なぜ不動産投資は「生命保険の代わりになる」のか。その理由やリスクについて説明します

2023.10.30更新

この記事の監修者

吉崎 誠二

吉崎 誠二

不動産エコノミスト/社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

なぜ不動産投資は「生命保険の代わりになる」のか。その理由やリスクについて説明します

「不動産投資がどうして生命保険の代わりになるのか」と疑問に思う人に、不動産投資と生命保険の関連性について解説します。

不動産投資が生命保険の代わりになること以上に
知っておくべきことはたくさんあります。

目次

不動産投資が生命保険の代わりになると言われる理由

インフレ傾向が続き、新型コロナウイルスのまん延が続く中、先行きのわからない経済情勢のなかで安定した資産形成を行いたいと考える人も多く、その手段として、近年各種資産への投資の期待が高まっています。投資のなかでも不動産投資は、継続的な家賃収入や節税効果などの金銭的なリターンに加えて、生命保険代わりになるという側面もあり、魅力的な投資との認識が広まっています。

不動産投資とは、不動産を取得し他人にその不動産を貸し出すことで賃料収入を得る投資ですが、ローンの選択によっては投資を行った方(=資産保有者)が亡くなった場合には不動産が現物資産として家族に遺されるからです。

物件購入時に金融機関からの融資を利用した場合には、団体信用生命保険に加入するのが一般的です。団体信用生命保険とは、購入者が亡くなったり、高度の障害を患ったりした際に、ローン残債を保険金で返済してもらえる仕組みです。残された家族には、借金なしの収益不動産が資産として遺され、生活を守ってくれるといえます。

万が一のときに投資用不動産を遺族に遺せる

投資用不動産をローンで購入する際、多くのケースで団体信用生命保険に加入します。金融機関によっては、団体信用生命保険の加入を融資の条件としている場合もあります。

この団体信用保険に加入すると、投資家がローンを残して亡くなった場合、残債の支払いを免除してもらうことができます。死亡や高度障害に加えて、がんと診断された際に保険が適用になる、「がん団信保険」や、特定疾病にり患した際にローン返済が免除される特約などもあり、生命保険と同様な厚い保障を選ぶことも可能です。

家賃収入が保険の代わりに入る

賃貸物件を所有している人が亡くなった場合、当然ですがその不動産自体も相続財産となります。そのため、遺族は賃貸物件を相続すれば、被相続人に変わって家賃収入を得ることができます。

ローン返済の負担がない収益物件はキャッシュフローが増加し、遺族としては遺族年金のように定期的な収入を確保することができるというメリットがあります。

団信保険に加入しておらず、残債がある場合は、相続で残債も引継ぐことになるので注意が必要です。必ず加入しておいた方がいいでしょう!

吉崎 誠二
吉崎 誠二

物件を売却すれば、まとまったお金を残せる

団体信用生命保険に加入していれば、投資家の死亡時に遺族は、ローンの残債なく物件を取得できます。もちろん、そのまま継続して家賃収入を得ることもできますが、すでにローンがない不動産ですので、遺族が賃貸経営を望まなければ売却することもできるでしょう。

エリアや規模によって異なりますが、一般的に不動産は、数千万円以上という価格帯での取り引きになるので、物件売却により、遺族はまとまったお金を手にいれることができます。

団体信用生命保険と生命保険、どちらがよりお得?

