不動産投資の繰り上げ返済はおすすめしない?メリット・デメリットを解説します

2024.03.22更新

この記事の監修者

八木エミリー

八木エミリー

【資格】証券外務員一種/2級FP技能士

不動産投資の繰り上げ返済はおすすめしない?メリット・デメリットを解説します

不動産投資ローンの繰り上げ返済について悩んでいる人に向けて、繰り上げ返済のメリット・デメリット、注意点を解説します。

繰り上げ返済をするかどうか、
必要性をしっかり検討することが大切です。

目次

繰り上げ返済とは|するべきではない?

「不動産投資ローンを1日でも早く完済したい」「毎月のキャッシュフロー(手残り)を増やしたい」このようにお悩みの方には、自己資金を利用した繰り上げ返済が有効な手段の1つになります。不動産投資における繰り上げ返済とは、手元の現金を使ってローン元金の一部または全部を返済することです

また、「不動産投資では繰り上げ返済するべき?」という疑問に対する結論は、ケースバイケースになります。具体的には、以下の基準を参考にしてみてください。

【繰り上げ返済をしても良いケース】
・今後、物件を購入する予定がない
・自己資金が十分にある
・借り入れ中のローン金利が高い
【繰り上げ返済しない方が良いケース】
・次の物件を購入したい
・自己資金に余裕がない
・物件の利回りが低い(収益性が低い)
上記の判断基準については、繰り上げ返済のメリット・デメリットを確認すると理解が深まります。これから解説していくので、ぜひご一読ください。

繰り上げ返済の種類【期間短縮型・返済額軽減型】

繰り上げ返済には「期間短縮型」と「返済額軽減型」という2つの種類があります。
期間短縮型毎月の返済額を変えずに、返済期間を短くする方法
返済額軽減型返済期間を変えずに、毎月の返済額を少なくする方法
繰り上げ返済は、ローン元金へ充当するものです。不動産投資ローンの利息は元金を基準に計算するため、繰り上げ返済でローン元金を減らすと利息の返済負担を軽減できます。一般的に、利息の総返済額がより少なくなるのは「期間短縮型」です。

期間短縮型は返済期間が短くなるため、早く完済したい人に向いています。返済額軽減型は毎月の返済額が減るため、キャッシュフローを増やしたい人向きです。

繰り上げ返済のメリット

不動産投資で繰り上げ返済をすると、金銭的な負担だけでなく精神的な負担も軽くなるなど、複数のメリットがあります。それぞれ順番に解説していきます。

借金を早く返済できる

不動産投資では、数千万円~数億円といった高額な融資を受ける人も珍しくありません。ローン=借金ですから、精神的な負担を感じる人も少なくないでしょう。繰り上げ返済の「返済期間短縮額」を選択すれば、借金の早期返済に繋がります

支払う利息が少なくて済む

不動産投資ローンの利息は、元金に対して○%という割合で計算するものです。同じ金利水準でも、元金が2,000万円と200万円の場合では前者の方が利息の負担が大きくなります。繰り上げ返済で元金を減らせば、その分、支払う利息が少なくなる仕組みです。

次の借り入れに向けて動きやすくなる

個人が金融機関から融資を受ける際、借金の残高が審査対象となるケースが多いです。ここで言う「借金」とは、不動産投資ローンに限らず、住宅ローンやカードローンなどそのほかの借り入れも含みます。

「年収○万円の人に対する融資は○万円まで」のように限度額が決まっているケースもあるため、年収に対して借金の残高が多いと審査に通らないおそれがあるでしょう。繰り上げ返済をして借金の残高を減らしておけば、次の融資を受けやすくなる可能性があります

ただし、融資審査では資産背景や職業、担保となる不動産の価値などさまざまな観点から総合的に判断します。審査基準は金融機関によって異なるため、借金の残高が少ない=審査に通りやすいと一概には言えません

