近年、需要が増えつつある戸建賃貸。土地の形や立地に左右されず建てることができ、アパートやマンション経営よりも利回りが良いと言われており、ローコストで進められることでも人気です。この記事は、相続した実家の土地を税金対策のために活用したいと考えている人に、「戸建賃貸経営」のメリットとデメリット、確認しておくべきポイントについてわかりやすくお伝えしていきます。
戸建賃貸経営とは
戸建賃貸経営とは、相続などによって取得した土地に自己居住用の住宅ではなく賃貸用の住宅を建設して家賃収入を得る土地活用の1つです。従来の戸建賃貸経営は、居住者の転勤などを理由に一時的に貸し出される物件であったり、住み替え後に売却せずに貸し出されたりするなどの中古戸建が一般的でした。しかし、空き地のまま所有していても固定資産税や都市計画税などの税金が発生するだけなので、空き地の有効活用の手段の1つとして新築の戸建賃貸経営を選ぶ人が増えています。
アパート経営やマンション経営との違い
アパートやマンションは総戸数が多く、比較的大きな家賃収入が期待できる反面、多額の建設費用を必要とするため、空室によって思ったような家賃収入が得られなかった場合のリスクが大きいと言えます。また、不動産投資の人気の高まりによって過剰供給の状態であるため、新築後3年目以降、家賃収入の下落が顕著になっています。そのため、立地が良く、賃貸需要が見込める地域など、さまざまな視点において慎重に判断する必要があります。
戸建賃貸の需要と供給
安定した家賃収入が期待できることから、資産運用の中でも人気の高い不動産投資ですが、需要が少なく、過剰供給であった場合には、空室のリスクが高まってしまうことになります。その中でも
戸建賃貸は、比較的需要が高いと言われており、以下の理由が考えられます。
・騒音などが気にならない |
・ペットを自由に飼える |
・庭のある生活を楽しみたい |
・部屋数を増やしたい |
アパートやマンションなどの集合住宅の場合は、子供の走り回る音やテレビの音量など、近隣の生活音をストレスに感じる場合があります。しかし、戸建住宅では気にならないだけでなく、
自分たちが発する生活音を気にせずに済むでしょう。ペット可のアパートやマンションも増えてきましたが、廊下などは抱いて移動しなければならないなど、何かと制限されている場合があります。しかし、戸建住宅は何の制限もなく自由にペットを飼うことができます。
また、アパートやマンションは庭がなく、部屋数が少ないのが一般的です。戸建住宅では、家庭菜園などを楽しんだり、趣味の部屋を設けたりできるでしょう。
戸建賃貸経営のメリット
戸建賃貸経営はどのようなメリットがあるのでしょうか?戸建賃貸経営の主なメリットは以下の通りです。
・利回りが良い |
・変形地や狭小地でも経営可能 |
・立地に左右されにくい |
・入居期間が長いので空室リスクを抑えられる |
・相場よりも家賃を高めに設定できる |
・節税効果が期待できる |
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
利回りが良い
アパート経営やマンション経営の場合は、各部屋にキッチンやトイレなどを設置するため、建設費用が増えることで利回りが低くなります。しかし、戸建住宅の場合は建設費用をおさえることができるため、アパートやマンションと比べると、10%を超える利回りを期待できるのがメリットと言えるでしょう。
変形地や狭小地でも経営可能
所有している土地が変形地や狭小地などの場合は、アパートやマンションを建設するのに面積が足りない、形が合わないなどの理由で適しているとは言えません。しかし、戸建住宅は変形地や狭小地でも建設できるため、土地の持つ価値を最大限に発揮できると言えるでしょう。
立地に左右されにくい
賃貸住宅は立地条件の良さが需要に直結するため、少しでも立地条件の良い土地に物件を建設することが安定した家賃収入を得るための必須条件と言えます。しかし、戸建住宅の入居を希望する人は、小さな子供を抱えているケースが多く、騒がしい駅近くよりも駅から離れた閑静な住宅街を望んでいるケースも少なくありません。
入居期間が長いので空室リスクを抑えられる
公益社団法人日本賃貸住宅管理協会が発表した「日管協短観(2017年度上期)」の入居者別平均居住期間(全国)によると、一般ファミリーの入居期間は4~6年が58.1%と最も多く、次いで2~4年は25.6%、6年以上は16.2%と入居期間が長いのが特徴です。
マンションやアパートの場合には、間取りにある程度の限界があるため、ファミリー層でも子供が生まれたといったように、家族構成の変化が生じた場合などには引っ越してしまう可能性が高いと言えます。その点、戸建住宅は間取りが充実しているため、そういった理由で退去してしまう可能性は低いと言えるでしょう。結果として戸建住宅の入居期間の方が長くなるため、空室のリスクを抑えることができるのです。
相場よりも家賃を高めに設定できる
戸建住宅は、アパートやマンションよりも部屋数が多いなど、条件が優れている場合が多く、供給量が少ないため、相場よりも家賃を高めに設定しても安定した需要が期待できます。同じエリアのアパートやマンションよりも1割以上高く家賃設定しているケースもあると言われています。
