法人化が必要か見極め、
手順やコストの把握をして進めることが重要。
目次
不動産投資における法人化とは|個人と法人の違い
投資家は個人の場合は、物件の購入・管理を全て個人で行いますが、法人の場合は、法人の代表として資本金を支出し、法人が物件を購入、保有、管理することとなり、投資家は法人から役員報酬という形で収入を受け取ることになります。
また、個人か法人では、さまざまな違いがあります。
「家賃収入に対する税率」が違う
「損失の繰越期間」が違う
「減価償却費の償却方法」が違う
「役員報酬の経費計上」が違う
「生命保険の経費計上」が違う
法人化のメリット
【メリット1】経費の範囲が広がる
また、生命保険の経費計上可能額も大きくなります。2019年6月に国税庁から公表された改正により、経費算入できる保険料の上限が定められ、さらに、最高解約返戻率によって経費計上できる金額にも制限が設けられました。それでも、法人の方が個人事業者の生命保険料控除額よりも、大きな経費計上ができます。
【メリット2】赤字を10年繰り越し可能
たとえば、ある年に1,000万円の損失が発生し、翌年は100万円の利益が発生した場合、損失の繰り越しをすることで、翌年分の利益100万円を非課税にすることができ、控除しきれない残りの900万円の損失は、さらに翌々年以降に繰り越せるということです。
このように、繰り越し控除は数年に渡り利益を圧縮し、節税を可能にしてくれるため、赤字を出した後の立て直しに活用できます。また、繰越期間が3年しかない個人に比べて、10年という長期での繰り越しが認められている法人は、より長い間、節税効果を得られるといえるでしょう。
【メリット3】融資が受けやすくなる
また法人は、権利義務の主体となることができるという意味で、法律上「人」として扱われるという点もメリットの1つです。「人」として扱われるといっても、個人のように寿命があるわけではないため、死亡や相続に関することを金融機関側が考えなくてよくなります。
融資を受けやすくなったり融資の金額が増えたりすれば、その分、投資できる不動産も増え、事業を拡大していくことにもつながります。
【メリット4】決算月が任意
また、決算月の決め方について、法人は好きな月に決算月を決めることができますが、時期を誤れば損をする可能性もあります。たとえば法人は最初の2期は消費税を納税する必要がないため、この効果を最大限にいかすには、初年度の期間を1年より短くすることは避けた方がいいでしょう。
また、繁忙期を決算月にすると、申告が期限を過ぎて延滞税が課せられるリスクも生じるため避けるようにしましょう。
【メリット5】短期譲渡税が安い
法人の場合は不動産の所有期間に関して長期・短期の区分がないため、取得してから5年以内に売却しても30%前後の税率となることから、所有期間5年以下で物件を売却する出口戦略を持っている場合、物件購入前から法人化することをお勧めします。
法人化のデメリット
【デメリット1】手間やコストがかかる
一方で、法人を設立するためにはさまざまな手続きが必要になります。書類の作成や印鑑作成から公証役場、法務局への提出などを経て、最短でも1週間以上かかるでしょう。とくに書類作成は初めて経験する方も多いため、時間がかかるだけでなく複雑で面倒に感じる人も多いでしょう。
また、設立時はもちろん、会社を維持するためにも当然ながら費用がかかります。 税理士や社会保険労務士への報酬や住民税など、年間数十万円程度のランニングコストがかかるため、それに見合う収入がないとコスト倒れしてしまうことになります。
【デメリット2】赤字でも住民税負担がある
【デメリット3】途中で法人化すると取得税などがかかる
法人化を目指している方の中には、まずは個人事業主として投資を始め、軌道に乗ったら法人化するという計画を立てている方もいらっしゃいますが、途中から法人化に切り替える際には費用や手間がより多くかかってしまいます。
さらに、個人で取得した不動産を法人へ移すためには、不動産の名義を個人から法人に変更する必要があり、登記費用はもちろんのこと、司法書士に登記を依頼する場合は報酬も必要になります。さらに、登録免許税や不動産取得税も改めて納税しなくてはならず、最初から法人化するケースよりも費用がかかってしまいます。
法人化すべき人とは
給与所得が多い
サラリーマンの方は、給与所得と不動産所得が合算されて所得税が計算されるため、不動産所得には高い税率で所得税が課税されることになります。仮に、給与所得700万円、不動産所得100万円として所得税・住民税を計算すると、超過累進税率により不動産所得に適用される税率が43%となります。
これに対し、仮に不動産所得100万円のみだった場合に適用される税率は15%となります。 他に給与所得があり既に個人の所得が高い場合には、不動産事業を法人で行い、税負担を軽減する方法が考えられます。
不動産所得が多い、または今後多くなる
また、現在はそこまで規模は大きくなくても、今後不動産投資を拡大していく予定がある場合には、個人で不動産賃貸業を行うと将来的に税率が高くなる可能性があります。
これらの場合には法人化を検討して、少しでも早くから税負担を軽減できるようにしましょう。
法人を維持する手間がかけられる
法人化すべきタイミングはいつ?
