価公示概況
3大都市圏(東京圏・大阪圏・名古屋圏)の状況をみれば、全用途は+2.1%、住宅地は+1.7%、商業地は+2.9%(前年は-1.3%)と、いずれも前年からプラス幅が大きくなりました。
とくに、住宅地ではリーマンショック前のミニバブル期最高潮だった08年、あるいは新型コロナウイルスの影響がなかった20年を超える伸びとなりました。都市中心部だけでなく、生活スタイルの変化によるニーズの多様化に伴い、郊外の地価も上昇が目立ちました。
一方、商業地では、いずれの域圏においてもプラス幅が拡大しましたが、住宅地のように20年の時の伸びを超えておらず、回復途中にあるといえるでしょう。ただ、国内外からの観光需要が旺盛な地域や再開発が進むエリアでの上昇がめだちました。
2022年までの不動産市況動向は
2022年までの不動産を取り巻く市況動向には以下のようなことがあげられます。
おおまかに下記内容を要約すると、新型コロナウイルスの影響で大きく落ち込みましたが、経済的には緩やかな回復傾向にあるものの、完全回復には至っていません。また経済波及効果が見込まれた東京オリンピックに向けて、インフラ整備などは進められ、それに呼応するように都心の多くの地域で再開発が進みました。それらによる不動産市況へのプラスの影響は大きいものとなりました。
新型コロナウイルス感染症の影響
2020年春ごろから本格化した新型コロナウイルス感染症は、2022年に入ってもオミクロン株が流行し、警戒感は根強く残りました。そのため、ワクチン接種が進展するなかでも個人消費が伸び悩みました。しかし新規感染者数が下げ切らないなかでも、重症化率の低さなどを理由に政府は感染拡大防止対策を緩和する方針を打ち出し始めました。その結果、感染拡大の下でも個人消費は安定した推移を続け、日本経済がようやくコロナ禍を乗り越えつつある状況が見えてきましたが、まだ完全回復とは言えない状況です。
オリンピック後の影響
コロナ禍の2020年に東京オリンピックが開催されました。オリンピック開催に際しては、どの国でも大規模なインフラ整備や施設建設が行われます。それは不動産価格の上昇につながります。しかし、東京オリンピックにおいては、コロナ禍のため、開催が1年延期されたことや、経済環境が良くなかったという状況、無観客開催に踏み切ったことなどが影響し盛り上がりに欠け、不動産価格の上昇には限定的なものとなりました。
不動産価格は今後どうなる?
2023年以降の不動産価格は、いまのような経済・金融環境がつづけば、上昇傾向が継続していく可能性があります。
実需用の住宅、投資用の住宅とも新築物件は土地価格の高騰、原材料費の高騰などの要因のため、価格は高止まりするでしょう。そのため、需要が追い付かない可能性も否定できません。
そのため、さらに中古市場に注目が集まり、中古物件の価格が上昇していく可能性がまだ多少あるかもしれません。不動産投資を行う際に、「今後も価格維持できる物件かどうか」という物件の目利きが、今まで以上に求められることになるでしょう。
2023年の不動産市況に影響する要因
不動産市況に影響する要因としては、さまざまなことが考えられます。そのなかでも、影響の大きいものには、以下のような要因があげられます。
円安
現在、円安の状況が継続しています。コロナ禍により世界的に経済が落ちこんだものの、2021年からはアメリカをはじめとする各国で経済の正常化が進み、緊急経済対策として利下げを行っていた国も、利上げに転じるようになりました。しかし、日本では日本銀行が2016年から景気対策として導入したマイナス金利政策が、現在も継続しています。その結果、アメリカと日本の政策金利の差が開き、ドルの価値が日本円より高くなる、いわゆる円安が生じています。
円安(1ドル=100円で買えていたものが、1ドル=130円ださないと買えなくなる状況)となると、輸入資材を取得するコストが高くなります。建設資材にも影響は出ているため、不動産の取得コストは上昇しています。
金利の上昇
記録的な円安状況を解消するために、日本銀行は2022年12月に、事実上の利上げともいわれた「従来±0.25%程度としてきた長期金利の変動許容幅を±0.5%に拡大」する発表をしましたが、あくまでもマイナス金利政策は維持する方針であるとしています。しかし、今後、個人消費が順調に回復をしていけば、金利上昇の可能性はゼロとはいいきれないでしょう。
スタグフレーション
スタグフレーションとは、おおまかにいえば、不景気なのに物価が上昇していく状況のことをいいます。賃金がインフレ率以上に伸びない状況、つまり実質賃金の減少もある中、先に触れた円安や後段で触れるロシアのウクライナ侵攻による物価高騰が進んでいる現在は、スタグフレーション状態といえます。
