不動産投資で法人化すると節税になる?メリット・デメリットを解説します

2024.06.25更新

この記事の監修者

アユカワタカヲ
アユカワタカヲ

宅地建物取引士/AFP/J-REC公認 不動産コンサルタントなど

不動産投資で法人化すると節税になる?メリット・デメリットを解説します

不動産投資で節税効果を高めるために「法人化」する方法がありますが、当然デメリットも。「法人化」について詳しく解説します。

法人化が必要か見極め、
手順やコストの把握をして進めることが重要。

目次

不動産投資における法人化とは|個人と法人の違い

不動産投資をするのであれば、節税効果を得られる法人化をした方が良い、という話を聞いたことがあると思います。不動産投資の法人化とは、不動産投資事業の運営主体を「個人」から「法人」に切り替えることです。

投資家は個人の場合は、物件の購入・管理を全て個人で行いますが、法人の場合は、法人の代表として資本金を支出し、法人が物件を購入、保有、管理することとなり、投資家は法人から役員報酬という形で収入を受け取ることになります。

また、個人か法人では、さまざまな違いがあります。

「家賃収入に対する税率」が違う

個人と法人では、家賃収入に対する所得区分が異なります。個人では給与所得などと合算して総合課税として所得税・住民税が決まります。法人は法人税等(法人税、法人住民税[市県民税]、法人事業税の3種類からなる)に一本化して課税されます。

「損失の繰越期間」が違う

個人も法人も、青色申告をすれば損失を翌年以降に繰り越すことができます。しかし繰り越せる期間に違いがあり、個人は3年間、法人は10年間まで(2018年4月1日以降に生じた赤字分から)となっています。

「減価償却費の償却方法」が違う

減価償却とは、経年によって価値が減少していく資産を購入した場合、耐用年数によって取得費を案分し、経費に計上していく方法です。個人の場合は毎年決められた額は全額償却しなければなりませんが、法人の場合は、経費にする金額を自由に決められる任意償却なので、利益の調整ができます。

「役員報酬の経費計上」が違う

個人と法人の経費において、大きな違いの1つが人件費です。個人の場合は、生計を共にする配偶者や親族に青色事業専従者給与を支払えば経費計上が可能ですが、法人の場合は、家族を役員にして役員報酬を支払えば経費計上可能で、さらに、退職金も経費計上が可能になります。

「生命保険の経費計上」が違う

個人と法人の経費で、他にも大きく違うところが生命保険です。個人の場合は、生命保険料控除の上限年間12万円まで(各保険料の上限は4万円)と定められていますが、法人の場合は、全ての金額の経費計上(損金算入)は1つの契約につき年間30万円まで(※法人保険の種類・最高解約返戻率によって、支払保険料の20%程度~全額を経費計上可能)と定められています。
不動産投資で法人化すると、経営上、経理上、税制上、さまざまな特典が用意されていると言えるでしょう。

法人化のメリット

これまであげてきた個人と法人の違いをもとに、法人化のメリットをそれぞれ解説します。

【メリット1】経費の範囲が広がる

法人の場合、家族を役員にして報酬を支払うことや退職金の積み立てが可能になり、これらを全て経費として計上することができます。退職金の経費計上は法人にのみ認められるもので、個人には退職という概念がないため、適用されません。

また、生命保険の経費計上可能額も大きくなります。2019年6月に国税庁から公表された改正により、経費算入できる保険料の上限が定められ、さらに、最高解約返戻率によって経費計上できる金額にも制限が設けられました。それでも、法人の方が個人事業者の生命保険料控除額よりも、大きな経費計上ができます。

【メリット2】赤字を10年繰り越し可能

繰越損失は、その年度で損益通算してもなお赤字になる場合に、何年かに渡って損失を繰り越すことができる制度です。個人の場合は最大3年間の繰り越しができますが、法人の場合、最大10年間繰り越しが可能です。

たとえば、ある年に1,000万円の損失が発生し、翌年は100万円の利益が発生した場合、損失の繰り越しをすることで、翌年分の利益100万円を非課税にすることができ、控除しきれない残りの900万円の損失は、さらに翌々年以降に繰り越せるということです。

