- 日本とアメリカの金利差により円安が進んでおり、不動産市況にも影響を与えています。
- 不動産価格や家賃の上昇は投資家にとっては一部メリットといえる反面、リスクも複数あります。
- リスク対策を十分に取り、経済情勢に注視しながら不動産投資に取り組むタイミングを計りましょう。
目次
円安が進んでいる原因
近年の円とドルの為替状況は、2000年に入ってからは100円~130円台を推移していましたが、2006年から2013年にかけては100円を下回る状況が続いていました。そして、その後再び110円台を推移していたものの、2022年から一気に円安傾向に動き、2024年6月末頃には160円まで達する結果になっています。
円安を引き起こす大きな要因の1つとして挙げられるのが、日本とアメリカの金利差です。実際、アメリカの10年国債の金利は2020年には0.5%台だったものがその後大きく上昇し、2024年には4%を超える場面もありました。
それに対し、日本の10年国債の金利は、2012年以降、1%を下回る状態が続いていましたが、24年7月には1%を超える場面もありましたが8月には再び1%以下となっています。2016年以降はマイナスとなっている時期もあり、これだけ金利差があると必然的にお金は金利の高いほうに流れます。ドル円相場では、相対的にドルの価値が強くなるため、円安の状態を生む結果になるのです。
日本とアメリカの金利差が拡大している状況を改善するため、2024年3月に日銀は長く続いていたマイナス金利政策(日銀と金融機関の当座預金金利のマイナス金利を解除)を解除したものの、その後の金利の動向については緩和的な動きを続けると発表しました。そのため、今後の金利差を見越した多くの投資家が引き続き円を売りドルを買う動きに移り、円安に加速をかける結果となっていると予想されます。
また貿易収支も円安に大きな影響を与えているといわれています。日本は2021年以降輸出額よりも輸入額のほうが大きい、いわゆる貿易赤字の状況が続いていますが、このことも円安に影響があります。
円安が不動産市況に与える影響
海外資本の流入
世界各国の不動産に投資している不動産投資家からみれば、為替相場により同じ不動産をより安く買えるチャンスだからです。これは不動産全体にいえることであり、不動産市場が勢いを増す原因にもなっています。
仮に保有している物件が中古物件だとしても、日本だけでなく、円安に伴い割安さから海外からの需要が高まれば、買い手もしくは借り手が見つかりやすくなるでしょう。
建築資材の高騰
2024年現在、日本の建築資材の多くは輸入に頼っており、円安の影響で高騰しています。もちろん円安だけでなく、ロシアのウクライナ侵攻なども木材価格の高騰の原因ですが、結果として新築のマンションや一戸建てなど不動産価格の上昇につながっているのです。
ウッドショックと呼ばれた木材価格の高騰は21年~22年で、その後落ちつきを見せていました。しかし、24年春以降は再び上昇しています。もちろん、加えて土地価格の上昇も大きな要因です。
金利の引き上げ
また、イールドカーブコントロールも一部解除、国債の指値オペレーションに対しての方針を変更したことによりその後の日本の10年国債の利回りは緩やかな上昇傾向にあります。実際に日本の10年国債の利回りは2024年5月に11年振りに1%に、8月現在は0.8%台で推移しています。
国債の利回りの上昇は、投資家にとってはうれしいニュースですが、反面デメリットもあります。なぜなら、ローン(固定金利)の利回りは、10年国債の利回りに連動して動くことが多いからです。
事実、住宅ローンでは多くの金融機関で固定金利の緩やかな上昇がみられます。短期プライムレートに連動する変動金利は据え置く金融機関が多いものの、今後の利回りの上昇具合では変動金利も上昇する可能性は否定できません。
【イールドカーブコントロール(YCC)とは】
日本銀行が金融政策の一環として行う短期・長期の金利調整のことで、長短金利操作とも呼ばれます。
YCCは2016年9月の日銀金融政策決定会合で導入され、2024年3月の日銀・金融政策決定会合で廃止が決定されました。
不動産価格の上昇
ただ、不動産価格指数は地域によっても異なります。各地域別の2024年3月時点の不動産価格指数は以下のとおりです。
地域 | 住宅総合 | 住宅地 | 戸建て | 区分マンション |
---|---|---|---|---|
北海道 | 147.7 | 119.8 | 132.0 | 256.6 |
東北 | 135.7 | 128.2 | 120.2 | 248.6 |
関東 | 144.3 | 124.2 | 118.7 | 191.8 |
北陸 | 125.8 | (120.7) | (116.1) | (217.7) |
中部 | 110.4 | 95.5 | 103.3 | 191.5 |
近畿 | 138.8 | 117.8 | 116.8 | 202.9 |
中国 | 119.7 | 105.8 | 110.5 | (202.9) |