繰り上げ返済のデメリット

不動産投資での繰り上げ返済には、デメリットもあります。ご自身の状況や今後の方針によっては大きなデメリットになり得るため、順番に確認しておきましょう。

次の融資を引くのが難しくなる

繰り上げ返済のメリットでは「支払う利息が少なくて済む」「次の借り入れに向けて動きやすくなる」と解説しました。先ほど説明したように、繰り上げ返済で借金の残高を減らすことや利息の負担を減らすことは、不動産投資家にとってメリットと言えます。

しかし、金融機関との関係性を考えると良い面ばかりではありません。なぜなら、投資家が支払う利息が減ると、金融機関の利益が減るためです。投資家が支払うローン利息は、金融機関にとっての利益。繰り上げ返済をすると、金融機関が得られるはずだった利益が減ってしまいます。

そのため、繰り上げ返済をすると金融機関からの印象が悪くなるおそれがあり、次の融資を受けにくくなるかもしれません。現在の借り入れ先と長く付き合いたい場合、繰り上げ返済するべきかどうかは慎重に検討しましょう。

手数料が必要になる

金融機関によっては、繰り上げ返済に手数料がかかるケースがあります。

【手数料の具体例】
・一部繰り上げ返済は5,000円、全額繰り上げ返済は借り入れ残高×○%
・借り入れ開始から○年以内は繰り上げ返済額×○%
繰り上げ返済を何度も行うと余計な手数料がかかり、結果的に損をしてしまう可能性があります。手数料に関する条件は金融機関によって異なるため、借り入れ先へ確認してみてください。

自己資金が減る

自己資金に余裕がない場合、繰り上げ返済はおすすめできません。次の融資を受けることが難しくなる、突発的な支出に対応できなくなるといったリスクがあるためです

不動産投資ローンの審査では、契約者の資産背景や自己資金の有無が審査対象になるケースが多く、無理に自己資金を使うと、融資審査に通りにくくなるおそれがあります。

また、不動産投資では「突発的な支出に備える」という意味でも自己資金が必要です。とくに、水回り設備の故障など入居者の生活に直結するケースもあるため、すぐに使える現金を用意しておくべきでしょう。

自己資金を有効活用したいと考えている場合、次の物件の購入資金や現在保有中の物件への設備投資、あるいはほかの金融商品への投資など複数の選択肢があります。本当に繰り上げ返済するべきかどうか、慎重に検討しましょう

繰り上げ返済のシミュレーション

繰り上げ返済は、早期に行うほど利息の負担が軽くなります。ここでは「借り入れから1年後に繰り上げ返済するケース」と「借り入れから30年後に繰り上げ返済するケース」をシミュレーションしましょう(返済期間35年・繰り上げ返済額100万円)。

少々極端な例ですが、繰り上げ返済のタイミングによって効果がどれだけ変わるのかを確認してみてください。

【条件】
・借り入れ額:4,000万円
・返済期間:35年
・金利:2.5%
・返済方法:元利均等返済
・繰り上げ返済額:100万円
※1,000円未満四捨五入

【ケース1】借り入れから1年、100万円を繰り上げ返済

借り入れから1年後に繰り上げ返済した場合、シミュレーション結果は以下のとおりです。
期間短縮型で繰り上げ返済すると、繰り上げ返済をしない場合と比べて利息の支払い額が約130万円少なくなります。返済額軽減型では約48万円の負担軽減です。期間短縮型の方が元金の減りが早くなるため、利息負担の軽減効果が大きくなります。

【ケース2】借り入れから30年、100万円を繰り上げ返済

続いて、借り入れから30年後に繰り上げ返済した場合のシミュレーション結果について解説します。
期間短縮型で繰り上げ返済すると、繰り上げ返済をしない場合と比べて利息の支払い額が約12万円少なくなります。返済額軽減型では約6万円の負担軽減です。

借り入れから1年後に繰り上げ返済した場合は、期間短縮型で約130万円の負担軽減だったため、ケース1とケース2では負担軽減の効果に100万円以上の差があります。このように、繰り上げ返済は借り入れ開始から早い段階で行うほど、効果が高くなる仕組みです。