このように、繰り越し控除は数年に渡り利益を圧縮し、節税を可能にしてくれるため、赤字を出した後の立て直しに活用できます。また、繰越期間が3年しかない個人に比べて、10年という長期での繰り越しが認められている法人は、より長い間、節税効果を得られるといえるでしょう。

【メリット3】融資が受けやすくなる

法人は個人と比べて、登記によって会社の情報が公示されています。また、個人に比べて、より厳密な会計処理が求められていることから、社会的信用が高くなるため、融資の審査に通りやすくなります。

また法人は、権利義務の主体となることができるという意味で、法律上「人」として扱われるという点もメリットの1つです。「人」として扱われるといっても、個人のように寿命があるわけではないため、死亡や相続に関することを金融機関側が考えなくてよくなります。

融資を受けやすくなったり融資の金額が増えたりすれば、その分、投資できる不動産も増え、事業を拡大していくことにもつながります。

私は、このポイントが法人化の最大のメリットと考えています。個人で不動産投資をした場合は、個人属性による与信額の枠内でしか融資を受けられませんが、法人化すると理屈上青天井で融資を受けられる可能性があります。

アユカワタカヲ
アユカワタカヲ

【メリット4】決算月が任意

個人の場合、税法上で事業年度が1月1日~12月31日の期間と定められているため12月が決算月になりますが、法人の場合は、好きな「月」を「決算月」とすることができるため、計画的な節税対策が可能です。個人の場合は3月15日までに確定申告をする必要がありますが、法人は決算月から2か月後までに申告と納税をすれば問題ありません。

また、決算月の決め方について、法人は好きな月に決算月を決めることができますが、時期を誤れば損をする可能性もあります。たとえば法人は最初の2期は消費税を納税する必要がないため、この効果を最大限にいかすには、初年度の期間を1年より短くすることは避けた方がいいでしょう。

また、繁忙期を決算月にすると、申告が期限を過ぎて延滞税が課せられるリスクも生じるため避けるようにしましょう。

【メリット5】短期譲渡税が安い

不動産を売却したときに利益が出れば、譲渡所得税がかかります。個人の場合は、不動産を売却した年の1月1日時点で所有期間が5年以内の場合を短期譲渡所得税、5年を超えると、長期譲渡所得税となり税率が異なります。短期譲渡所得税率が「約39%」、長期譲渡所得税率が「約20%」(2037年までは別途復興特別所得税が所得税額に対して2.1%かかります)と2倍近い差です。

法人の場合は不動産の所有期間に関して長期・短期の区分がないため、取得してから5年以内に売却しても30%前後の税率となることから、所有期間5年以下で物件を売却する出口戦略を持っている場合、物件購入前から法人化することをお勧めします。

法人化のデメリット

ここまで、不動産投資における法人化のメリットを挙げてきました。高い節税効果が期待でき、さらに融資も受けやすくなるなど、良いことだらけだと思えてきます。しかし、当然ですがデメリットもあります。

【デメリット1】手間やコストがかかる

個人の場合は、税務署に開業届を提出するだけです。記入する項目も十数項目しかないため5分もあれば完成します。また許可などをもらう必要もないため、窓口での待ち時間もほぼありません。

一方で、法人を設立するためにはさまざまな手続きが必要になります。書類の作成や印鑑作成から公証役場、法務局への提出などを経て、最短でも1週間以上かかるでしょう。とくに書類作成は初めて経験する方も多いため、時間がかかるだけでなく複雑で面倒に感じる人も多いでしょう。

また、設立時はもちろん、会社を維持するためにも当然ながら費用がかかります。
税理士や社会保険労務士への報酬や住民税など、年間数十万円程度のランニングコストがかかるため、それに見合う収入がないとコスト倒れしてしまうことになります。

【デメリット2】赤字でも住民税負担がある

個人であれば、赤字になった時には所得税や住民税の納付は必要ありませんが、法人は赤字の場合でも自治体によって多少の違いはありますが、年間7万円程度の住民税均等割を納税する義務があります。