節税効果が期待できる
相続で取得した土地をそのまま所有していると、まともに固定資産税と都市計画税が課税されます。しかし、賃貸住宅を建設することで土地の固定資産税は6分の1、都市計画税は3分の1に軽減されます(200平米を超えた部分の固定資産税は3分の1、都市計画税は3分の2)。また、減価償却費といった経費を所得と合算することで、所得税や住民税の支払額を減らすことができるなど、節税効果が期待できます。
戸建賃貸経営のデメリット
一方でデメリットとしては、どのようなものがあるのでしょうか?戸建賃貸経営の主なデメリットは以下の通りです。
・長い期間空室になるリスクがある |
・メンテナンスやリフォーム費用が高額になる |
・隣人トラブルが起こる可能性がある |
それぞれのデメリットについて詳しく見ていきましょう。
長い期間空室になるリスクがある
戸建住宅には、入居期間が長いというメリットがありましたが、裏を返すと一度退去すると長い期間空室になるリスクと隣り合わせと言えます。1月から3月の賃貸住宅の需要が高い時期を逃した場合には、半年以上空室が埋まらないことも珍しくないということを覚えておきましょう。
メンテナンスやリフォーム費用が高額になる
アパートやマンションの場合には、メンテナンスやリフォームの対象となる部屋が小さいため、退去時の費用が少なく済みます。しかし、戸建住宅の場合は、アパートやマンションと比べるとメンテナンスやリフォームの対象となる部屋が大きいほか、長く住み続けることによって部屋の汚れやキズ、破損なども積み重なっているため、メンテナンスやリフォーム費用が高額になるという点に注意しましょう。
隣人トラブルが起こる可能性がある
アパートやマンションは集合住宅であるため、隣人との騒音トラブルに発展する可能性が高いと言えますが、戸建住宅は隣家と離れて立っているので、騒音トラブルに発展する可能性は比較的低いと言えます。しかし、戸建住宅には町内会の役割など、近所付き合いが原因でトラブルに発展する可能性があります。隣人トラブルが発生した場合には、オーナーも立ち会うことになるため注意しましょう。
戸建賃貸経営でおさえておきたいポイント
戸建賃貸経営を安定して行うには、以下のようなポイントをおさえておくことも重要です。
・空室になると収益はゼロになる |
・時代によって間取りやデザインが変化する |
・売却するという出口も考えられる |
それぞれのポイントについて見ていきましょう。
空室になると収益はゼロになる
アパートやマンションは、1部屋空室になっても他の部屋の入居者がいる限り、家賃収入を得ることができます。しかし、賃貸住宅は1つの戸建に対して1つの契約であるため、入居者がいない場合には完全なる無収入です。アパートローンなどの融資を受けている場合は、返済計画に支障が生じることになるので注意しましょう。
時代によって間取りやデザインが変化する
昔の住宅は収納スペースが少なく、タンスなどの収納家具を購入して設置するのが一般的でしたが、現在の住宅はウォークインクローゼットや備え付けの収納が充実しているのが一般的です。また、応接間や和室などが設けられている住宅が多くありましたが、現在は和室や応接間を省いて、欧米のようにリビングの広い住宅が増えています。
古い設備や間取りのままでは需要が低く、借り手がすぐに見つからない可能性もあるので、支出を伴うとしてもリフォームやリノベーションを検討することが選択肢として重要と言えるでしょう。
売却するという出口も考えられる
戸建賃貸経営を行うことで安定した家賃収入を得ようと考えていたものの、思うような家賃収入を得ることができなかった場合には、売却するという選択が可能です。アパートやマンションは、売却という選択を行っても、金額の大きさが原因で流動性が低くなるため、すぐに買い手が見つからない場合があります。しかし、戸建住宅は、金額が小さいことで投資家だけでなく一般人からの需要も期待されるため、アパートなどの一棟物件と比べると万が一の事態でも速やかに売却しやすいと言えるでしょう。
まとめ
土地活用と聞くと、アパート経営やマンション経営を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、いま戸建賃貸経営が注目を集めています。戸建賃貸経営には、利回りが良い、変形地や狭小地でも経営可能、立地が左右されにくい、入居期間が長いので空室リスクを抑えられる、相場よりも家賃を高めに設定できる、節税効果が期待できるなどのメリットがあります。
しかし、長い期間空室になるリスクがある、メンテナンスやリフォーム費用が高額になる、隣人トラブルが起こる可能性があるなどのデメリットもあります。戸建賃貸経営のメリットとデメリットをよく理解してから、戸建賃貸経営を始めましょう。
監修矢野 翔一
【資格】宅地建物取引士、管理業務主任者、2級ファイナンシャルプランナー技能士(AFP)
有限会社アローフィールド代表取締役社長
不動産投資(アパート経営2棟)、株式投資、学習塾経営を行いながら、自身の経験と保有資格の知識を生かしながらライターとしても活動しています。
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