個人税>法人税となったとき
しかし、法人税率が約35%になるのは課税所得が800万円超の法人です。不動産投資の多くは中小企業の扱いとなる、所得800万円以下が一般的です。そして所得800万円以下の会社の法人税率は約24%、これは個人の課税所得330万円超~695万円以下の税率30%を下回ります。
課税所得330万円は給与収入でいうと500~600万円くらいの年収に相当するため、これくらいの収入があるのであれば既に法人化に適切なタイミングであると言えるでしょう。
物件購入前から
法人には、税率の違いだけでなく、先述しましたが「10年間の損失繰越」や「減価償却費の任意償却」といったメリットがあります。 とくに「いずれは法人化したい」と考えている方は、最初から法人化してしまってもよいでしょう。もし、すでに個人経営を行っている方が法人化する場合、所有している賃貸物件の名義変更手続きが必要となり、その際には不動産取得税や登録免許税などのコストがかかってしまいます。しかし最初から法人化することで、こういった手続きの手間やコストを抑えることができます。
私の場合は、区分投資から一棟もの投資に進んでいきました。当初は、個人で物件を所有していましたが、将来事業を拡大することが明確になってきたので一棟もの投資に移る段階で法人を設立いたしました。
不動産投資の法人化のやり方
設立事項の決定
ちなみに、同一所在地で同一商号を使用することはできません。所在地が異なれば、同一商号や類似商号を使用することは可能ですが、既存の企業から損害賠償請求されてしまう可能性も考えられます。
トラブルを回避するためにも、同一市区町村内に登記を予定している商号と同じ、もしくは類似した既存商号はないか、事前に調べておきましょう。
印鑑の作成
機械彫りなら最短即日出荷してくれる店舗もありますが、手彫りの場合2週間程度かかることもあるため、手彫りを依頼する際は、余裕を持って準備しましょう。
書類の作成
まず必要なのが「定款」と呼ばれる、会社の決まりごとを記載したルールブックで、「会社の憲法」とも呼ばれます。定款があることで、何かトラブルがあったときでも法的に対処することができます。
次に、登記申請に必要な書類を準備します。設立登記申請書や印鑑証明、収入印紙などがありますが、必要書類は株式会社か合同会社かによっても異なるため、書類に漏れがないか入念なチェックが必要です。
登記申請日が会社設立日になるため、希望の設立日がある場合はその日に間に合うように準備を進めましょう。
法務局に届出
その際に必要となるのが登記事項証明書、いわゆる登記簿謄本です。登記事項証明書の取得には手数料がかかりますが、印鑑や身分証は必要ありません。法務局の窓口や郵送で受け取ることができます。オンライン申請も可能なので、チェックしてみましょう。
まとめ
一方で、法人は設立や維持のための費用がかかるなど、デメリットもあります。
それぞれ法人化のメリットやデメリットを把握し、自身の状況と照らし合わせて、適切な判断をするようにしましょう。
私の経験上、法人を設立し代表取締役に就任すると、精神的な緊張感と責任感が生まれました。そしてしっかり社会貢献できる不動産賃貸業を進めようと気合を入れ直したという記憶があります(笑)。ご参考までに。
法人化が必要か見極め、
手順やコストの把握をして進めることが重要。
この記事の監修者
宅地建物取引士/AFP/J-REC公認 不動産コンサルタントなど
2010年、世田谷区内の中古区分ワンルームマンション購入から不動産投資をスタート。区分・一棟・戸建て・日本・海外…と幅広く不動産賃貸業を営む(2022年3月時点)。
現在は総合マネープロデューサーとして、人生におけるマネーリテラシーの重要性をメディアやセミナーなどで伝えている。年間のセミナー登壇数は300本を超える。
「満室バンザイ」(平成出版)、「不動産はあなたの人生を変えてくれる魔法使い 女性の願いを叶えてくれる最幸マイホーム購入術」(ごきげんビジネス出版)など執筆。
私は、このポイントが法人化の最大のメリットと考えています。個人で不動産投資をした場合は、個人属性による与信額の枠内でしか融資を受けられませんが、法人化すると理屈上青天井で融資を受けられる可能性があります。