【デメリット3】途中で法人化すると取得税などがかかる

個人名義の物件を法人の所有に変更する場合には、改めて不動産取得税と登記費用が必要になります。

法人化を目指している方の中には、まずは個人事業主として投資を始め、軌道に乗ったら法人化するという計画を立てている方もいらっしゃいますが、途中から法人化に切り替える際には費用や手間がより多くかかってしまいます。

さらに、個人で取得した不動産を法人へ移すためには、不動産の名義を個人から法人に変更する必要があり、登記費用はもちろんのこと、司法書士に登記を依頼する場合は報酬も必要になります。さらに、登録免許税や不動産取得税も改めて納税しなくてはならず、最初から法人化するケースよりも費用がかかってしまいます。

法人化すべき人とは

個人の不動産投資家で法人化した方が得になる人はどんな人なのか、詳しく解説します。

給与所得が多い

家賃収入以外に給与収入のあるサラリーマンの方は、法人化を検討するのがお勧めです。

サラリーマンの方は、給与所得と不動産所得が合算されて所得税が計算されるため、不動産所得には高い税率で所得税が課税されることになります。仮に、給与所得700万円、不動産所得100万円として所得税・住民税を計算すると、超過累進税率により不動産所得に適用される税率が43%となります。

これに対し、仮に不動産所得100万円のみだった場合に適用される税率は15%となります。
他に給与所得があり既に個人の所得が高い場合には、不動産事業を法人で行い、税負担を軽減する方法が考えられます。

不動産所得が多い、または今後多くなる

すでに個人で1棟マンションや複数のアパートを所有しているなど、不動産賃貸業を大きな規模で行っている場合には、家賃収入も多額であるため、超過累進税率により高い税率で所得税が課税されて毎年の税金の負担が重くなる傾向にあります。

また、現在はそこまで規模は大きくなくても、今後不動産投資を拡大していく予定がある場合には、個人で不動産賃貸業を行うと将来的に税率が高くなる可能性があります。

これらの場合には法人化を検討して、少しでも早くから税負担を軽減できるようにしましょう。

法人を維持する手間がかけられる

「法人化のデメリット」で先述しましたが、法人を開始、さらに維持するにはさまざまな手間やコストがかかります。これらを負担に感じない方であれば、法人化をすることをお勧めします。

法人化すべきタイミングはいつ?

法人化するタイミングは、投資開始前から法人化するケースと、事業の規模が大きくなってから個人から法人に切り替えるケースの2つの選択肢があります。

個人税>法人税となったとき

税額が低くなるタイミングで法人化するのも1つの目安といえます。一般的には個人の場合課税所得金額が900万円を超えると税率が43%になり、法人税の最大税率約35%を超えるため、このラインで法人化すべきという意見もあります。

しかし、法人税率が約35%になるのは課税所得が800万円超の法人です。不動産投資の多くは中小企業の扱いとなる、所得800万円以下が一般的です。そして所得800万円以下の会社の法人税率は約24%、これは個人の課税所得330万円超~695万円以下の税率30%を下回ります。

課税所得330万円は給与収入でいうと500~600万円くらいの年収に相当するため、これくらいの収入があるのであれば既に法人化に適切なタイミングであると言えるでしょう。

物件購入前から

収支に関係なく、最初から法人化するのも1つの方法です。

法人には、税率の違いだけでなく、先述しましたが「10年間の損失繰越」や「減価償却費の任意償却」といったメリットがあります。
とくに「いずれは法人化したい」と考えている方は、最初から法人化してしまってもよいでしょう。もし、すでに個人経営を行っている方が法人化する場合、所有している賃貸物件の名義変更手続きが必要となり、その際には不動産取得税や登録免許税などのコストがかかってしまいます。しかし最初から法人化することで、こういった手続きの手間やコストを抑えることができます。

私の場合は、区分投資から一棟もの投資に進んでいきました。当初は、個人で物件を所有していましたが、将来事業を拡大することが明確になってきたので一棟もの投資に移る段階で法人を設立いたしました。

