シミュレーションせずに投資物件を買うことは
大切なお金を投げ捨てるようなものです。
目次
不動産投資にシミュレーションが必要な3つの理由
不動産投資を行ううえでなぜ「シミュレーション」が必要なのか。その理由として、大きく3つのことが挙げられます。
【1】キャッシュフローの目安を知るため
シミュレーションを行えば、毎月いくらのキャッシュフローが出るのかおおむね予測できます。キャッシュフローを試算しておけば、年間の収支計画を立てられることはもちろん、買い増しをするなど長期的な計画を考えられるようになります。
また、不動産投資では入居者の予定外の退去や、建物の修繕などによる急な出費が発生する可能性もあります。物件を購入する際にシミュレーションをすることでキャッシュフローの目安を知り、急な出費が発生したとしても対応できるようにしておくことが大切です。
【2】物件購入の判断材料になるため
収益の見込める物件を選ぶことは、不動産投資を成功させるにあたって前提条件。シミュレーションが正しくできるようになると、その物件の正しい収益性、資産性が分かるようになり、「本当にその物件は儲かるのか」という判断ができるようになります。優良な物件を選ぶためにも、必ずシミュレーションをしましょう。
【3】リスク対策になるため
しかし、このようなリスクがあるのかどうかは、購入前の段階である程度見当がつくものです。また、あらかじめ見当がついていれば対策もできます。とくに、「利回りの誤算」、「投資エリアの選択ミス」、「融資計画の失敗」などの「購入時のリスク」については、事前のシミュレーションをすることで、「失敗する物件を購入してしまった」ということを避けられます。
不動産投資のシミュレーションで分かること3つ
【1】収支の概算が分かる
また、新築・中古物件を問わず、基本的に家賃は購入時点より徐々に安くなっていくものです。オーナーチェンジ物件で、もともとの家賃が相場より安く、新しい入居者を付けるときに少し高い賃料を設定できるというケースもあります。しかしそれでも、長期的な視点で見れば、家賃は下落していくものです。
シミュレーションをするときに家賃の下落率を設定しておけば、5年後、10年後の収支計画にも大きなブレは生じません。家賃が変動することを前提にシミュレーションをして、もし将来的に収支が悪化しすぎるようであれば、購入を見送るという選択もできるでしょう。
【2】必要な融資額が分かる
シミュレーションをすれば「この金利だと収益率が低い」「もっと融資期間を長くしないとキャッシュフローが出ない」といった判断ができるようになります。それらの条件をふまえて、融資先や融資条件の変更を検討したり、あるいは希望の融資条件に当てはまる物件を探し直したりできるようになります。
【3】売却のタイミングが分かる
家賃収入を目的とした長期投資であっても、出口戦略を考えておかなくてはなりません。不動産は、売却するタイミングによって売却価格や税金が変わってきます。シミュレーションで長期の収支予測をたてておけば、「何年後に、いくらで売るのか」という出口戦略が考えやすくなります。
不動産投資のシミュレーションに必要な情報と進め方
不動産投資のシミュレーションの流れは、下記となります。それぞれ詳しく解説していきます。
①購入したい物件の収益データをそろえる
区分マンションであれば管理費や修繕積立金のデータは、通常販売図面に掲載されますので確認しましょう。大型投資物件では「ランニングコスト」の書類も揃えて、データを把握しておくべきです。その他、不動産投資物件の固定資産税に関する資料も集めておきましょう。これらの書類の多くは、窓口となった不動産業者から入手できます。
②利用できる融資先を選択する
まずは、物件の耐用年数や個人の属性ですが、借り入れ可能額に影響するものになります。また、返済期間は長くなればトータルの利息の支払い額は増えますが、毎月の支払額は少なくなりますのでキャッシュフローに余裕ができます。キャッシュフロー重視の不動産投資をしたい場合は、返済期間はできるだけ長めに設定しましょう。
最後に金利の種類ですが、不動産投資は長期に及ぶため、金利の額がわずかに変動するだけでも大きな影響を受けます。固定金利にするか変動金利にするか、将来的な金利の動きなども予測しながらどちらを選択するかを考えなければなりません。これらの条件を総合的に検討して、自分にとって有利な融資先を選択しましょう。
③実際に返済額をシミュレーションする
さまざまなケースを想定してシミュレーションすることで、「どのようなケースでどのようなリスクが生じる可能性があるか」「その際にどのような対応が可能か」を事前に検討することができ、この作業を慎重に行うことでリスクをコントロールすることができます。
不動産投資は先の長い投資です。順調にいけば長期にわたり利益を出します。そして収支シミュレーションから、その収益物件を売却する「出口」のタイミングも分かってきます。不動産投資に要した費用が、5年、10年と計画した期間で回収されたとき、不動産投資は成功したと言えます。
概算ではなく毎月の収支から算出する長期的で細やかなシミュレーションが不動産投資成功への一歩と言えるでしょう。
不動産投資のシミュレーション事例