繰り上げ返済の注意点

ここまで解説したとおり、繰り上げ返済の返済期間短縮型では借金を早く完済でき、返済額軽減型では毎月の返済額が少なくなります。ただし、繰り上げ返済すべきかどうかは状況によって異なるため、注意点も確認したうえで判断してみてください。

返済額や期間の縮小だけにとらわれないこと

繰り上げ返済は返済額や期間を縮小できる点がメリットですが、本当にそれに見合った効果を得られるかどうかを慎重に検討しましょう

たとえば、デメリットでも解説したとおり、繰り上げ返済は手元の自己資金を使うため、次の融資を受けにくくなります。融資を受けられなければ、不動産投資の大きなメリットである「レバレッジ効果」を活用できません

不動産投資におけるレバレッジ効果とは、融資を利用して少ない自己資金で大きな利益を得られることです。レバレッジ効果は、できる限り少ない自己資金で利回りが高い物件に投資した時ほど効果が高くなります。

繰り上げ返済をすると購入する物件に対する自己資金の比率が高くなるため、レバレッジ効果が小さくなってしまいます。効率良く不動産投資を行ううえで、繰り上げ返済がベストな選択肢なのかどうか、再度検討してみてください。

不動産投資の一番のメリットと言っても過言でないのがレバレッジを効かせられることです。繰り上げ返済をすることはそのメリットをまったく享受しないことになります。

八木エミリー
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繰り上げ返済の必要性をよく考えること

昨今、日本では歴史的な低金利が続いています。金利が低いほど利息の負担が軽くなるので、不動産投資家にとって非常に有利な環境です。お金を安く借りられている状況下で、あえて繰り上げ返済をする必要があるかどうかは慎重に検討するべきでしょう。

アメリカをはじめとした先進国で金利が上がる中、日本は今の所低金利を続けています。繰り上げ返済をするということは安く買ったものを結局安い時に手放してしまったことと同義です

八木エミリー
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繰り上げ返済以外の方法を検討する

変動金利で融資を受けている場合、繰り上げ返済をすると将来的な金利上昇リスクの防止に繋がります。金利上昇リスクに備えるという意味では、繰り上げ返済が有効な手段の1つですが、繰り上げ返済だけでなくほかの選択肢があることも知っておくと良いでしょう。

たとえば、変動金利から固定金利への借り換えも選択肢の1つです。固定金利は借り入れ当初から完済まで金利が変わらないため、金利相場が低いうちに切り替えておけば将来的な金利上昇に備えられます。ただし、固定金利は変動金利よりも金利相場が高くなっています。借り入れ後は多少、金利が上がる点にご注意ください。

まとめ

不動産投資ローンの繰り上げ返済をすると、返済期間の短縮や毎月の返済額を軽減できるなど複数のメリットがあります。「借金を早く完済したい」「キャッシュフローを増やしたい」といった場合に有効です。

ただし、自己資金に余裕がない場合や次の物件を購入したい場合など、無理に繰り上げ返済しない方が良いこともあります。デメリットや注意点をしっかりと確認しておきましょう。

不動産投資をどこまで続けていきたいのか今一度確認しましょう。

八木エミリー
八木 エミリー

繰り上げ返済をするかどうか、
必要性をしっかり検討することが大切です。

この記事の監修者

八木エミリー

八木エミリー

【資格】証券外務員一種/2級FP技能士

新卒時に野村證券に入社。新人時に営業成績東海地方1位を獲得。2016年より不動産を購入。現在7棟を所有。2019年より独立系ファイナンシャルアドバイザーとして主に富裕層向けに資産活用のアドバイスを行うほか、一部上場企業の社員向けセミナー講師としても活躍。オンラインサロン「em会」にて金融知識の啓蒙に務める傍ら、地域活性事業など活動も行う。東京駅に近いバイリンガルスクール「WONDER KIDS BILINGUAL PREP SCHOOL」オーナー。「元証券ウーマンが不動産投資で7億円」など執筆。

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