四国 | 112.7 | (101.3) | 106.4 | (119.9) |
九州・沖縄 | 131.5 | 116.6 | 108.5 | 239.0 |
円安時の不動産投資のメリット
不動産の資産価値が上昇する可能性
不動産の資産価値の上昇は地域によって異なるものの、東京23区ではマンションの平均価格が1億を超え、東京都全体でも約8,000万円と前年同月に比べ30%~40%も値上がりしている状況です。
家賃の上昇
しかし、現在のように所得(=実質賃金)が増えない中で、円安によって物の値段が上がる状態はよいインフレとは言えません。
家賃もインフレの影響を強く受けます。ただし、不動産価格は影響が比較的早く出るのですが、賃料はやや遅れて影響が出ます。これは「賃料の遅行性」と呼ばれる性質です。昨今の賃料は、増額の傾向にあり、2024年3月の契約ベースの総平均賃料は前月同年と比較しても0.8%増えています。さらに、東京では2.6%の上昇となっており その後も伸び続けています。
インバウンドによる需要増
需要増に応えるため、新たな宿泊施設の建設も進んでおり、今後の投資先が増えるよい機会でもあるといえます。
海外資本による開発増
なかでも、すでに15年以上前から北海道のニセコはブームが続き、投資の対象としては、すでに相当高くなっていますが、まだまだ投資が続いています。また、物価も相変わらず高騰している状態です。
ニセコだけでなく、北海道では、第二のニセコを狙った新たな地域に投資マネーが集まっています。
このように海外からの投資によって日本国内の観光地が多く開発されていく点は円安で得られる大きなメリットでしょう。
円安時の不動産投資のリスクと対策
為替リスク
どの投資にもいえることですが、投資を行う際には綿密な計画が不可欠です。どのタイミングで購入し、どれだけの利回りを得られるか、また融資を受ける際には利息の支払いも考慮しなければなりません。キャシュフローを考えながら、最終的にその不動産をどうするかといった出口戦略も考えておく必要があります。
また、為替も世界情勢で急激に変化する場合がありますので、常に為替の動きに注目しておくことが大切です。
仮に円高に転じた場合、不動産価格の低下やインバウンド需要の減少などが見込まれ、不動産市場に大きな影響を与える可能性があることも忘れないようにしておきましょう。
メンテナンス費用の増加
不動産投資を行ううえで物件の適切なメンテナンスは欠かせません。一時的に資金不足にならないよう、費用に余裕を持った修繕計画を立てるようにしましょう。
とくにこれからの日本は高齢化が進み、労働人口だけでなく、国全体の人口が減っていくことが予想されています。
外国人労働者を雇用しようにも給与が安く、弱くなった円でもらう給与では、魅力に欠けます。そのため、日本に来る外国人は増える傾向にありません。
もし雇用できたとしても以前より、高い給与を払う必要があり、結果的に、保有している物件の維持費用が高くなることも視野に入れておくことが大切です。
エリア選定の難しさ
実際、リモートワークの導入など、働き方がコロナ前と変わったこともあり、わざわざ都心に住むのではなく、郊外の物件の需要は一時伸びましたが、だいぶ止まりました。
前述の不動産価格指数をみても、東京都の区分マンションは前月比マイナス0.3と減少傾向にあり、逆に首都圏の一戸建て住宅の不動産価格指数は前月よりも3.7増加していることから、郊外の一戸建ての需要が伸びていることが推測されます。
都心へのアクセスがよければ、郊外でも十分と考える人も増えており、今後の交通整備なども視野に入れながら、投資するエリアを選ぶ必要があるといえるでしょう。
円安の時期だからこそ、物件の立地条件や今後の開発計画などに敏感になっておく必要があります。
金利リスク
ローンを利用する際には、キャッシュフローも考慮しながら、無理なく返せる金額を借り入れるようにしましょう。
まとめ
円安による不動産投資への影響は
メリットだけではありません!
この記事の監修者
不動産エコノミスト/社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
(株)船井総合研究所上席コンサルタント、等を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルなどを行うかたわら、ラジオNIKKEI「吉崎誠二の5時から”誠”論」などテレビ、ラジオのレギュラー番組に出演。また新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は年間多数。
著書:「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社)など11冊。
当然のことながら、世界各国の通貨に対して、一斉に円安ということは、可能性が低く、たとえば対ドルや対ユーロでは円安でも、他の新興国通貨とは円高の可能性もあります。しかし、貿易やクロスボーダー取引などにおいて、ドルでの(基軸通貨として)ドルを採用することが多いことから、対ドルでの円安は大きな影響をもたらします。