【事例1】新築一棟ものアパートを購入の場合
【物件価格:8,000万円】
【満室時想定家賃収入:500万円】
【購入時諸費用:400万円】
【年間経費:100万円】
【借入額:6,000万円】
【返済方法:元利均等返済(年12回)】
【返済期間:30年】
【表面利回り】
500万円 ÷ 8,000万円 × 100 = 6.25
この計算により、この物件の表面利回りは「6.25%」という結果になりました。
【実質利回り】
(500万円 × 90% - 100万円)÷(8,000万円 + 400万円)× 100 ≒ 4.17
この計算により、この物件の実質利回りは「約4.17%」という結果になりました。
リスクとして空室率10%を想定しています。
【キャッシュフロー】満室の場合
金利の違いによって、返済額とキャッシュフローは次のように異なります。
●金利1.0%の場合
年間返済額:2,315,796円
年間キャッシュフロー:500万円 -(100万円+231万6,000円)≒ 168万4,000円
●金利1.5%の場合
年間返済額:2,484,864円
年間キャッシュフロー:500万円 -(100万円+248万5,000円)≒ 151万5,000円
●金利2.0%の場合
年間返済額:2,661,252円
年間キャッシュフロー:500万円 -(100万円+266万1,000円)≒ 133万9,000円
【事例2】中古区分マンション購入の場合
【物件価格:2,000万円】
【想定家賃収入:8万円/月(96万円/年)】
【購入時諸費用:100万円】
【年間経費:14万4,000円】
【借入額:1,500万円】
【返済方法:元利均等返済(年12回)】
【返済期間:30年】
【表面利回り】
96万円 ÷ 2,000万円 × 100 = 4.8
この計算により、この物件の表面利回りは「4.8%」という結果になりました。
【実質利回り】
(96万円 - 8万円 - 14万4,000円)÷(2,000万円 + 100万円)× 100 ≒ 3.50
この計算により、この物件の実質利回りは 約3.5%という結果になりました。
リスクとして1ヶ月の空室を想定しています。
【キャッシュフロー】満室の場合
金利の違いによって、返済額とキャッシュフローは次のように異なります。
●金利1.0%の場合
年間返済額:578,940円
年間キャッシュフロー:96万円 -(14万4,000万円+57万9,000円)≒ 23万7,000円
●金利1.5%の場合
年間返済額:621,216円
年間キャッシュフロー:96万円 -(14万4,000万円+62万1,000円)≒ 19万5,000円
●金利2.0%の場合
年間返済額:665,304円
年間キャッシュフロー:96万円 -(14万4,000万円+66万5,000円)≒ 15万1,000円
【事例3】新築区分マンション購入の場合
【物件価格:3000万円】
【想定家賃収入:10万5000円/月(126万円/年)】
【購入時諸費用:200万円】
【年間経費:16万円】
【借入額:3000万円】
【返済方法:元利均等返済(年12回)】
【返済期間:30年】
【表面利回り】
126万円 ÷ 3,000万円 × 100 = 4.2
この計算により、この物件の表面利回りは「4.2%」という結果になりました。
【実質利回り】
(126万円 - 16万円)÷(3,000万円 + 200万円)× 100 ≒ 3.4
この計算により、この物件の実質利回りは 約3.4% という結果になりました。
新築なので入居率100%で計算しています。
【キャッシュフロー】満室の場合
金利の違いによって、返済額とキャッシュフローは次のように異なります。
●金利1.0%の場合
年間返済額:115万8,000円
年間キャッシュフロー:126万円 -(16万円+115万8,000円)≒マイナス5万8000円
●金利1.5%の場合
年間返済額:124万2,000円
年間キャッシュフロー:126万円 -(16万円+124万2,000円)≒マイナス14万2,000円
●金利2.0%の場合
年間返済額:133万円
年間キャッシュフロー:126万円 -(16万円+133万円)≒マイナス23万円
シミュレーションの具体例によって、表面利回りと実質利回りの違いがはっきりします。また新築区分の場合は年間のキャッシュフローではマイナスになってしまいます。
今回は空室リスクのみを取り上げましたが、実際には家賃滞納のリスクもありますし、設備の故障などによる、急な修繕費が発生する可能性もあります。家賃収入は今後下がる可能性が大きく、利回りやキャッシュフローは減っていくのが一般的です。
さまざまなリスクを想定しながらシミュレーションすることで、その物件の本当の収益性がわかります。また、条件を変えてシミュレーションすれば、効率の良い運用方法も見つかり、売却タイミングをつかむのにも役立ちます。
一般的に「区分」と「一棟もの」とを比べると、「区分」の方が表面利回りと実質利回りの乖離が大きいです。これは「区分」の方が、家賃に対しての経費の比率が高いからです。特に区分マンション投資をお考えの方は、実質利回りとキャッシュフローのシミュレーションをしっかりしてくださいね!