団体信用生命保険による不動産投資の保険効果についてご理解いただけたかと思います。では団信と生命保険はどちらがよりお得といえるのでしょうか?まずは団信の仕組みから解説し、一般的な生命保険(定期型・終身型)と比較してみましょう。

団体信用生命保険とは

団体信用生命保険について一度おさらいしておきましょう。不動産購入時にローンを組む際に加入を求められることが多い保険商品です。

債務者に万が一のことがあった場合、債務不履行になることを避ける目的でかけられる保険であり、契約者および保険金受取人は融資先の金融機関となり、被保険者は債務者である投資家です。保険料はローン残高に応じて金利に上乗せして払うのが一般的です。

そのため補償額はローン残額、ローンの契約期間はローン完済までと、一般の生命保険とは仕組みが異なることを理解しておきましょう。

加入条件に注意

団体信用生命保険は、契約する際に本人の健康状態の確認があります。そのため、健康状態に問題がある場合には、団体信用保険に加入できない可能性も考えられるでしょう。

「ワイド団信」など持病がある方も契約可能なタイプもありますが、保険料となる金利の上乗せ率が高くなります。また、法人として不動産を取得する場合は団信を利用することはできません

団体信用生命保険と生命保険の違い

では団体信用生命保険と一般的な生命保険(死亡保険)の違いを比較してみましょう。死亡保障を目的とした生命保険は、掛け捨て型の定期保険と貯蓄型の終身保険に分けてシミュレーションしてみます。

契約者:30歳男性
団体信用生命保険…3000万円の不動産を35年ローンで購入。金利は2%(注:ここでは比較のために保障内容をほぼ同等に揃えていますが、3000万円で購入した不動産が死亡保障時に同価格で売却できるという保証はありません。金額は一例です)

団体信用生命保険定期保険終身保険
契約期間ローン完済まで65歳まで終身
保険料ローン残高に応じて金利を上乗せ例)5,984円/月※2例)56,220円/月
掛け捨ての有無なしありなし
総払込保険料例)3,262,100円※1例)2,513,280円例)23,612,400円
65歳未満の
保障内容
ローン残高を保障
(遺族には不動産プラス家賃収入が遺る)
3,000万円3,000万円
65歳以上の
保障内容
ローン残高を保障
(遺族には不動産プラス家賃収入が遺る)
なし3,000万円
ここで注目したいのが保険料です。団信はローンの金利に上乗せされる形で支払うため、毎月のローン返済額に含まれるわけですが、支払いの原資は家賃収入です。一方生命保険は支払いの原資はお財布からであり、掛け捨て型の定期保険は比較的毎月の保険料が低いのに比べ、終身保険はかなりの負担となります。

総払込保険料は住宅支援機構のシミュレーションより、3000万円をフルローンで借りた場合で算出していますが、頭金を用意すればもっと低い保険料で、安心を得ることが可能となります。

生命保険代わりの不動産投資で背負うリスク

不動産投資には生命保険の代わりになる一方で、リスクも存在します。不動産に投資をすることで発生する独自のリスクについても、事前に理解しておきましょう。

運用がうまくいかないリスク

空室リスク

不動産投資での主な収入源は家賃収入です。しかし、物件によっては入居者が入らず家賃を得られないというケースもあるでしょう。とくに、投資対象が居住用不動産の場合には、近隣に競合物件が多数あると、差別化を計らないと入居率が低くなり、収入全体が下がってしまうリスクがあります。

家賃滞納リスク

不動産投資ならではのリスクとして、入居者が家賃を払えない状態になる家賃滞納リスクがあります。家賃滞納は家賃が入らないだけでなく、滞納者がいる限りほかの入居者を募集することもできず、デメリットしかありません。さらに、滞納が続いて強制的に退去させるためには、訴訟に関する手間や費用も発生します。

家賃滞納は、入居者の経済事情により発生することが多いため、完全に未然に回避することは難しいでしょう。ただし、事前対策として、入居審査の厳格化や、保証会社の利用を義務付ければ、リスクを減らすこともできます。

自然災害などの突発的なリスク

不動産投資では、所有不動産が自然災害などの被害を受けるリスクがあります。そうなると通常の賃貸経営が継続できず、家賃収入がストップしてしまいます。地震、土砂崩れ、津波、火災などの災害はいつ起きるかわかりません。

ただし、物件所在地ごとに発生の可能性の高い災害は、ハザードマップの確認などである程度予想することができます。また、災害警戒区域にある場合などは、不動産会社からの重要事項説明書に記載されていますので、事前のチェックを必ず行いましょう。