ウクライナ侵攻
ロシアのウクライナ侵攻も影響しています原油などのエネルギー資源のほとんどを海外からの輸入に依存している日本は、ロシアから輸入しているものも多くありました。こうしたことから、さまざまなモノやエネルギーの価格高騰につながっています。さらには、不安定な政情時にお金がドルに流れやすくなる傾向もあり、円安が進行する要因にもなっています。
不動産投資への影響を予測すると
地価公示の動向や不動産投資を取り巻く市況がどのように不動産投資に影響するのかについてご説明します。
不動産(マンション)価格はどうなる?
不動産(マンション)価格は、このところ横ばい基調になってきましたが、依然として高止まりが続いています。価格上昇傾向が始まった2013年ころは、ちょうどオリンピック開催決定に湧いたという影響もありました。その後は低金利政策が続いていること、共働き世帯が増えた事、政府によるローン減税が続いていることなどが、継続的に不動産価格が上昇している理由でした。新築物件は、土地価格上昇や原材料費の高騰が続き、バブル期に匹敵する平均価格となっています。その結果、中古物件の需要が高まり、中古物件の価格上昇が続きました。今後ももうしばらくは同様の傾向が続くでしょう。
家賃の値上げは?
不動産価格があがっているのであれば、家賃値上げもできるのでは?と考える方もいらっしゃるでしょう。家賃の値上げについては、民法に「建物の借り賃が、土地若しくは建物に対する租税そのほかの負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下そのほかの経済事情の変動により、または近傍同種の建物の借り賃に比較して不相当となった時は、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって借り賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借り賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。」と規定があります。
つまり、近年の物価高騰の影響などで、不動産の価値が高まって固定資産税などの負担が増えたり、周辺類似物件の家賃と比較して適正といえなくなったり、といった理由から、家賃の値上げに踏み切る方も出てくるかもしれません。
とはいえ、家賃値上げには、借主の同意も必要です。物価高騰によって、大家の意向だけで家賃を上げることはできません。周辺相場や所有物件の固定資産税評価額の推移を把握した上で、客観的な情報を示していくことが必要になります。
まとめ
金利動向・融資環境が今のまま続くようなら、あとしばらくは、不動産価格の上昇は続いていくでしょう。不動産投資を賢く進めていくためには、不動産会社や管理会社に丸投げするのではなく、大家さん自身が経済動向に目を向けて、自分の資産を育てていく自覚をもつことが何よりも大切です。日ごろから不透明な社会情勢に対する意見をもち、不動産投資の成功につなげていきましょう。
監修吉崎 誠二
【資格】宅地建物取引士
不動産エコノミスト/社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、等を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルなどを行うかたわら、ラジオNIKKEI「吉崎誠二の5時から”誠”論」などテレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は年間多数。著書:「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社)など11冊。
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●紹介されている情報は執筆当時のものであり、掲載後の法改正などにより内容が変更される場合があります。情報の正確性・最新性・完全性についてはご自身でご確認ください。
●また、具体的なご相談事項については、各種の専門家(税理士、司法書士、弁護士等)や関係当局に個別にお問合わせください。
今年の地価公示で特に注目を集めたのは、地方都市の住宅地地価の上昇でした。大都市部から地方主要都市、そして地方主要都市の周辺地域にまで広がりを見せています。都道府県単位でみれば、22の都道府県で住宅地地価は上昇し、これはリーマンショック以降では最多となっています。