アユカワタカヲ
アユカワタカヲ

不動産投資の法人化のやり方

ここまで、法人化のメリット・デメリットを解説してきましたが、実際に法人化するにはどのような手続きが必要なのでしょうか。詳しく解説します。

設立事項の決定

まずは、会社を作るために必要な設立事項を決定します。設立事項は商号、本店所在地、資本金、発起人、役員、事業内容、事業年度などです。

ちなみに、同一所在地で同一商号を使用することはできません。所在地が異なれば、同一商号や類似商号を使用することは可能ですが、既存の企業から損害賠償請求されてしまう可能性も考えられます。

トラブルを回避するためにも、同一市区町村内に登記を予定している商号と同じ、もしくは類似した既存商号はないか、事前に調べておきましょう。

印鑑の作成

会社を設立するにあたって、代表者印、銀行印、角印を用意しましょう。代表社印は法務局に、銀行印は金融機関へ届け出る際に必要です。

機械彫りなら最短即日出荷してくれる店舗もありますが、手彫りの場合2週間程度かかることもあるため、手彫りを依頼する際は、余裕を持って準備しましょう。

書類の作成

最初に決めた会社の設立事項をもとに、書類を作成します。

まず必要なのが「定款」と呼ばれる、会社の決まりごとを記載したルールブックで、「会社の憲法」とも呼ばれます。定款があることで、何かトラブルがあったときでも法的に対処することができます。

次に、登記申請に必要な書類を準備します。設立登記申請書や印鑑証明、収入印紙などがありますが、必要書類は株式会社か合同会社かによっても異なるため、書類に漏れがないか入念なチェックが必要です。

登記申請日が会社設立日になるため、希望の設立日がある場合はその日に間に合うように準備を進めましょう。

法務局に届出

登記完了後は、法人口座の開設や税務署、法務局などへ届出をします。とくに税務関連の届け出は期限が決まっているので、速やかに手続きを済ませましょう。

その際に必要となるのが登記事項証明書、いわゆる登記簿謄本です。登記事項証明書の取得には手数料がかかりますが、印鑑や身分証は必要ありません。法務局の窓口や郵送で受け取ることができます。オンライン申請も可能なので、チェックしてみましょう。

まとめ

個人と法人にはさまざまな違いがありますが、とくに節税の面では法人にメリットがあるといえます。不動産投資で大きく利益を得ている人や、今後さらなる投資拡大を検討している人、不動産で相続対策・贈与対策をしたい人にとっては、法人化をすることで節税が期待できます。

一方で、法人は設立や維持のための費用がかかるなど、デメリットもあります。

それぞれ法人化のメリットやデメリットを把握し、自身の状況と照らし合わせて、適切な判断をするようにしましょう。

私の経験上、法人を設立し代表取締役に就任すると、精神的な緊張感と責任感が生まれました。そしてしっかり社会貢献できる不動産賃貸業を進めようと気合を入れ直したという記憶があります(笑)。ご参考までに。

アユカワタカヲ
アユカワタカヲ

法人化が必要か見極め、
手順やコストの把握をして進めることが重要。

この記事の監修者

アユカワタカヲ
アユカワタカヲ

宅地建物取引士/AFP/J-REC公認 不動産コンサルタントなど

2010年、世田谷区内の中古区分ワンルームマンション購入から不動産投資をスタート。区分・一棟・戸建て・日本・海外…と幅広く不動産賃貸業を営む(2022年3月時点)。

現在は総合マネープロデューサーとして、人生におけるマネーリテラシーの重要性をメディアやセミナーなどで伝えている。年間のセミナー登壇数は300本を超える。

「満室バンザイ」(平成出版)、「不動産はあなたの人生を変えてくれる魔法使い 女性の願いを叶えてくれる最幸マイホーム購入術」(ごきげんビジネス出版)など執筆。

●紹介されている情報は執筆当時のものであり、掲載後の法改正などにより内容が変更される場合があります。情報の正確性・最新性・完全性についてはご自身でご確認ください。
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