また事前チェックに加え、万が一に備えて、火災保険や地震保険にも忘れず加入することをおすすめします。購入時にしっかり確認しておきましょう。

家賃が下落するリスク

不動産収入を引き継いだからといえども、家賃収入がそのまま利益になるというわけではありません。賃貸経営を営んでいくうえで必要な経費や、将来の修繕などに備えてストックを蓄えておかなければならず、管理のノウハウもある程度は学ぶ必要があります。さらに、物件の経年劣化や周辺の需要の変化による賃料の下落も避けては通れない問題です。

そのため、遺族年金代わりになるだろうと見込んでいた家賃収入が充分な額でなくなる可能性も考えられます。

売却したいときにすぐ換金できないリスク

不動産は、株式やFXなどの投資と比較すると流動性の低さが顕著です。株式やFXは売却したい時にすぐに売却できます。しかし、不動産は買主を見つけてから契約・決済を行うまでに最低でも数か月はかかります

希望する価格で売却するために半年以上の時間を要することもあるでしょう。そのため、不動産投資は投資対象の不動産の流動性が低く、現金が必要な時にすぐに換金できない可能性がある点にも注意してください。

さらに、時間だけでなく、売却時にはお金もかかります。売却を行なった不動産会社や抵当権抹消の登記を行なった司法書士に対する報酬や仲介手数料など。また、売却時には、場合により税金も発生します。

売却により利益が発生したら、不動産譲渡所得税が課税されますし、売買契約書に対する印紙税などもあります。不動産を売却するのには、時間とコストがかかるという点に注意しておきましょう。

相続税が多額になるリスク

資産が多く、相続税が基礎控除を大幅に超える見込みがある人や、そもそも相続税対策を目的として不動産投資を行っている人は要注意。団信に加入することで、死亡時にローンが完済されてしまうことで、課税資産の総額が引き上げられてしまい、相続税がかさんでしまう可能性があります。

生命保険という言葉だけに捉われず、投資、事業であることを忘れずに

不動産投資は投資からくる金銭的なリターンに加えて、生命保険の代わりになる点など、ほかの投資にはない魅力があります。一方、空室や家賃滞納が発生するリスクがあることや、建物の維持管理の手間やコストがかかることも忘れてはいけません。

あくまでも不動産投資は事業ですので、生命保険としての一面だけフォーカスすると、思ったような効果がなかったとか逆に損をしてしまったといった結果になりかねません。

団体信用生命保険にかかるコストは金利に含まれている場合も多く、数字が可視化しにくいものですが、金利が上乗せされる=キャッシュフローの低下につながることは意識するべきです。ライフプランや資産状況に合わせて、どの程度の保障が必要なのかを割り出し、不動産投資だけでなく、生命保険や貯蓄でバランスよく備えられるように組み立てていきましょう。不動産投資を始める際にファイナンシャルプランナーなどの第3者的な専門家に相談するのも有効です。

まとめ

万が一の不幸によって亡くなった場合、残された家族のことを考えると生命保険の加入は欠かせません。保証内容や保険料は、ライフスタイルによって変動しますが、その点は不動産投資も同様です。得られる家賃とローン返済のバランスを見ながら、自分に合った不動産投資をしていくことをおすすめします。

ただし、完全に生命保険の代わりとして選択するには、不動産投資はリスクが高すぎますので、事前準備をしっかり行ったうえで検討することをおすすめします。

不動産投資が生命保険の代わりになること以上に
知っておくべきことはたくさんあります。

この記事の監修者

吉崎 誠二

吉崎 誠二

不動産エコノミスト/社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

(株)船井総合研究所上席コンサルタント、等を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルなどを行うかたわら、ラジオNIKKEI「吉崎誠二の5時から”誠”論」などテレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は年間多数。著書:「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社)など11冊。

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