交通量の多い土地や、広大な土地を所有しているなら、
事業用定期借地権を検討してみましょう。
目次
事業用定期借地権とは

法律 | 借地権の種類 |
---|---|
借地法(旧法) | 旧借地権 |
借地借家法 | 普通借地権 |
一般定期借地権 | |
事業用定期借地権 | |
建物譲渡特約付借地権 | |
一時使用目的の借地権 |
事業用定期借地権は、借地借家法による5つの借地権のうちのひとつですが、具体的にはどのような権利なのでしょうか。
一般定期借地権
契約満了時に貸主側に更新を拒絶する正当な理由がなければ借主側の希望によって更新されたり、契約終了時に借主の建てた建物が残存している場合、貸主のその建物の買取を請求できたりするなどと、借地権は借主の権利が強く、利用しづらいという側面があります。
一方、一般定期借地権は借地期間を50年以上とし、期間の満了に際して借主は建物を取り壊して土地を返還する必要があります。一般定期借地権を利用することにより、貸主は安心して土地を貸すことができるのです。
事業用定期借地権
一方、最初に定めた期間で契約が終了し、契約期間満了時には借主は建物を解体して土地を返還しなければならない点は同様です。
建物譲渡特約付借地権
借地権の種類 | 借地期間 | 期間満了時 | |
---|---|---|---|
定期借地権 | 一般定期借地権 | 50年以上 | 期間満了時に更地にして返還 |
事業用定期借地権 | 10年以上 50年未満 | 期間満了時に更地にして返還 | |
建物譲渡特約付借地権 | 30年以上 | 期間満了時に貸主が建物を買い取る |
事業用定期借地権の期間

こうした問題を解決するため、平成20年1月1日より借地借家法が改正され、事業用定期借地権は10年以上50年未満の間で借地期間を定めるよう改められています。
期間によって建物買取請求ができる
建物買取請求権とは
建物買取請求権とは、借地契約の期間が満了した時に契約の更新をせず、土地を明け渡さなければならないときに、借主が建てた建物を貸主に買い取りを請求できる権利のことを指します。本来、借りた土地を返還する際は、元通りの更地にして返還する必要がありますが、まだ使える建物を壊すことは損失とみなされるようになったことで、建物買取請求権の制度が設けられるようになりました。
なお、借主側に賃料の不払いなどの契約違反があった場合は、貸主は建物買取請求に応じる必要はありません。
参照:借地借家法
事業用定期借地権の借地期間による区分
借地期間 | 契約の更新 | 建物買取請求 | 備考 |
---|---|---|---|
10年以上30年未満 | なし | なし | |
30年以上50年未満 | あり | あり | 特約でなしにできる |
事業用定期借地権の契約方法

事業用定期借地権は、公正証書で契約を結ばなければなりません。公正証書で契約するためには、公証役場に依頼し、公証役場が作成した公正証書に署名・捺印する必要があります。公証役場での署名・捺印においては貸主と借主、公証人で日程の調整が求められます。公正証書でない書面で事業用定期借地権を契約したとしても事業用定期借地権としては無効です。それだけでなく、普通借地権として取り扱われるケースもあります。
こうしたケースでは期間が満了しても返還を受けられないこともあるため注意が必要です。借地契約が決まった段階であらかじめ覚書を作成するなどの対策をしておくとよいでしょう。
事業用定期借地権の収益モデル

事業用定期借地の収益の計算式
借地による収益 |
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借地料ー(不動産所得による所得税・住民税)ー(固定資産税・都市計画税) |
建物を建てて貸し出す方法もある
例えば、1億円で建物を建てて50万円/月の賃料を得られるようになると、年間600万円、10年で6,000万円の賃貸収入となりますが、10年経った時点で事業者が倒産したり、借地期間が終了したりすると、収益がマイナスのままとなってしまいます。
隣接地と共同で事業用定期借地権を設定する
事業用定期借地権地のメリット・デメリット

事業用定期借地権のメリット
1.事業リスクを負わずに地代収入を得ることができる
通常、事業用定期借地権を利用しようとする土地であれば、居住用に向かないロードサイドにあることが多いですが、事業用の土地となると売却しようとしても利用者が限られます。一方で、自分で事業を始めるにはリスクが大きいと考える方もいらっしゃるでしょう。
事業用定期借地権であれば、事業者としても最初の負担を少なく事業を始めることができ、貸主は自分で事業するリスクを負わずに安定した収入を得られるというメリットがあります。
2.居住用よりも高い地代を設定できる
そもそも、ロードサイドにある土地などは土地の評価も高いことが多いです。居住用としては向かないものの、利用したい事業者がいれば、比較的高い価格で貸しに出せることが少なくありません。
3.相続税の軽減ができる
定期借地権の評価減 | |
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定期借地権の残存期間 | 評価減 |
15年を超えるもの | 20% |
10年超~15年以下 | 15% |
5年超~10年以下 | 10% |
5年以下 | 5% |
例えば、土地の相続税評価額が5,000万円の土地を30年で貸し出し、10年経過後に相続が発生した場合、5,000万円×20%=1,000万円の評価減を受けることができます。
事業用定期借地権のデメリット
1. 満期まで中途解約ができない
この点には十分留意しておく必要があるでしょう。
2. 固定資産税の減税はない
3. 利用者が限られる
事業用定期借地権に向いている土地

事業用定期借地権は10年~50年の間、事業者に土地を貸す契約です。中途解約できないため、基本的には長期間使わない土地であることが第一条件となるでしょう。
また、事業用定期借地権の借主は事業者になるため、その事業者にメリットのある立地でないといけません。事業用定期借地権を利用した事業としてはコンビニエンスストアやレンタルショップ、ラーメン店の他、大型ショッピングセンターやパチンコ店、ディスカウントストアなどが考えられます。
コンビニエンスストアやレンタルショップ、ラーメン店であっても駐車場を考えると数百坪の広さが必要となりますし、大型ショッピングセンターやパチンコ店であれば数千坪の広さが必要となることもあります。基本的には、数十坪程度の土地では事業用定期借地権にそぐわないことが多いです。
事業用定期借地権の活用事例

出店場所 | 住宅地路面郊外ロードサイド |
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契約期間 | 15年以上 |
敷地面積 | 120坪以上(間口20m以上) |
用途地域 | 第一種低層住居専用地域、工業専用地域以外 |
次に、大手パチンコ店のダイナムでは、出店用地として以下のような条件が提示されています。
出店場所 | 郊外 |
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契約期間 | 20年以上 |
敷地面積 | 2,000坪以上 |
道路幅員 | 6m以上 |
用途地域 | 準工業・工業・商業・近隣商業・無指定、契約期間 |
基本的に、一定以上の大きさの敷地面積がないと土地活用もできませんが、隣接地の所有者と一体で定期借地を結ぶようなことも可能です。
まとめ
居住用に使える土地であっても、事業用定期借地権を活用することで居住用より高い賃料を得られる可能性もありますが、一方でこれまで居住用として使っていた土地の場合には固定資産税の減税が受けられない点には注意が必要です。
交通量の多い土地や、広大な土地を所有しているなら、
事業用定期借地権を検討してみましょう。

監修逆瀬川 勇造
【資格】AFP(2級FP技能士)/宅地建物取引士/相続管理士
明治学院大学 経済学部 国際経営学科にてマーケティングを専攻。
大学在学中に2級FP技能士資格を取得。
大学卒業後は地元の地方銀行に入行し、窓口業務・渉外業務の経験を経て、2011年9月より父親の経営する住宅会社に入社し、住宅新築や土地仕入れ、造成、不動産売買に携わる。