不動産投資のシミュレーションを行う際のポイント
エクセルを活用するシミュレーション方法
項目や計算期間などをアレンジしながら自由にシミュレーションができますが、初心者が白紙の状態から自分でシミュレーションをするのは難しいかもしれません。一部の不動産会社では、実質利回りなどが計算できるExcelファイルを提供しています。不動産会社のホームページからダウンロードできるのでうまく活用しましょう。
アプリを活用するシミュレーション方法
近年は、多様なスマホアプリがあるため、スマホで物件の利回りや収支分析を行うことも可能なものもあります。物件情報やローン情報を入力するだけで、自動的にキャッシュフローの推移や融資の返済計画のシミュレーションができるアプリや、入力した情報から複数の物件を比較することもできるものなど、さまざまな種類のアプリがあるので、自分に合ったアプリを見つけてシミュレーションしてみましょう。
困ったら不動産会社に依頼する
ただし、提示されたシミュレーション結果に問題がないかを見極めなくてはなりませんので、不動産会社に依頼する場合も、シミュレーション方法に対する理解は必要です。
不動産会社は物件を販売するために、よりいい数字の物件に見せようとするのも事実です。「家賃設定があっているか?」「経費はそれ以上にかからないか?」「想定以上の空室が発生した場合は?」などを、ひとつひとつ疑うことも必要です。
まとめ
ただし、シミュレーションはあくまでも入力したデータに基づく予測です。入力するデータの値が変わればシミュレーションの結果は大きく異なりますし、将来の事情が予測の範囲を外れればシミュレーション外の結果が生じます。不動産投資では長期に及んで資金を回収していくことになるので、予測外の事象が生じることも想定しておくことが必要です。
その際の対応も含め複数のパターンでシミュレーションを行うことは、リスクを下げることにつながります。不動産会社から物件を紹介されたときは、できるかぎり正確なデータを基にシミュレーションを行い、不動産投資を成功させる可能性を高めていきましょう。
シミュレーションせずに投資物件を買うことは
大切なお金を投げ捨てるようなものです。
この記事の監修者
アユカワタカヲ
【資格】宅地建物取引士/AFP/J-REC公認 不動産コンサルタントなど
2010年、世田谷区内の中古区分ワンルームマンション購入から不動産投資をスタート。2022年3月現在、区分・一棟・戸建て・日本・海外…と幅広く不動産賃貸業を営む。現在は総合マネープロデューサーとして、人生におけるマネーリテラシーの重要性をメディアやセミナーなどで伝えている。年間のセミナー登壇数は300本を超える。「満室バンザイ」(平成出版)、「不動産はあなたの人生を変えてくれる魔法使い 女性の願いを叶えてくれる最幸マイホーム購入術」(ごきげんビジネス出版)など執筆。
不動産投資は将来に渡って、トラブルゼロで続けられることなど滅多にありません。必ず何か嫌なことが起きます。「空室」「滞納」「突発的な修繕費用の発生」など。事前のシミュレーションで、リスクを想定内にしておくことが重要です。